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【BL】小御門遠の演繹法 〜双子の僕らが恋を知るまで  作者: とおこ


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12/21

5-2

「え。……そ、そうかな?」

「そうだよ。……やっぱ、永くんがいるからなのかな。目線、合わせ慣れてる?」

「えー……?」

 そうかな? 僕はちょっと考えて「そんなことないと思う」とはっきり言った。

「永くん、わりと伏し目がちな気がする、僕と話す時以外は。シャイなんだよね」

「そうなんだ。じゃあ、遠の特徴っていうか、個性なんだ、この目は」

 慧くんがぴたりとこっちを見たまま、感心したような声で言う。

「個性……って言うほど特別かなあ? 『目を見て話しましょう』って言わない? 普通」

「いや、普通『目を見て話す』って言ってもさ、大体は眉間とか鼻とか口元とか見て話すだろ」

「……そうなんだ?」

 特に意識したことはなかったけれど、言われてみれば、向こうも目を見ていたなら今みたいに視線がバッチリ合うはずだ。そういう経験はたしかに少ない。……でも、だからなんだって言うんだろう? 話の行き先がわからず目を瞬くばかりの僕に、「だからさ」と慧くんは悪戯っぽく続けた。

「普通はさ、なかなか目って合わないもんだから。……四秒以上見つめ合えたら、それはもう、『脈アリ』のサインなんだって」

「……は?」

 いやいきなり何の話だ。脈アリ? わけがわからないままの僕を、ふと真面目な顔になった慧くんが見る。

「いやでも、ほんとに目逸らす気ゼロとは思わなかったな。……心配になってきた」

「いや何が??」

「学部ではいいけどさ、俺がいるから。サークルとかバイト先とか、大丈夫?」

「だから何が」

「実は、俺の知らないところですごいモテてたり、っていうか、周りのこと誑かしてたりしない?」

「は」

 予想外すぎて息が止まった。

「……ふ、」

「ふ?」

「風評被害~~~~!! いや目が合うだけでモテたら苦労しないが?? てか僕より慧くんのが絶対圧倒的にモテるでしょ!! 僕なんて『誑かす』どころか誰かと付き合ったことも告白されたこともなにひとつないけど!?!?」

 立て板に水で思わず捲し立てると、慧くんはびっくりした顔で目を瞬いて、「……ない?」と困惑したように首を傾げた。

「なにひとつ?」

「なにひとつ!」

「そうなんだ……」

「そうなんです! ……いやそんな意外? てことは慧くんはさぞ経験がご豊富であられるんでしょうねえ!」

 他人の経験のなさに驚くということは、慧くんにとってはそれらの経験が『ごく当たり前に』存在していることを意味している。まあそりゃこの顔ならな。なんだか無性にムカついて食って掛かると、「いや普通だけど」とさらっと返されてさらにイラっとした。普通じゃないから言ってるんだが? 僕は「そもそもさあ」と眉を寄せた。

「目が合ったってさあ、慧くんぐらいカッコよくないと気持ち悪いだけでしょ」

「遠は可愛いよ?」

「そういうのいいから。……サークルでもバイト先でも、まあ、別に楽しくやってはいるけど、わりと空気っていうか。誰かが僕のこと好きになるとかまずないと思うよ?」

 自分で言っていて悲しくなってくるが、純然たる事実である。はあ、と溜息を吐いてから、「別にいいんだけどさ」と僕は肩を竦めた。

「モテたら苦労しない、とか言ったけど、正直モテたいわけじゃないしな……。モテるほうが圧倒的に苦労しそうというか。そうじゃない?」

「え、それ、俺に聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。だってそれこそバーベキューの件とかさ、モテてるからこそあんな好き勝手言われる羽目になったわけでしょ」

 もはや遠い記憶ではあるが、慧くんの見た目の良さが伺い知れるエピソードとしての価値は色褪せない。それに、と僕は思いついて続ける。

「サークルにもさあ、すごいモテる先輩がいて。ビジュがいい上にいつも楽しそうで面倒見もよくて」

 こうして並べ上げてみるとモテる要素しかないな、橘先輩。慧くんも「そりゃすごい」と感心したように頷いて、スマホで橘先輩の画像を探しながら僕は続ける。

「で、なんか、その先輩にフラれて去年何人か辞めたらしい。って話を思い出した、今」

「サークラじゃん」

「こういう場合もサークラって言うの?」

 先輩自身はむしろ被害者のような気がするのだが。思いながら、自分のカメラロールには当然先輩の写真など存在しないので、永くんとのラインの履歴から写真を探す。たしか夏休みのバイトのときのやつがなにか送られてきていたはず……あったあった。見つけた写真を「この人なんだけど」と見せると、慧くんは「へえ」と軽く眉を上げた。

「なるほどね」

「それ、どういう反応?」

「いや、たしかに綺麗な人だなと」

「……ふうん」

 自分で水を向けたくせに、なんだかもやっとした気持ちになる。やっぱり慧くんから見てもそうなんだ、と思うと、今まで橘先輩に抱いていたぼんやりとした苦手意識が、はっきりとした形を持ってしまったような気がした。

 橘先輩は、あんなにいい人なのに。こんなふうに思うのは間違ってるのに。

「……永くんもさあ」

 僕はスマホを両手で持って、ご機嫌そうな顔で写真に収まっている橘先輩を見ながら、呟いた。

「好きになっちゃったのかな、先輩のこと。……こんなに綺麗な人相手なら、ありえると思う?」


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