24、
王立学園では、学問だけでなく運動も重視されている。
中でも“剣術”は貴族教育の要とされる授業のひとつだった。
──『貴族たるもの、いついかなるときも、王と民を護るべし』。
その理念に則り、実技の授業は上級生と下級生がペアを組んで行われる。
指導を受けながら、同時に“教える”側の技術も学ぶ。
この日から、いよいよ実戦形式に近い訓練が始まった。
「俺が君の指導係だ。よろしく頼む」
俺の前に立って、そう頭を下げたのは──
アレックス・コンブリオだった。
「よ、よろしくお願いします……」
何故この人なんだ……。
いや、これはもう、確信に変えていい。
──俺は、完全に“主人公ルート”を歩いている。
本来、アレックスとペアを組むのはノエルのはずだ。
だが今、ノエルは何故か別の上級生──え、女の子じゃん⁉──とキャッキャしている。
ずるくない? それ、本来なら俺の癒やしだったはずじゃないか……?
「さしあたって、君の力量を見たい。構えを取ってもらえるか?」
「は、はいっ……ええと……何すればいいですか……?」
思考を巡らせていた俺は慌ててアレックスの問いに返す。
「素振りはできるか?」
「……まあ、一応」
自信のない声で木剣を構え、二、三度振る。
が、すぐにアレックスが手を上げて制止した。
「なるほど。剣術に関してはからっきしだな。どう教えたものか……」
「えっ!? 振れてませんでした!? 僕、今、すごく振れてたと思ってたんですけど!」
「棒を振り回してはいた」
「ふ、振り回して……」
内心で泣いた。
いや、そんなことは分かってたさ。才能があるなんて思ってなかった。
けど、“からっきし”って言われるほどとは思わなかったんだ……。
むしろ、今のは“なかなかいい感じだったんじゃ?”くらいには思ってたよ俺……。
「とりあえず、基本の型からだな」
アレックスが俺の隣に立つと、木剣を持つ俺の手にそっと手を添え、背中にも軽く触れる。
──なんか距離が近い気がするが、きっとこれも指導というやつだ。
……帰りたい。
※
結果として、アレックスの指導は驚くほど丁寧だった。
しかも時間いっぱい、無駄なく。情け容赦なく。
最終的には「立ち姿は……まぁ、そこそこだな」と肩を叩かれた。
……あれだけみっちりやって、評価が“立ち姿”とは……解せぬ。
でもまあ、最初が“棒を振り回してる”判定だったことを思えば、少しは進歩してるのかもしれない。
「ありがとうございました」
俺が礼を述べると、アレックスは小さく笑った。
それがまた、周囲に軽い衝撃を与えたようだ。
というのも、アレックスは滅多に笑わないことで有名らしい。
「リアム!」
その場を離れた直後、ノエルが耳元に顔を寄せてきた。
「やばいよお兄ぃ……先輩、めっちゃいい匂いだった……!」
……コイツゥ……!
「俺はみっちり・きっちり・みちみちだったよ?!」
言いながら、近くにあったノエルの耳を軽く引っ張る。
前世から、こいつは綺麗なお姉さん属性に弱かった。
中身が変わっても嗜好はそのままか。
「アレックスどうだった?」
ノエルは俺の手から逃げながら、アレックスが去った方へと顎で指す。
「うーん……普通、かな。どこが分岐点だったっけ?」
「実戦のとき。ノエルを庇って怪我するんだよ。足に古傷があってさ──」
「ああ、小さいころのやつか。トラウマ解消がキーなんだっけ?」
「そう。蟠りを解くと、そこからルートに入るって感じ」
実戦というのは、有事を想定した模擬戦のことだ。
魔法で生成された幻影魔物との戦いは、幻想とはいえダメージもリアルで、油断すれば普通に怪我をする。
ノエルのルートでは、その時にアレックスが庇って負傷し──という流れだったはずだ。
でも、俺がそこに関わっていいのかは、悩ましい。
「うーん……これって、どこまで踏み込むべきなんだ?」
あまり手を出しすぎると、フラグ管理が崩壊する。
リンドンがいい例だ。なんかもう、あいつのフラグだけデカすぎて怖い。
つーかリンドンに関しては何もしてないのに好感度MAXじゃなかった?
俺、いつ攻略始めたんだよ。
「リアム・デリカート!」
後ろから響いた剣のように鋭い声に、俺はげんなりした。
この声は──
「うわ……」
……ディマス。
そうだ。こいつ、クラス合同の授業には確実にいるんだった。
振り返った瞬間、何かが俺の頬に当たり、パサリと足元に落ちる。
……白い手袋。
それを見下ろした瞬間、
「貴様に決闘を申し込む!」
まるで演劇のように、ディマスが俺を指差し宣言した。
──正気か⁉︎
読んでいただいてありがとうございます!
応援いただけると嬉しいです♪




