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竜の番 -リュウノツガイ-  作者: 月乃詩
第四章 課外授業編
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29話 未確認飛行物体



「やっぱり、それしかないよな」


結局夜通し盛り上がったお菓子会で、二人はとある作戦を立てた。


「「屋上飛行大作戦」」


普段は立ち入り禁止とされている、屋上の演習場。箒での飛行練習や、規模の大きい魔法の練習などに使われる場所だ。強い結界が張られているため学校外から中を視認することはできないうえ、防音機能もある。


「校内の生徒には見えちゃうのが問題だよな」

「夜なら何とかなるんじゃないか?」

「うーん……屋外演習場の向かいが下級生の寮になってるから、そううまくはいかないだろうな」


確かに、ふと窓の外を見たらグリフォンが飛んでいたなんて状況になったら学校中が大騒ぎだろう。二人はしばらく考え込んだが、ふとヴァンは顔を上げた。


「黒いでっかい布を被せて飛ばせば、見られても巨大な鳥で済むかも」

「確かに……翼と頭部以外を隠せば……なんとかなる……のか?」


レオはエリアスをじっと見つめながら唸ったが、ヴァンは「それしかないって!」と盛り上がった。


レオはゴリ押しに近いこの作戦にあまり乗り気ではないようだったが、かといってそれ以降二人で案を出し合っても、それよりいい案は思い浮かばない。


結局、黒い布作戦は採用されることになった。


「とりあえず、布の調達からだな。透けないやつじゃないと…」

「学生寮の廊下くらいなら消灯後でも忍び歩きできるけど、寮の外に出るなら見回りの情報もないとまずいよな」


話し合いの末、レオは透けない黒い布の調達、ヴァンは校内警備網の調査をするということで決まった。

勢い半分で進んだこの作戦をレックスは面白がっていたが、エリアスは終始心配そうにそわそわとしていた。


その日からヴァンは、レックスと手分けして一週間分の警備情報を集め、地図と記録を残していった。記憶に頼るだけでもよかったが、レオにも共有できた方がいい。

校内の地図なんかは一度校内を散歩するだけで簡単に書くことができるので、ヴァンは自分の記憶力が久々にまともに役に立って嬉しかった。


調べたところ、学校内の見回りは一週間を通して教師陣での持ち回りとなっており、見回りを突破しやすいのは週末の夜であることがわかった。

週末は当直に入れる教師が少ないのか、普段数人で回るところをベリーが一人で警備にあたっており、本人にやる気がないため番のクリムが既定のルートを歩くだけなのだ。


レオとヴァンは夜な夜な作戦会議をしながら、次の週末を決行日とすることに決めた。



◇◆



そして、決行の日。

夜な夜な集合した二人は、ローブのフードを目深に被り、周囲を警戒しながら物陰に隠れた。


「いよいよだな、エリアス」


ヴァンの呼びかけに、エリアスは瞬きで答えた。優美な尻尾を身体にピタリと巻き付けている様子から、緊張が感じられる。


ベリーをかなり高く買っているらしいレオは、そんなエリアスを撫でながら不安そうに尋ねてきた。


「ベリーだけど、魔法を使って監視してるってことはないのか?」

「あいつは基本部屋で紅茶飲んでるだけだよ」


ヴァンは自分で作った校内の地図を見ながら、こともなげに答える。


「その代わり、見回りをしてる番のクリムは自分の周りに空間把握魔法を常に張ってるらしい。レックスが気持ち悪がるからわかるんだけど」


レックス曰く、不快感は動物的な感覚によるもので、クリムの結界が近付くと縄張りを主張するかのようなプレッシャーを感じるらしい。

ヴァンの説明を聞いて、レオは余計に不安になったようだ。


「本当に今日決行して大丈夫なのか?クリムの魔法の範囲って、ベリーの塔を丸ごと覆うくらい広いんだろ?」

「タイミングを計れば大丈夫。俺……というか、レックスを信じてくれ」


『任せろ』


声とともに黒い炎の中からぬっと姿を現したレックスは、翼を広げた。広い学校の廊下の横幅いっぱいに翼を広げた後姿はたくましく、もう幼竜とは呼べない大きさだ。


目立つ見た目で寮を飛び進む姿にレオはずっとハラハラしているようだったが、ヴァンは終始落ち着いていた。元々悪さをするのは好きだし、何より下調べに自信があったのだ。


夜目のきくレックスは、暗闇の中をゆったりと飛びながら鼻をひくつかせ、時折ピンと尻尾を立てて止まっては、あたりを警戒しながら皆を先導した。


――うーん、空飛ぶ猫みたいだ。


ヴァンは呑気にそんなことを考えていたのだが、その思考を読んだレックスに即睨まれたので、そっとレオの後ろに隠れた。


殿からついてきているエリアスの警戒のしようはレックスの比ではなかった。目まぐるしく首を前後に揺らして辺りを見回しては、全員の一挙一動に鋭く反応し、不安そうにレオを見る。


「エリアス、安心しろよ。絶対飛ばしてやるからな」


ヴァンは元気づけようとそう声をかけた。しかし間髪入れずにレオに引っぱたかれ、エリアスにまで噛みつかれた。


「いて!なにすんだ!」

(こっちのセリフだ!声なんか出すなよ、見つかったらどうすんだおっかない!)


