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【BL】小御門遠の演繹法 〜双子の僕らが恋を知るまで  作者: とおこ


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18/21

6-4


 寮の部屋はがらんとしていた。

 永くんのバイト先は少し遠くて、終わる時間が同じでも帰ってくるのは永くんのほうが少し遅い。大体の場合残業もしてくるから尚更だ。僕はひとりでぼんやりベッドに座り込んだ。

「うわ、なにしてるの」

「永くん……」

 来て、の空気を感じ取ったのだろうか。永くんがこっちに来てくれて、僕は永くんの顔を遠慮なくぺたぺた触った。

「おんなじ顔だよね」

「何なのいきなり」

「一卵性だし」

「まあ、その中でも似てるとはよく言われるよね、僕ら」

「……うん」

「じゃあさあ、……」

 なんだか、ひどく弱々しい声が出た。怖くて仕方がない、みたいな。永くんが僕の手を握り、僕はその手に縋るみたいにしながら尋ねた。


「僕の顔が好きな人がいたらさ、それって、永くんの顔も好きってことだよね?」


 永くんが、大きく目を見開く。

「待って。……最初から聞いていい? 告白されたってこと?」

「…………うん」

「顔が好きだって?」

「うん」

 永くんは露骨に顔をしかめた。

「ふざけてるの? 浅霧慧」

「待って」

 僕まだ誰からとか言ってない……言ってないよな? というかフルネームで覚えていたのか。僕は永くんの前に片手を掲げ、永くんは「合ってるでしょ」とさらりと言った。

「……合ってるけど」

「だよね。そりゃ、もちろん遠は可愛いけどさ」

「待って。僕と永くんって基本おんなじ顔だし、永くん、そんなこと普段言わないよね?」

「同じ顔でも遠のほうが可愛いよ。……でも、それは俺だからわかるわけだし」

 『永くんそんなこと思ってたんだ』という気持ちと、『でも橘先輩のほうが綺麗じゃん』という気持ちとが混ざりあって複雑な気持ちになって、そんな自分が嫌になった。少なくとも、今の永くんは、僕のことだけを考えてくれているのに。

「そもそも、僕らが双子とか関係なく、最初に出てくるのが『顔』って、真面目に受け取れっていうほうが無理」

「だよねえ!?」

 永くんの断言に、僕は我が意を得たりと頷いた。やっぱそうだよね!

「良かった、永くんが同意見で。……岬くんはさ、『真意が気になるなら本人に直接聞けばいい』って言うんだけど、なんかそんな気持ちにもなれなくて」

 バイト中に会ったのは偶然で、尋ねる時間なんてもちろんなかったけれど、その後も連絡を入れていないのは僕の意志だ。

「それも当然だよ。だって遠くんはさ、傷ついてるんだから」

「……傷ついてる?」

「うん。からかわれたって思ったら、嫌な気持ちになって当然だし」

 なるほど、と僕は自分のことなのになんだか納得した。なるほど、僕は傷ついていたのか。言われてみれば、なんだか胸が痛む気もした。告白されて、割と本気で困りはてて理由を聞いたら、あまり本気とは思えない回答が返ってきた。たしかに、傷ついたり怒ったりする理由としては十分だ。永くんはやっぱり僕より僕のことがわかってる、となんだか感動する僕の前で、永くんは「てか」と嫌そうに眉を寄せた。

「……遠が嫌がるってわかってて言ってるもんな、明らかに。好きな子いじめて楽しむとか、今どき子どもでもやらないのに」

「え?」

「ちょっとは、協力してやってもいいかなー、とか思ってたけど、もう完全に無理になった。無理無理」

「……えーと、永くん……?」

 永くんがなんだか不穏な言葉を低く呟いている。僕がその真意を問うより前に、永くんは、「じゃあ、確認してみよっか?」とにこりと笑った。

「……確認?」

「うん。慧くんが、ほんとに『遠くんの』顔が好きなのか、確認」

「……どうやって?」

「そりゃ入れ替わりよ」

「へ?」

 入れ替わり。ノックスの十戒。初対面の時の慧くんとの会話を思い出した。『リアル入れ替わりトリックが見られる?』と言った彼に、僕は『やらない』と回答した。わざと人を騙すような真似をして信用を失いたくない、と。

 ……でも。

「髪、同じ色に染めてさ。いや同じ色じゃなくてもいいんだけど、とにかく、僕も遠くんも違う色にして」

 もうちょい明るめの色までならオーケーらしいし、と、ほとんど黒に近い色になっている髪をつまみ上げながら永くんが言う。

「で、僕が遠くんのフリして慧くんと会うから、慧くんが気づくかどうか確認しようよ」

 悪魔のささやき、としか言いようがなかった。

 それは、あまりに魅力的な提案に思えた。双子を見抜く、というのは、古今東西の恋愛モノに置いて鉄板のネタと言っていい、「僕が好きなのは『君』である」ことの証明方法である。もし──もし慧くんがそれに成功したら、きっと僕は、全面的に慧くんのことが信じられるようになる。その瞬間のことを思うと、それだけでなにか、胸の奥が熱く痛くなるような気がした。

「…………うん」

 だから僕は頷いた。

「やりたい、それ。……確かめたい。永くん、協力してくれる?」

 もちろん、と、にっと唇を曲げて永くんは笑った。よく知っている顔で、よく知っている表情で、だから僕は、その顔を見るだけで早くも心が軽くなった。

 確かめたい。──永くんと僕となら、それができる。僕は無邪気にそう信じた。


 だから僕は。

 そんなことより、もっと大事なことがあるということに──ついに、気づくことが出来なかった。




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