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21/52

20、

次の日の朝。

俺のベッドの上は、なかなかに修羅場だった。

とんでもないことになっていた。


昨夜、俺とナイジェルのツーショットにノエルが爆発した後、ナイジェルはなぜか「キースに殺されたくない」と呟いて早々に退場。

その後もノエルの妄想スイッチは切れることなく、「紙と鉛筆!」と叫んでは、徹夜で何かを描き殴っていた。


……で、朝。


「すご……」


俺は寝起きのままベッドに身を起こし、言葉を漏らす。

視界に広がるのは、ベッドから床にかけて散乱する大量の紙。

どれもこれも漫画の原稿らしきもので──そして、俺とナイジェルが濃厚に絡んでいた。


「おっふ……」


拾い上げた一枚を見た瞬間、変な声が出た。

くんずほぐれつどころじゃない。俺はこんなセリフ言わねぇよ‼︎ と叫びたいのを飲み込みつつ、別の一枚に手を伸ばす。


この絵、なんか。

……うん、絵柄が、どうにも見覚えがある。


「ノエル、他のも見ていい?」

「んー? いいよ〜」


あっさりと頷くノエルは、今も鉛筆を走らせ続けている。

その姿を見ながら、俺の中にひとつの違和感が確信に変わった。


──やっぱ、この絵。妹……真夜の絵に、似てる。


妹の名前は鴛野真夜。俺の名は鴛野真昼。

生まれた時間が昼と夜だから、という名付け理由。

安直すぎる名前の兄妹だった。

真夜は高校の頃から同人活動をしていて、漫画専門学校にも進学したはずだ。


「なあ、ノエル」

「うん〜?」

「ノエルも……転生者、なんだよな」

「そだよ?」

「……前の人生、どんな感じだった?」


ゲームやルートの情報は共有してきたが、互いの前世についてはほとんど触れてこなかった。


「えーっとね、女子の専門学生で、漫画描いてて〜……」

「家族構成は?」


俺はもう一枚の紙を拾う。やはり、線の癖が酷似していた。


「お兄ちゃんがいたよ〜」


……やっぱり。


「その……サークル名、『タマゴと(オス)』の『マヨネーS』ですかね……?」


ノエルが、ぴたりと手を止めた。

そして、まじまじと俺の顔を見る。


「……なんでそれ、知ってんの⁉︎」

「……俺がその“お兄ちゃん”だからだよ」



「マジで⁉︎マジでお兄⁉︎」


事実は小説より奇なり──とはこのことか。

ナイジェルに起こされ、朝食を済ませた俺たちは、前世の話ができないキースの目を避け、邸内の書庫に移動していた。

今は大きな四角テーブルに並んで座り、ノエル──いや、真夜──が描いた原稿がテーブルを埋めている。


「俺の名前は鴛野真昼。妹は鴛野真夜。AB型。サークル名はタマゴと雄。ペンネームはマヨネーS」

「……それだけなら、お兄って言えないじゃん! 合言葉言って!」


まったく。昔からこういうところは頑固だった。


「アカ」

「スリ」


ピタリと一致した瞬間、ノエル──真夜が目を潤ませて、俺に飛びついてきた。


「お兄ぃぃぃぃ‼︎」

「まさかこんなところで会うとはな……」


俺も思わず笑いながら、ぽんぽんと背中を叩いてやる。

転生後の名前が違っていても、やっぱりノエルは真夜だった。


「ってことは、お前も……あの時、死んでたのか」

「そだよー。覚えてない? イベント帰りに二人で歩いてたら、車が突っ込んできて……」


その瞬間、フラッシュバックのように記憶が戻ってきた。


──そうだ。真夜の即売会に付き合って、帰り道。

俺たちは……事故に巻き込まれたんだった。

そして、真夜は叫んでた。


『新刊まだ読んでない〜〜〜‼︎』って──お前、最期がそれかよ‼︎


「……思い出した……」

「いや〜ショックだったんだよ。ノエルの新刊読めなかったし〜」

「いやいやいや、今それ言う⁉︎」


もう何もかもが真夜だよ……この人間性。

けれど、変に引きずるよりは、こんな風に明るく生きてくれていた方が安心できる。


……と思っていたら──


「どういう状況かな?」


背後から、妙に冷えた声が飛んできた。


──またもや、タイミングよく登場。キースである。


えっと、現在の状況──兄妹再会に感極まって、妹が俺にがっつり抱きついてる真っ最中です。

……誤解しか生まれないね、これ。


振り返ると、扉のところで腕を組んだキースが、ゆるやかな笑みを浮かべていた。

ただし──目が笑っていない。


おおお……これはまた、別の意味で……とんでもない朝になりそうだ。


読んでいただいてありがとうございます!

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