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32/52

31、

キースの唇は、俺のそれを数度、啄ばむように優しく触れた。

ただそれだけで心臓が跳ね上がる。


開きかけた唇の隙間に、そっと舌が差し込まれた瞬間──

頭の中が、白く、ふわりと霞む。


「……っぁ……」


抑えようとした声は、喉奥から洩れてしまった。

唇が重なり合い、息が塞がれる。

これまで、軽く触れるだけの口づけなら、あった。

けれど、こんなふうに──意図をもって深く交わされるのは、初めてだった。


咥内に滑り込んだ舌が、俺の舌を絡め取ってくる。

どこか甘く、湿った感触が口の中で溶け合っていく。


「ん、んっ……」


どうしていいのかわからない。けれど、逃げようという発想すら浮かばなかった。

キースの片手が俺の背に添えられ、ゆっくりと腰まで撫で下ろされる。

くすぐったくて、妙に心地良くて──

思わず、拳をぎゅっと握り込んだ。


「……っふ、……」


舌を吸われた瞬間、下腹にぎゅっと熱が灯る。

息が漏れたところで、ようやく唇が離れた。


頬にあった手が、髪を梳くように撫でながら後頭部へまわされ──

そのまま、キースの胸元へと俺の顔が引き寄せられる。


「リアム……」


名を呼ぶ声が、耳元で優しく響いた。

頭を撫でる手は、慈しむように、ゆっくりと。

──分かる。わかってしまう。


俺がどんなに「男は無理だ」と思っていたって、

この人の全ての仕草に、あたたかな感情が宿っているのを。

その優しさに、抗えなくなってしまっていることを。


「……嫌なら、拒んだほうがいいよ?

そうじゃないと、僕は……自分の都合のいいように解釈して、

君を好きなようにしてしまう」


キースの囁きが、脳の奥に響く。


……拒めるなら、そうしてる。

でも、俺の身体はすでにこの人の腕の中にあって、逃げようとすらしていない。


嫌いじゃない。

──でも、それは恋なのか?


自分でも、よくわからなかった。

試しに、他の男──リンドンやレジナルドとのキスを想像してみた。

……瞬時に、無理だと判断できるくらいには、あり得なかった。


だけどキースだけは、違う。


「……兄様以外は、嫌……なんですけどね……」


小さく、胸元に額を押し当てながら、そう呟いた。


キースは俺の髪を撫でていた手を、そっと顎へ滑らせる。

そして、顔を持ち上げさせた。目と目が合う。


「それだと、僕のことを好きだって言ってるようなものだよ?」

「だって……わかりません……」


声が震えるのを、自分でもどうしようもなかった。

キースは困ったように微笑んで、肩で小さく息を吐く。


──しゃーないだろ。

恋だの愛だの、俺はまだ、ちゃんと知らないんだから……。


「……嫌いでは、ないです……」


ぽつりと、そう呟いた。


それを聞いて、キースは目を細める。


「君が僕との行為に嫌悪がなくて、それでいてまだ選べないのなら……

いっそ、僕のものにしてしまおうか?」


言いながら、首を傾けて俺を見る。

──また、そうやって問うんだ。この人は。


けれど、さっきのキスを思い出せば……


「……嫌悪は、ない、です……」


そうとしか答えられなかった。

俺の正直な答えに、キースはふっと微笑む。

そのまま、ふたたび俺の唇を塞いだ。


触れるだけのキスじゃない。

舌を絡め、吸われて、奪われて。

──……まずい。これ、ほんとに……気持ちいい……。


読んでいただいてありがとうございます!

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