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10、

地獄の1丁目、アゲイン──。


変態眼鏡、いやスペンサーの言葉で周囲の熱狂は一層高まり、俺とノエルは一言も返す暇もなく、生徒会室へと連れて行かれることになった。ああいう盛り上がりは本当に恐ろしい。途中、ノエルがぼそりと呟く。


「リアきゅんを災難から守れないとは、武士としての風上にも置けない行為……申し訳ない……‼︎」


しかめた顔で唇を噛むのも、悪ノリではなく本気で言っているから始末が悪い。

いや、そもそも武士じゃないだろ、お前。

苦笑いしつつ「気にしないでいいよ」と背を叩いたら、ノエルはぱっと顔を明るくして「リアきゅん……」と目を潤ませた。


どんなポジションだよ、俺は。


そして案の定、生徒会室に入れば、あのお茶会のデジャヴのようなメンツが勢ぞろいしていた。

レジナルドは生徒会長席に腰かけ、俺たちに向かって微笑みかけてくる。

──往復ビンタをかましたい。その笑顔。

いや。綺麗だよ。綺麗だけど……綺麗すぎるだろ……逆に怖い。


一般の生徒なら間違いなくときめくシーンなのだろうけど、俺もノエルもそういうのに微塵も興味がない。

むしろ敵意すらあるのがこの二人。


「やあ、ノエルにリアム。こうしてちゃんと話すのはお茶会ぶりかな?」


爽やかすぎる声にうっかり身震いする。


「……ご機嫌麗しく、レジナルド先輩」

「今日はリアムを虐めないでくださいねっ」


俺の挨拶にノエルが自然にそんな言葉を添える。

有難いっちゃ有難いけど、せめて礼儀くらいは……と俺が袖を引くと、ノエルは「どうもぉ」とだけ言った。最低限の体裁。レジナルドは苦笑しているが、あれは本当に笑ってるのか──裏で何か仕込んでないか不安しかない。


「大まかには聞いていると思うが、君たち二人には生徒会に入会してもらいたい」


言い方がさらっとしてるが、「入ってほしい」じゃなく「入ってもらう」だ。

選択肢のない勧誘……どこが勧誘だ。

俺は「はあ……」と曖昧に返し、隣のノエルも浮かない顔だ。

そりゃ、最推し(ナイジェル)とは全然関係ない場所だもんな。


レジナルドも、俺たちの反応が薄いことに少し困惑しているようだったが、すぐに調子を戻して咳ばらいを一つ。


「もちろん、戸惑いは理解できる。だが、優秀な人材を見過ごすわけにはいかなくてね。それに──」


その時、コンコンと扉がノックされ、次の瞬間に開いた。

現れたのは、キース──そして見知らぬ男子生徒が一人。


「……兄様?」


つい声が漏れると、キースがふわりと笑った。最近は放課後に逃げ場として会う機会が減っていたが、なんだかんだ安心できる存在だ。


「デリカート家の兄弟は絆が深いからね。今年度の生徒会指導教員として、キース先生にお願いしたんだ。リアムも彼がいれば安心だろうと思ってね」


……そりゃまあ安心はするけど、ゲーム内ではキースが生徒会に関わる展開なんてなかった。完全なるイレギュラーだ。


巻き込むのはちょっと心苦しい。

とはいえ、決まってしまっているなら、俺がとやかく言える話でもない。


レジナルドが「紹介をお願いできますか」と促すと、キースは頷いて、隣の男子生徒を紹介した。


「こちらはグラーベ王国からの留学生、ディマス・グラーベ殿。あちらの第六皇子だ。1学年に編入することになってね。今日が初登校なんだよ」


初耳だし、初見だ。

──いや、見た目はすごい。銀の髪に白磁の肌、まるで雪国の貴公子。

彫刻のような端正さがあり、所作も美しい。


だが、男だ。


俺の興味は終了。ここ、男率高すぎない? なんで女子キャラ少ないんだよ……。

女の子だったら、俺はさぞや浮き足だってただろうな。


「ディマスは他国の学園制度にも興味があってね。生徒会にも関心を持っているそうだ。短期間とはいえ、特別枠で手伝ってもらう予定だよ」


レジナルドの説明に、ディマスは優雅な笑顔で応えた。レジナルドとも既知の関係らしく、二人の王族同士が視線を交わして微笑み合っている。


──お似合いじゃん。


俺が心の中で勝手に納得していると、レジナルドがディマスに向けて話しかけた。


「ディマス、彼らも同学年だし、親交を深めるといい。全員紹介しておこうか」


紹介が始まると、ディマスはその都度丁寧に頭を下げる。律儀なヤツなんだな、と俺は感心していたが──横でノエルは微妙な顔をしていた。


……うん、わかる。ノエルから見ても“予定外”なんだろう。


「今日はこの辺で終わりにしよう。明日からこのメンバーで生徒会を始動する。よろしく頼むよ」


レジナルドの言葉で解散となり、俺とノエルは生徒会室を後にする。拒否権なんてなかったよな……と溜息が漏れた時、ノエルが俺の肩を軽く叩いた。


「ねえ、リアム、今から──」

「リアム・デリカート」


ノエルの声と重なるように、聞き慣れない声が俺を呼んだ。


振り向けば、さっきまで穏やかだったディマスが、腕を組み、あからさまに不機嫌な顔で俺を睨みつけていた。


「……はい?」

「フン。レジナルドから話は聞いていたが……つまらない。大したことのない男だな。侯爵家の坊主風情が、いい気になるなよ」


吐き捨てるように言って、ディマスはさっさと背を向けて去っていく。


……は?


ノエルと顔を見合わせた俺は、ただひたすらに、ぽかんとしていた。


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