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43/52

42、

カーテンの隙間から、柔らかな朝の光がこぼれ落ちる。

その穏やかな眩しさに瞼を開けると、寝具の温もりが心地よくて、俺はつい寝返りを打った。


──その瞬間、ぬくもりに触れた腕がぴくりと反応する。


目を見開いた先にあったのは、静かに眠るキースの顔だった。


「──っ……!」


思わず声が漏れそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。

心臓の鼓動が早まる。どくん、と高鳴る音が、耳の奥でやけに大きく響いた。


……そうだ、俺は──キースと……。


昨夜の記憶が堰を切ったように脳裏に流れ込む。

熱を孕んだ唇、触れるたび震えた肌、重なった呼吸──

そのすべてが、決して嫌ではなかったという事実が、胸の奥に静かに残っている。


こうして隣で眠るのは、初めてじゃない。

子供の頃、嵐の夜にはキースが俺のベッドに来てくれたこともあったし、怖くて彼の寝床に潜り込んだこともあった。

けれど、今は──違う。全く、違う。


これは、兄弟としてのぬくもりじゃない。


俺は寝息を立てるキースの横顔を見つめながら、そっと息を吐いた。

穏やかで、どこまでも優しいその表情は、昔と変わらない。

けれど今は、その顔に頬を寄せたいと思う気持ちが、胸の奥から湧き上がってくる。


「……男とか、無理だと思ってたんだけどなぁ……」


ぽつりと漏れた独り言は、自嘲でも後悔でもない。

ただ、気づいてしまった。

湧き上がる想いは昨日よりも少しだけ深くて、もはや性別という枠組みなど、俺の感情には関係ないのだと。


──これは、心の問題だったんだ。


そう思った瞬間、胸の奥に積もっていた重たい霧が少しだけ晴れた気がした。

俺は伸ばした指で、キースの髪をそっと撫でる。


そのとき、扉の向こうから控えめなノックが響いた。


振り返ると、そっと顔を覗かせたのはアンだった。

俺と目が合うと、彼女は唇をかすかに動かし、「リアム様」とだけ無音で呼びかけてくる。


──どうやら、俺だけに用があるらしい。


キースを起こさぬよう注意深くベッドを抜け出し、廊下へ出る。

アンは低く抑えた声で、薄いクリーム色の封筒を差し出してきた。


「……申し訳ありません、リアム様。火急にお渡ししたいものがありまして」

「……誰から?」

「レジナルド王太子殿下からでございます」


その名を聞いた瞬間、胸に残っていた余韻が一気に緊張に呑まれた。

──ディマスの件、か。


受け取った封筒には、王家の紋章が刻まれている。

慎重に封を切ると、中には簡潔な文面が並んでいた。


『今夜、他の誰にも知らせず王城の東の塔へ来てほしい。君と二人で話したい。迎えの馬車はこちらで用意する』


……なぜ、秘密裏に?

文面には理由は明かされていない。けれど、この手紙が王家の名である以上、王族を騙るような行為とは考えにくい。

ならば、これは本当に──ただ事ではない。


「……何か……」

「リアム様?ご気分でも?」


小さく漏れた俺の呟きに、アンが心配そうに眉を寄せる。

彼女に見せるべきではない、と咄嗟に笑顔を作った。


「ううん、今度またお茶会をするから来てほしいって」

「まあ……それは素敵ですね」


アンは柔らかな笑みを浮かべ、礼儀正しく一礼して廊下の向こうへと戻っていった。


俺はゆっくりと扉を開き、部屋に戻る。

ベッドの上では、まだキースが静かに眠っている。


──このことを、彼に話すべきか。


胸の奥が揺れる。

でも、すべてをキースに委ねてしまっていいのだろうか。

何も知らず、何もせず、ただ守られるだけで……俺は、キースの隣に立てるだろうか。


「……少しでも、力になりたい」


自分に言い聞かせるように呟いた声は、誰にも届かずに部屋の空気に溶けた。


そして、俺はその夜──

誰にも告げず、王城へ向かうことを、選んだ。


読んでいただいてありがとうございます!

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