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26、

あれよあれよという間に日が流れ、ついに──決闘当日となった。


あの後、ディマスから正式な《決闘申込書》なるものがデリカート家に届けられた。

なんだその制度……とツッコミたいが、この世界では決闘は合法らしい。


しかも日時は二週間後と指定されており、準備期間としては短くもないが、長くもなかった。

ただ、いざその日を迎えてみると──とにかく早かった。あっという間だった。


結果から言うと、俺の剣術は──


びっくりするほど上達してない‼


……いや、少しはマシになったと思う。思いたい。

父の伝手でコンブリオ卿に指導を受け、アレックスには毎日昼休みにみっちり鍛えられ、

家ではキースが真面目に指南してくれた。

……で、たまにレジナルドが顔を出して「足の運びが甘い」とか「重心はこうだ」とか助言してくれるのだけど。


──お前が出てくるとディマスも出てくるから、マジでやめてくれ‼


とにかく、家族と関係者総出の育成計画により、俺はなんとか「人並み以下」くらいには持ち直した。

元が“ど素人”だったことを考えれば、上出来だろう。

決して“勝つ”つもりはない。ただ、“無傷で帰還する”──それだけが俺の目標だった。



場所は王立学園内の練習場。

天気は快晴。観客席はぎっしり埋まり、ノエルやセオドアをはじめ、クラスメイトに加え──

……キースや父、そしてコンブリオ卿の姿もある。いや、職場大丈夫なの⁈


ギャラリーには、件の王太子様・レジナルドの姿も。あの人のせいで俺はここにいるんだけどな?


審判を挟んで、俺とディマスは背を向けて十歩、歩いた。

振り返れば、互いの距離はおよそ二十メートル。


ディマスの目は、あからさまな殺気で俺を射抜いてくる。

対する俺は、内心ガタブルしながらも、とにかく“死なない”ことだけを胸に構えた。


「これよりディマス・グラーベとリアム・デリカートによる決闘を開始する」


審判の声が響く。


「これは騎士道精神に則った正式な決闘である。勝敗に異議は認められず、定められたルールに従って行うものとする。両者、異存は?」


「ないです……」

「異存はない」


お願いだからジャンケンで済ませてほしい。俺、必ず後出しして負けるからさ……。


「構えて──」

「──始め!」


審判の号令と同時に、ディマスが飛び込んできた。


速い⁉ 怖い⁉


剣が振り下ろされる瞬間、反射的に木剣を上げる。

──カキン、と金属音が耳元で炸裂し、腕にズンと衝撃が走った。


「このッ、レジナルドにたかる蠅が……さっさと駆除されろ!」

「だから!僕は狙ってないですって‼ 応援はしますけど‼」


観客席は沸いているが、俺にはどうでもいい。

目の前の怒りの化身が怖すぎて、声も裏返りそうだった。


ディマスの剣は容赦がない。刃こそ潰してあるとはいえ、当たれば当たり前に痛い。

俺はギリギリでかわし続けたが、それも限界が近づいていた。


──10分経過。


息があがり、汗が背を伝う。

ディマスも息は乱れているが、余力は明らかにあちらの方がある。


「さすが、蠅だ。しぶとい……」

「それ褒めてないよね⁈」


ノリで返したその瞬間、よそ見したのが悪かった。

右腕めがけて振り下ろされた一撃が、俺の二の腕にクリーンヒットした。


「痛っ──!」


衝撃で剣を落とし、膝をついた。


「終了!」


審判の宣言が響く。

模擬剣を落とした時点で、負けは決まっていた。


ディマスは勝利に満足したのか、ふん、と鼻を鳴らしてレジナルドのもとへと戻っていく。

俺の方には審判が近づき、心配そうに問いかけてくれた。


「大丈夫ですか?」

「……だいぶ、痛いですね……」


笑ってごまかしたが、骨に響く痛みは本物だった。

これは、タンスの角に小指ぶつけるの100倍くらい痛いヤツだ……!


「お兄ぃ!」


駆け寄ってきたのはノエルだった。耳元で慌ただしく詠唱を始めると、温かな光が腕に宿る。


「よかった……骨は折れてないみたい。打撲なら治せる……!」


ノエルの手のひらから聖属性の癒しが伝わってきて、痛みがじわじわ引いていく。

魔法、すごい……。



「……リアムに絡むとは、ディマス様は困ったものだね」


父が不機嫌そうにぼやいた。

するとノエルがスイッチを入れる。


「お父さん!あの人いつもリアムに“蠅”とか言うんですよ⁉」

「は……?」

「ノエル!今それ言う⁉」


止める暇もなく、キースと父の声がハモる。


「ほう……それは聞いたことがなかったな」

「詳しく聞かせてくれ、ノエル君」

「あ、自分も話せます」


どこからともなく、セオドアが現れて手を挙げる。


「うわぁあああああ‼ セオドアまで⁉」


──このあと、ディマスに関する密告大会が開催されたのは言うまでもない。



「……大丈夫か?」


自室に戻され、ベッドに横になった俺の元へ、アレックスが見舞いに来てくれた。

優しく覗き込んできた彼に、俺は苦笑しながら応える。


「大丈夫ですよ。お騒がせしてすみません、先輩にまで……」

「俺の指導が足りなかったんだ。申し訳ない」

「違いますって……僕の実力不足です。先輩も、コンブリオ卿も、丁寧に教えてくださいました。だから、責任感じないでください」


真っ直ぐにそう伝えると、アレックスは静かに笑って──


「……わかった。じゃあ次は、絶対に負けないように。もっと鍛えよう」


頭を撫でながら、そう言った。


「え、いや……もうやらなくていいんですけど……」


俺が肩を竦めると、彼は静かに立ち上がった。


「父も来たがっていたのだけど、マリー様に出禁をくらってるらしくてね……」

「……え⁉」


──母様⁉ それが家族ぐるみの付き合いがない理由か⁉

去り際、アレックスが一度だけ振り返る。


「リアム。……君が父に──」

「はい?」


一瞬、何かを言いかけて──やめた。


「いや、なんでもない。……今日はゆっくり休むといい。また明日」


彼はそれだけ残して、静かに去っていった。



──その後。

目を閉じていた俺は、ふと何かの気配で瞼を持ち上げた。


「……早く、僕を選んでくれるといいんだけどね」


低く甘い囁きが聞こえる。

視線を動かすと、そこにいたのは──キースだった。


「……起きなくていいよ、リアム。ゆっくり、おやすみ……」


そう優しく笑い、そっと俺の頬を撫でた。

最後に、唇に柔らかい何かが触れたような気がしたが──


俺は、そのまま意識を眠りに溶かしていった。


読んでいただいてありがとうございます!

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