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昔話シリーズ

黒人の白雪姫

 昔々、ある所(ドイツ)に、おじいさんとおばあさんではなく、とてもとても美しい女の子が居た。その女の子はプリンセスで、雪のように白い髪、血のように赤い唇、黒檀のように黒い肌を持って産まれ、その綺麗で雪のように真っ白な髪を見て白雪姫と名付けられた。白雪姫はすくすくと成長していき、その白雪のような白髪を膝下まで伸ばし、みるも美しく育っていった。

 しかし、白雪姫に突如不幸が舞い起きた。黒人の国王陛下が喉頭癌で亡くなってしまったのだ。

 その後、継母である白人のお妃さまが王位を継承した。しかし、そのお妃さまは実は魔女だったのである。

 しかも、とてつもなく美しい美魔女であり、雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒く膝まである長い黒髪を兼ね備えた美貌の持ち主であり、派手な貴金属で着飾っていた。そんな美しい魔女は魔法の鏡に尋ねた。


「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しいのはだぁれ?」


 魔女は半年に1度、毎回こう問うのである。魔法の鏡は馬鹿正直に答えた。


「それは白雪姫です。」

「なんですって!この前までは私が一番だったはずよ!」

「ですが、成長した白雪姫はますます美しくなって、今や陛下を超えました。」

「そんな!」


 動揺した魔女は白雪姫への嫉妬心にかられた。激しい嫉妬心に苛まれた魔女は発狂し、その嫉妬心は殺意にまで変わっていった。


「いますぐ、白雪姫を殺すのです!」


 魔女は大臣に白雪姫の暗殺命令を出した。大臣は散歩中の白雪姫に矢を放った。


「ち、カスった!」

「きゃああ!!」

「陛下のご命令!お命頂戴!!!」


 白雪姫は必死に逃げまどい、鬱蒼とした森の中に逃げ込んだ。大臣は執拗に白雪姫を追い掛け回す。


「逃がすか!」


 追い詰められた白雪姫は崖から転落し、森にあった急流の川に落ちてしまった。


「ふふ。自滅するとは馬鹿な奴め。殺す手間が省けた。」


 大臣は満足して魔女の城に帰っていった。


 白雪姫が急流で流されて昏睡しかけていると、7人の小人症の有色人種の男たちが白雪姫が溺れているのを発見した。


「た、大変だぁ!女の子が流されている!」


 7人の小人症の男たちは白雪姫に向かって忍者の道具である流星錘を投げた。流星錘は白雪姫の体に上手く絡みつき、小人症の男の男たちは白雪姫を引っ張り上げた。

 小人症の男たちは、日本から無実の罪でこの国まで島流しにされたサムライだったのである。7人の小人症のサムライたちは、白雪姫の容態を調べた。


「息はある!」


 サムライたちは、白雪姫を森にある隠れ家まで運んでいき、自分たちの布団の上に寝かせてあげた。

 数分後、白雪姫は目を覚ました。


「あなたたちはだあれ?」


 サムライたちは答えた。


「僕たちは異国のサムライだよ。兵隊みたいなもんさ。」

「無実の罪でこの国まで流刑にされたのさ。」

「僕たちは名前を捨てて暗号名で呼び合っている。」


 白雪姫はきょとんとしている。


「暗号名?コードネームの事ね!」

「僕の暗号名は『暴食』!」

「僕は『傲慢』!」

「僕は『嫉妬』だ!」

「俺は『憤怒』!筋骨隆々!随一の力持ちにして、唯一の黒人サムライさ!」

「僕は『怠惰』だよ!」

「じゃんじゃじゃーん!!僕『強欲』!!」

「僕は『色欲』さ!」


 自己紹介を済ませた7人のサムライは、次に白雪姫から素性やいきさつを聞きだした。


「かくかくしかじか。」

「それは大変だ!うちで匿ってあげよう!ぜひそうさせてくれ!」


 かくして、7人のサムライ達と白雪姫の不思議な共同生活が始まるのだった。


 それから半年後、大雪の日。魔女は再び魔法の鏡に問いただした。


「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しいのはだぁれ?」

「それは白雪姫です。」

「何を馬鹿な事言ってるの?白雪姫はこの世にいないはずでしょう!?」

「いいえ、白雪姫は生きています。7人のサムライの家にいます!」

「なんですってえええ!!!」


 怒り狂った魔女は、暗殺に失敗した大臣を処刑した。


「もう誰も信用できないわ!こうなったら、この手で直接殺してあげるんだから!」


 魔女は青リンゴを取り出し、魔法で青リンゴに呪いをかけて、毒を注入した。そして、魔女は醜い老婆の姿に変身して、サムライの家に向かった。

 老婆はサムライたちが炭鉱の仕事をして留守にしている頃合いを見計らって、サムライの家のドアをノックした。


