第11話 救いの魔女
ベリーは右手に杖、左手にヴァンの首根っこを掴んでいたが、ヴァンのことはすぐに放した。
「下がっていろ。今かけた回復薬はほとんど気休めだ」
「…ベリー」
さっきかけられたのは回復薬だったらしい――そんなことはどうでもよかった。
「レックス!レオ!エリアス…!」
ヴァンは悔しくて、一人でも救いたくてもがいた。しかし、レックスの負った傷が深いのだろう、背中は酷く痛み、とても立ち上がれそうになかった。
「まずはその醜い足をどかしてもらおう」
ベリーはヴァンに構わず、厳しい声でそう告げた。
「へえ、そうかい?」
レオの頭にブーツを押し付けていた女はせせら笑ったが、ヴァンはその後ろで動いた影に気付いて息を呑んだ。敵の女の背後に、巨大な獣が居る。
女もヴァンの顔を見て気付いたようだった。慌てて振り向いたがもう遅い。闇の中からベリーとおなじ燃えるような赤毛の獣が現れ、グッと姿勢を低くしたかと思うと――女の片脚を噛みちぎった。
「ぎゃああああ!!!!」
女は激しい悲鳴をあげたが、ベリーは眉ひとつ動かさない。赤毛の獣はレオを軽く咥えてベリーの元へ運んできた。レオは気を失ってしまっていた。
「レオ…レオ!」
呼びかけても返事はない。番のエリアスがあれだけ弱っているのだから当然かもしれない。
「ああ、グリフォンの番がいたね」
ベリーがこともなげに言うと、杖のひと振りで大男とベリーの間に投げ出されていたエリアスをレオとヴァンの元へ飛ばした。エリアスも意識がないようだが、息はしている。ヴァンはそれだけでも泣きそうだった。
「女の方は…気を失ったか。さて、お前と私が残った。そのチビを放してくれんかね」
ベリーは大男の手にあるレックスを顎で指した。レックスは弱ってはいたが、殺意の籠った目つきで男を睨み続けている。
「…冗談、キツイぜ。土産も無しで帰れってのか?」
「番だけ攫っても意味はなかろう?それとも、ヴァン・アドベントをこの私から奪ってみるかい」
大男は仲間の女がやられたあたりから明らかに狼狽していた。いや――やつの顔色変わったのは、ヴァンがベリーのことを「ベリー」と呼んだときだった。
「その赤毛と、番の化け猫。アマリエル・ベイリーだろう?真っ向勝負するほど馬鹿じゃない」
ベイリー?アマリエル・ベイリー…聞いたことがある名だ。ヴァンは無意識に記憶の引き出しを漁った。
大男はゆっくりと下がっていき、その場の地面にレックスを下ろすと、現れた時と同じように凄まじい轟音をあげて姿を消した。
「逃げられるとでも思っているのか?哀れな」
赤毛の魔女は振り向いて、赤毛の獣――よく見れば、それは巨大な猫だ――に、なにやら指示した。巨大猫はニャアンと鳴いてどこかへ走っていき、森には再び静寂が訪れた。
「日没だ。引き上げるぞ」
未だ起き上がれずにいるヴァンは、ベリーが地面に転移魔法陣を描くのをぼんやり眺めていたが、やがて気付いた。
古代の森の守り人の村。ヴァンの育ての親が暮らす場所――そこには大きな書庫がある。蔵書は全てが一点物で、古代語で綴られた先祖たちの手記だった。
――確か『それ』はずっとずっと上の棚にあった。右から7番目、擦り切れきった背表紙で。
1500年前の――救国の魔女の話。
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