「喉かわいた、ジュースのみたい、しゅわしゅわのやつ!」
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――――今でも、鮮明に覚えている。
私はその時、小学三年生で、家族旅行の帰りだった。
大渋滞している高速道路を避けて、ぐねぐねと何回も折り返す山道を、父が慎重に運転するのを、私は後部座席から見ていた。
何せ、たくさん遊んだ後の長時間ドライブだったから、車に乗っているだけでも疲れてしまって、うとうとしては目を覚ます、を繰り返して。
多分、夜の九時を回った所だったと思う、私は、助手席に座っている母に向けて、こう言った。
「喉かわいた、ジュースのみたい、しゅわしゅわのやつ!」
我が家では、甘い炭酸飲料とかは、お出かけだとか、パーティだとか、特別な時でないと飲めなかった。
「うーん、でも、もうすぐお家につくわよ? それに、こんな山奥でジュースなんて」
「やだ! 喉かわいた!」
「いや、ちょっと待った」
父が何かを見つけて、お、と声を上げたのだ。
私のわがままに応えるように、街灯の少ない山道のカーブの途中に作られた、瘤のような停車スペースに、ぽつんと古い自動販売機が置いてあった。
それなりに深い山道の中において、多分、簡易的な休憩所を兼ねた場所だったんだと思う。
父はそのスペースに停車すると、私には五百円玉を一枚渡して、言った。
「パパに温かいコーヒー、ママはミルクテイー、それと、ルカが好きな奴を買っておいで」
ちょっとしたお使いをさせて、機嫌を取ろうという魂胆だったのだと思う。
実際、私はやったあ、と気分を逸らせて、車を降りて、駆け足で自販機に向かった。
父が何時も飲んでいた銘柄のコーヒーも、母が好きな方のミルクティーも覚えていた。
お金を入れて、がしゃん、がしゃん、と両親の分を買って、自分のジュースを選ぼうとして、迷った。
オレンジとメロンの二つがあって、どっちも好きで、だけど両方は飲みきれないし、どうしよう、と悩んでしまった。
どれぐらい時間をかけたかは、もう曖昧だが、結局、メロンを選んだ事だけは、覚えている。
もし、この時間がなかったら……どうなっていたんだろうか。
私も巻き添えだったんだろうか、それとも、手早く出発することができて、避けることが出来たんだろうか。
三つの缶を抱えて、振り向いたその瞬間。
後ろから走ってきた、大きな黒いバンが、両親が乗っていた車に、追突した。
二台の車が、ぶつかって、ひしゃげて、勢いのまま、私の眼前で、ガードレールを乗り越えて、山肌に向かって落ちていった。
「………………え?」
数秒後、ドン、と大きな音がして、眼下に、赤い光が生まれた。
メラメラと炎が燃え上がっていく様を、私は、ただ眺めていた――――――。




