5月10日
今日は一日休みだったから蕎麦を打った。
2年前に死んだじいちゃんが最後に教えてくれた蕎麦打ち。
かなりかかったけど、いい出来になってきた。
ほんの数回教えてくれただけだったから、ほぼ独学だけど。
やっと皆に美味しいって言ってもらえる蕎麦になった。
基本の二八蕎麦が上達してきたから、そろそろじいちゃんのレシピに近づけたい。
あとどのくらいかかるかな……。
今日出てきたのは、じいちゃん。
蕎麦を打ってると決まって出てくる。
蕎麦を打ってる間、ずっと俺を黙って見てる。
そば粉を練るときも、延すときも、切るときも。
俺の打っているところを黙って見ている。
腕を組んで、割烹着を着たまま、ずーっと見ているんだ。
そうして切り終わって、蕎麦を保管用の容器に入れて、気づいたらいなくなってる。
表情や態度、姿勢が変わったところを見たことがない。
だけど、不思議と悪い気はしない。
認めてくれているのか、まだ任せきれないということなのか。
まだそこにいるのか、俺が作り出した偽物か分からないけど。
俺のこの蕎麦を、じいちゃんの蕎麦を、もっとたくさんの人に食べてもらいたい。
もっとたくさんの人に美味しいって言ってもらいたい。
あの顔を見ると、決まってそんな考えになる。