「こんにちは。青リンゴを買ってくれませんかね?」

「あら。珍しいおばあさんの訪問販売?」

「はい。今月はノルマを達成していなくて、生活に苦しくて、どうか一つだけでも買ってくださいまし!」

「困ったわねぇ。私お金を持ってないのよ。この家の家主のおサムライさん達が帰って来るまで待っていただけないかしら?」

「そういわないで。一口だけでも味見してくれませんか?もちろん無料です。一口食べていただけたら、家主さんが帰ってくる時間帯にまた伺いますので。」

「試食?お安い御用ですわ!」


ぱくっ


 白雪姫は青い毒リンゴをついに食べてしまった。

 白雪姫は苦しそうな表情をし、もがきながら倒れてしまった。


「しめしめ。上手くいったわ!こうも上手くいくなんて!」


 老婆は満足して帰っていった。

 老婆と入れ替わりにサムライたちが帰ってきた。なんだか胸騒ぎがしたのである。


「やっぱり嫌な予感がしたんだ!!」

「真っ青になって死んでいる!!」


 サムライたちは悲しんだ。


「いいや!まだ助かるかもしれない!医者を呼びに行こう!」


 強欲がそういうと、サムライたちは一目散に森を降りた。


「どなたか!お医者様はいらっしゃいませんか!?」

「僕は隣国の王子で、今研修医として留学している。医者ではないが医療の知識ならある。お役に立てないだろうか?」

「時は一刻を争う状況だ!あなたでいい!白雪姫をみてやってくれ!!」


 サムライたちとたまたま居合わせた王子は白雪姫の元へ向かった。

 白雪姫は玄関で倒れたままだった。

 色欲は王子に尋ねる。


「白雪姫は助かりますか?」

「大丈夫だ。まだ、脈はある!この症状は喉に何か詰まらせたな。」


 そういうと王子は白雪姫の背中を叩いて、喉に詰まった青リンゴを吐きださせた。


ポロ


 リンゴのかけらは、見事に吐き落された。そう、リンゴの毒ではなく、リンゴを喉につまらせたのが倒れた原因だったのである。

 しかし、白雪姫は気を失ったままだ。


「人工呼吸が必要だ!」


 王子は白雪姫の気道を確保し、人工呼吸を始めた。すると奇跡的にも一度人工呼吸しただけで、白雪姫は目を覚ました。


「ゴホゴホ。あ、あなたは?」

「研修医の勉強をしている某国の王子さ。」


 そして、今度は王子が尋ねた。


「そなたは?」

「私は白雪姫。この国のプリンセスだけれど、継母の陛下に命を狙われてて隠居してたの。」


 その言葉に王子は驚いたが、その話に集中できないほど白雪姫の美しさに目がくらんだ。


「そなたは美しい!本当にきれいだ。」

「あなたもとってもきれいだわ!」


 2人はお互いに一目ぼれするのだった。まさに相思相愛である。


「寒い玄関で放置されていたのが幸いだった。低温下だったから酸欠状態の進行も遅くなったのだろう。おかげでそなたは後遺症もなく、ぴんぴんしている。」

「混乱状態になって皆で医者を探しにいったから、白雪姫をそのまま放置してしまった。面目ない。」


 怠惰は申し訳なさそうにそう答えた。


「パニック状態で慌てるのは仕方がない事だよ。それに大雪の日の寒い玄関だったからこそ症状の進行を抑えられたのもある。結果オーライさ。」


 王子はすかさずフォローした。

 暴食が何かに気が付いた。


「やや!このリンゴ!腐っている!なぜこんな傷んだリンゴを食べたんだ!?」

「リンゴ売りのおばあさんがくれたの。その時は何ともなかったわ。」


 王子がリンゴのかけらを拾い上げて調べた。


「これは毒が仕込まれている!この匂いは胃酸に反応するタイプの毒だ!喉に詰まらせていなかったら即死だった!!」

「きっと、さっきのおばあさんはお妃さま刺客だったのね!」


 白雪姫は魔女が自分を毒殺させようとしていたのではないかと推察した。それを聞いた憤怒は激怒した。


「度重なる暴挙!許せん!!!」


 嫉妬も同調した。


「もう我慢できぬ!反撃に打って出るべきだ!」

「お妃をみんなで倒そう!」


 傲慢が後押しした。王子もうなずく。


「僕も協力する。」


 しかし、白雪姫は躊躇した。


「もう一度お義母様と話し合ってみるわ。一緒についてきて!」

「分かった。白雪姫とお供しよう。何かあれば白雪姫を僕たちが守る。」


 王子とサムライたちはいかなる場合でも白雪姫を守る決心をした。

 白雪姫御一行は、城に出向いた。


「正面から入るのは危険だ。」


 王子は武力行使を警戒している。


「そうね。じゃあ、王妃部屋にこっそり乗り込みましょう。」


 白雪姫はそう提案した。

 そうして、サムライたちは鍵縄を使って窓から魔女の部屋に侵入し、縄梯子を下ろして王子と白雪姫を登らせた。


 グッドタイミングで魔女は自分の部屋に戻ってきた。