なんだかんだとじゃれ合いながらも、二人と二匹は無事、誰にも見つかることなく屋外演習場の入口扉まで辿り着くことができた。


『クリムは隣の棟だ。早く済ませないとこちらに来るぞ』

「どれくらい時間があるんだ?」


レオの質問にはヴァンが答えた。


「先週の記録通りなら、1時間くらいはあっちにいるはずだ」

「急がないとな……鍵かかってるけど、こじ開けるか?」

「いいや、任せろ」


ヴァンは扉の前に進み出た。屋外演習場は使用時以外、魔法で施錠されていることは下調べ済みだ。その魔法が複雑なものではないこともヴァンは知っていた。


「ここの施錠は、物理的な鍵と構造は一緒なんだよ。ただ鍵そのものがなくて、魔法で代用しないといけないってだけ」


そう話しながら、ヴァンは魔力を指先に集め、金色の光でできた奇妙な形の鍵をレオに見せた。


光の鍵が鍵穴に挿入されると、すぐにガチャンと音を立てて扉が開いた。


「詠唱しないのか?お前」


レオが驚いたように言ったが、ヴァンはキョトンとしていた。


「こんなちょっとした魔法に詠唱なんて要らないだろ。小便を便器の中に当てるくらいの難易度だ」

「……なかなか難しくないか」


2人はくだらない話をしながら、屋外演習場に踏み入る。上級生が使う場所なので、ヴァンもレオもここに入るのは初めてだ。


想像よりも随分、広々とした場所だ。グラウンドは硬められた赤土でできており、石灰で様々な図形が描かれている。 おそらくは魔法の飛距離を測ったり、コントロールを行うための目印になるのだろう。

隅には、的に使われているらしき人形がほうぼうちぎれた哀れな姿でグラウンドの隅に積み上げられていた。


「急げ」


レオは黒い布を取り出してエリアスに被せる。レックスは黒竜なのでもともと目立たないのだが、光を反射する鱗が月明かりをあちこちに乱反射して結局目を引いてしまうため、やはり黒い布を被せることにした。


レオが軽々やっていたのでヴァンもそれに倣おうとしたのだが、渡された布は予想に反して水桶のような重量だった。ヴァンはガクンと膝を折ってからふんぬと踏ん張り、レックスの協力もあってなんとか被せることができた。


「おい、この布どっから仕入れた?いくらなんでも重すぎる」

「いつも家具を買ってる店。カーテンとかに使うやつらしいよ?透けたらまずいからとりあえずいちばん高いのを買ってきたんだけど」

「高ければいいってもんじゃないだろ、金持ちはみんなアホなのか?」


ヴァンは悪態をついたが、レオは何が悪いのか分かっていないようだった。

エリアスの様子を窺うと、翼こそ出ているものの、やはり布の重みに戸惑っているようだ。飛び立つ気配はなく、忙しなくうろうろしている。


「助走をつけたらいけるんじゃないかな」


レオの提案を聞いて、エリアスは重そうな体をぐんと持ち上げ、ゆっくりと走り出した。


ドドッ…ドドッ…


月明かりの下で、真っ黒で大きな羽の生えた物体が重々しい音を立てて走っている。なんとも奇妙な光景だ。


ふと月が分厚い雲に隠れ、ヴァンたちの視界は夜闇で満たされた。一際大きく地面を踏み切る音の後、巨大な翼が空を切る。


すぐに雲は過ぎ、美しい月が姿を現した。その月光を遮るのはエリアスだ。レックスとは違う、空を走るかのような美しいシルエット――は、黒い布のせいで台無しだが、巨大な鳥類様の翼の影だけでもかなり迫力がある。


ここで、レオとヴァンは誤算に気付いた。


レックスの翼と、エリアスの翼は全く構造が違う。エリアスの翼は風切羽でできており、羽ばたくたびにかなりの音がしてしまっているのである。

特に飛び立つ時の羽音は凄まじく、鳥類のバサバサというそれではなく、ほぼ衝撃音に近いものだった。


大型の猛禽類の羽ばたく音は10メートル先にも響くという。では、グリフォンの羽ばたく音は――?


「まずい、戻れ、エリィ!」


飛び立ったばかりのエリィに手を振り、呼び戻そうとするレオ。


しかし、既に遅かった。


向かいの学生寮の窓が次々と開き、眠い目を擦った初等部の子供たちが顔を出す。


その眼前には、仔馬ほどはあろうかという大きさの、黒い謎の飛行物体。


「う、うわーーーーーー!!!!」

「きゃああああああ」

「なにあれ!?」

「鳥じゃない?」

「後ろ足は鳥じゃないよ!」

「みかくにんひこうぶだったいだ!」


阿鼻叫喚とはまさにこのことだ。


エリアスも驚いたようで、すぐに空を駆けてレオとヴァンの元へ引き返してきた。運良く月が再び雲に潜ったため、子供たちは夜闇に紛れ謎の生き物が突然姿を消したように見えただろう。


「逃げるぞ!」


ヴァンはレックスに引っ張られ、レオはエリアスに跨って、初等部の廊下を跳ねるように走り抜けた。


「おいレオ!聞いてないぞ、エリアスにもう乗れるのか?俺だってまだ騎乗はできないのに」

「言ってる場合か!」


『ダメだ、来る』


レックスの苦々しい一言の直後、警告するかのような低い猫の声が廊下に響き渡った。


マーーーーーーオ……


踏み出した足の先からじわりと、実体のないぬるま湯に浸かったかのような違和感が広がる。


「終わった」


レオが呟いた。


次の一歩を踏み出すよりも早く、一行の行く手を赤毛の魔女が塞いでいた。

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