表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから、私たちは空に落ちていくフリをする。  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第一章 ヨウムに用事はないけれど
9/22

「ちょっと、お姉ちゃんとお話しよっか」


 先ほどまでの『カワイイ』よりも、少し下がった、抑揚のないトーンで。


『レンチャン、ズットミテル!』

「っ……」

『クルシイ、ミテルヨ! ズットミテル!』


 途端に、口元を歪め、苦々しい表情になる恋。

 なまじ、ルンロンの振る舞いが大きく変わらないからこそ、その向こう側にある()()への嫌悪感が拭えないんだ。


『レンチャン、スキ! カワイイ!』


 屋上での、わたあめとの会話を、振り返る。

考えなければならないことは四つ。何時、誰が、どうやって、何故、だ。


 何かしらの目的で、恋の部屋に入り、ルンロンに言葉を教えた、誰かがいる。


「ルンロン。私、ルカちゃん」


 恋とルンロンの間に入って、自分を指さして言ってみる。するとルンロンは首をぐるんとかしげ。


『ンダヨォ』


 だからなんで私に対してはそのリアクションなんだよ。

 とにかく……ルンロンは、こっちの言葉を、素直にオウム返しならぬヨウム返ししてくれるわけじゃない。

 恋が言っていた通り、ルンロンに言葉を覚えさせるには()()()()()()()だ。


 ここまで、わたあめに煽られたこともあって……部外者の可能性も考えてはみたけれど、実際に確認してみて、わかった。


 これは、家族以外には絶対に不可能だ。


 気づかれないようにこっそり恋の部屋に忍び込んで、ルンロンに何度も何度も言葉を教え込むのは、いくらなんでも無理がある。


 父か、母か、姉か、弟か、祖父母か。


 恋が部活に励んでいる間、家に居る家族なら、どうやって、と何時、は、極端な話、誰にだって可能なのだということは、恋本人が言ったことだ。


 だから、残っているのは()()、になる。

 けど、そこから先にどうやって進む? 


「……ルカちゃん」


 口をつぐんだ私を、恋は不安げに見つめてくる。

 恋は察しているはずだ。この娘は馬鹿じゃない。状況的に、家族以外ではありえないからこそ――その〝何故〟こそを知りたくて、私に助けを求めてきたのだ。


「………………何で」


 だとすれば、何故わたあめは、()()()()()()()()()、答えを出せたのだろう。

 思考がそこに至った時、まるで頭の中を覗かれているように。

 不意に、私のスマートフォンが、ぴろん、という通知音を鳴らした。


「……ちょっとごめん」


 恋に断りを入れて、画面を見る。


「……え?」


 メッセージアプリの新着通知、泡沫潟わたあめの名前。

 その内容に、私は目を丸くして――――同時に、ぞくりと背筋が冷えた。


『弟くんにお友達が居て、よく迎えに来てたり、遊びに来てたりしてない?』


 たった一行。けれど、それは、私が恋の家に来て、初めて知ったことで。

 さっき、軽い雑談の流れで聞いた話であって、わたあめがそれを知る余地なんて、無いはずなのに。


 アプリを開きっぱなしだからか、通知音ではなく、シュポ、シュポ、と追加のメッセージが、続けて連続で届く音。





『ルンロンに言葉を教えられるのは、家族以外に居ないよね』

『でも、ルンロンに言葉を教える理由が、家族にはないから、困ってる』


 そう、その二つが矛盾しているから、しっくり来る答えが出ない。


 タイミングを見計らったように、更に追加のメッセージ。



『言葉を覚えさせたい理由が、家族以外にあって』

『家族はそれを()()()()()んだとしたら、どうかな』


 代行、つまり……ルンロンに言葉を覚えさせたい誰かに代わって。

 家族の誰かが、《《それを教えている》》?


 何でそんな事……ある意味、家族がイタズラしてるより質が悪いじゃないか。

 混乱する私に追い打ちをかけるように。

 シュポ、と音がして、最後のメッセージが届いた。





『はてちゃん、ルンロンちゃんがお喋りするのはどんな時?』




「………………あ」


 ルンロンは、賢い鳥だ。

 その時の状況にあった言葉を、自分で思考して、選択することが出来る。

 意味なくは喋らず、呼びかけに応じ、会話の流れを推し量れる。


 だったら……()()()()()()()()()()()()()()なら。


 ルンロンが覚えた言葉が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 辻褄が、あってしまう。


「ルカちゃん?」


 恋が、顔を覗き込んできた。私は、なんて答えるべきだろうか。

 推測でしかない、証拠がない、もし確定させたいなら、言質を取るしかない。


 だけど状況を鑑みるなら――多分、()()()()()()()()

 私が、口を開きかけたその時。


 コンコン、とノックの音がして、返事をする前に、扉が開いた。


「なー、そろそろ飯できるけど、どうするって」

「え、もうそんな時間?」


 メッセージを確認がてら、スマホを見てみると、確かにもう十九時前だ。流石に御暇しないと、迷惑がかかる時間帯。


「……じゃあ、私、そろそろ帰るね」

「ル、ルカちゃん」

「大丈夫」


 不安げな顔をする恋に、私は努めて笑顔で言った。


「今日中に、解決するから」


 何言ってんだろ、と不思議そうな顔をして、首を傾げる征くんの首根っこを。


「ちょっと、お姉ちゃんとお話しよっか」


 私は無造作に引っ掴んで、廊下に出た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