「侵入者だわ!何者!?」

「お義母様!私よ!白雪姫!」

「そんなバカなことが!あんたは魔法の毒リンゴであたしが直々に毒殺したはず!!」


 王子はリンゴのかけらを魔女に見せつけ、怒り声を上げた。


「やはり毒リンゴだったか!お生憎だったな!毒リンゴは喉につっかえて消化吸収されなかったぜ!」


 白雪姫も驚いた表情を見せた。


「『直々に』ですって!?あのおばあさんに化けてたの!?」

「あんな醜い老婆に化けてまで手間と時間をかけて殺してあげたつもりだったのに、まさか失敗するなんて!」

「どうして!どうしてお義母様は私の命を狙おうとするの!?」

「それはあなたが美しいから…。」

「え?」

「あたしは魔女よ!魔法を使えば老婆にだって竜にだって化けられるし、魔法で毒リンゴだって作れるのよ!魔法の鏡だって持ってるわ!その鏡に聞いたのよ。『この世で一番美しいのはだれ』って!」

「あなた、何を言ってるの?」

「鏡がこう答えたのよ!『この世で一番美しいのは白雪姫になった』って!それまではずっとあたしが世界一美しいって答えてたのよ!あたしより美しいあなたが憎い!憎たらしいわ!あんたみたいな小娘に負けるなんて悔しいじゃない!だから殺してあげたのよ!魔法で呪いをかけた毒リンゴを使って!」


 王子は呆れていた。


「そんな事で白雪姫を殺そうとしたのかね。」

「『そんな事』ですって!?あたしにとっては何よりも美しい事が一番なのよ!誰よりも美しい事が一番大事なの!」


 温厚な白雪姫もついに激怒した。


「アクセサリーや化粧で見た目の美しさは飾れても、心の醜さは隠せない!あなたは心の老婆だわ!」

 

 魔女はその言葉に怒り狂った!


「心のブスはあんたの方よ!言ったでしょ?老婆にも竜にもなれるって!」


 そう宣言すると魔女の姿は、みるみると赤き竜に変貌を遂げた。


「助太刀いたす!!」


 サムライ達は日本刀を抜き、白雪姫をかばった。王子も剣を抜き臨戦態勢に入った。


「ほほほほほ!そんなちゃちな刃物でこのあたしに太刀打ちできるとでも?」


 王子とサムライたちは赤き竜に切りかかった。しかし、切っても切っても竜の皮膚は再生してしまう。


「分かったでしょう?あたしの皮膚は魔法の呪いで特殊な細工をしてるから、たとえ大砲や爆弾でもあたしの皮膚の鎧を破壊する事はできないわ!」


 赤き竜は稲妻を纏った火炎放射を口から放った!!

 王子とサムライたちは剣と刀で稲妻と炎を切り裂いた。


「なかなかやるじゃない!だったら先にあんたから地獄に送ってあげるわ!」

 

 赤き竜は白雪姫に噛みつこうとした。


「危ない!!!」


 すかさず王子庇った。


「ちっ、カスったわね!」


 赤き竜の牙は王子の背中をカスッただけだが、王子の背中は大きく切り裂かれ、重傷を負った。白雪姫は王子を心配する。


「大丈夫!?」

「ああ、何とか…。」

「くっ…。私も魔法が使えれば…。」


 それを聞いた王子は閃いた。


「そうだ!…もう、これしかない!」

「大丈夫か?!」


 サムライ達がすかさず王子の元に駆け付けた。

 憤怒は大激怒した。


「無抵抗の白雪姫を狙う卑劣の極み!!!本気で怒ったぞ!!!もう絶対にゆるせぬ!!」

「憤怒殿。小人症の中でも、そなたが一番体格が良く動きもよかった。これを…。そなたに勝利を託す…。」

「そうか!その手があったか!」


 赤き竜は攻撃を止めない。今度はサムライたちに噛みつこうとした。憤怒は刀を構えた。しかし、赤き竜の牙は憤怒の刀を粉々に噛み砕いた。


「こんな子どものおもちゃみたいななまくら刀はあたしの敵じゃないわ!!!」


 赤き竜は勝利を確信した。しかし、赤き竜の表情が次第に歪んでいく。


「く、苦しい…。」

「かかったな馬鹿め!」

「あんた、あたしに何をしたの…?」

 

 赤き竜はもだえ苦しみながら問うた。


「お前の顔を引き付ける為にわざと刀を嚙ませたんだよ!刀はオトリだ。お前が刀を噛み砕くことを分かった上で、お前が作った毒リンゴのかけらをお前の口に放り込んだのさ!」

「目には目を。魔法には魔法さ。」

 

 王子はそうつぶやいた。


「魔法で作られた毒リンゴなら魔女にも効くはず。毒を持って毒を制したのさ。」

「そんなバ…。」


 そう言いながら魔女は息絶えた。

 

 数年後。そこには王族の専属医に治療されて元気になった王子と結婚し、幸せに暮らす白雪姫がいた。白雪姫が王位を継いだのである。そして、7人のサムライたちは白雪姫の親衛隊になり、母国では得られなかった名誉を得て白雪姫たちとともに幸せな日々を謳歌していた。

 めでたし、めでたし。

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