20、
次の日の朝。
俺のベッドの上は、なかなかに修羅場だった。
とんでもないことになっていた。
昨夜、俺とナイジェルのツーショットにノエルが爆発した後、ナイジェルはなぜか「キースに殺されたくない」と呟いて早々に退場。
その後もノエルの妄想スイッチは切れることなく、「紙と鉛筆!」と叫んでは、徹夜で何かを描き殴っていた。
……で、朝。
「すご……」
俺は寝起きのままベッドに身を起こし、言葉を漏らす。
視界に広がるのは、ベッドから床にかけて散乱する大量の紙。
どれもこれも漫画の原稿らしきもので──そして、俺とナイジェルが濃厚に絡んでいた。
「おっふ……」
拾い上げた一枚を見た瞬間、変な声が出た。
くんずほぐれつどころじゃない。俺はこんなセリフ言わねぇよ‼︎ と叫びたいのを飲み込みつつ、別の一枚に手を伸ばす。
この絵、なんか。
……うん、絵柄が、どうにも見覚えがある。
「ノエル、他のも見ていい?」
「んー? いいよ〜」
あっさりと頷くノエルは、今も鉛筆を走らせ続けている。
その姿を見ながら、俺の中にひとつの違和感が確信に変わった。
──やっぱ、この絵。妹……真夜の絵に、似てる。
妹の名前は鴛野真夜。俺の名は鴛野真昼。
生まれた時間が昼と夜だから、という名付け理由。
安直すぎる名前の兄妹だった。
真夜は高校の頃から同人活動をしていて、漫画専門学校にも進学したはずだ。
「なあ、ノエル」
「うん〜?」
「ノエルも……転生者、なんだよな」
「そだよ?」
「……前の人生、どんな感じだった?」
ゲームやルートの情報は共有してきたが、互いの前世についてはほとんど触れてこなかった。
「えーっとね、女子の専門学生で、漫画描いてて〜……」
「家族構成は?」
俺はもう一枚の紙を拾う。やはり、線の癖が酷似していた。
「お兄ちゃんがいたよ〜」
……やっぱり。
「その……サークル名、『タマゴと雄』の『マヨネーS』ですかね……?」
ノエルが、ぴたりと手を止めた。
そして、まじまじと俺の顔を見る。
「……なんでそれ、知ってんの⁉︎」
「……俺がその“お兄ちゃん”だからだよ」
※
「マジで⁉︎マジでお兄⁉︎」
事実は小説より奇なり──とはこのことか。
ナイジェルに起こされ、朝食を済ませた俺たちは、前世の話ができないキースの目を避け、邸内の書庫に移動していた。
今は大きな四角テーブルに並んで座り、ノエル──いや、真夜──が描いた原稿がテーブルを埋めている。
「俺の名前は鴛野真昼。妹は鴛野真夜。AB型。サークル名はタマゴと雄。ペンネームはマヨネーS」
「……それだけなら、お兄って言えないじゃん! 合言葉言って!」
まったく。昔からこういうところは頑固だった。
「アカ」
「スリ」
ピタリと一致した瞬間、ノエル──真夜が目を潤ませて、俺に飛びついてきた。
「お兄ぃぃぃぃ‼︎」
「まさかこんなところで会うとはな……」
俺も思わず笑いながら、ぽんぽんと背中を叩いてやる。
転生後の名前が違っていても、やっぱりノエルは真夜だった。
「ってことは、お前も……あの時、死んでたのか」
「そだよー。覚えてない? イベント帰りに二人で歩いてたら、車が突っ込んできて……」
その瞬間、フラッシュバックのように記憶が戻ってきた。
──そうだ。真夜の即売会に付き合って、帰り道。
俺たちは……事故に巻き込まれたんだった。
そして、真夜は叫んでた。
『新刊まだ読んでない〜〜〜‼︎』って──お前、最期がそれかよ‼︎
「……思い出した……」
「いや〜ショックだったんだよ。ノエルの新刊読めなかったし〜」
「いやいやいや、今それ言う⁉︎」
もう何もかもが真夜だよ……この人間性。
けれど、変に引きずるよりは、こんな風に明るく生きてくれていた方が安心できる。
……と思っていたら──
「どういう状況かな?」
背後から、妙に冷えた声が飛んできた。
──またもや、タイミングよく登場。キースである。
えっと、現在の状況──兄妹再会に感極まって、妹が俺にがっつり抱きついてる真っ最中です。
……誤解しか生まれないね、これ。
振り返ると、扉のところで腕を組んだキースが、ゆるやかな笑みを浮かべていた。
ただし──目が笑っていない。
おおお……これはまた、別の意味で……とんでもない朝になりそうだ。
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