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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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トルクエタム④


実に早いものじゃな。

ダンジョンの異変討伐からもう8日が過ぎ。

まだ調査団の調査というのはあるが、最短でも1ヵ月で閉鎖は解かれるじゃろう。


ウォフには1ヵ月ほど待つことになるところが気の毒じゃと思う。

報酬もその関係で後回しになっておる。


幸いにもギルドが利子だけでも払ったので、それでなんとかなるじゃろう。

ウォフには、あの魔女の弟子というので心配があるのう。


なにかあればじゃ。わらわがいつでも相談相手に乗ろう。

じゃが、あやつめ。ミネハが住み着いておるのは……困ったものじゃ。

なんとかしてあげたいが、ミネハじゃからのう。


「提案がありますわ」


仮の拠点として利用しておる高級宿の特別室。

バルコニーのテーブル席。お茶をしながら読書をしておるとルピナスはそう言った。

隣で居眠りしておったリヴが起きる。


「ん……」

「なんじゃ」

「わたくしたち。このハイドランジアに来てどのくらい経ってますの?」

「そうじゃのう。4ヵ月ぐらいじゃな」

「ん……一番長い」

「そうですわ。元々は来たるべき第Ⅱ級試練の訓練として訪れていましたの」

「試験じゃろ」

「わたくしたちにとって試練ですわ」

「ん……リヴはどっちでもいい……」


リヴにとってはそうじゃろうな。

わらわたちトルクエタムは第Ⅱ級試験の参加資格をもっておる。


じゃがいつ試験が開始されるかは不明じゃ。

試験参加資格者にグランドギルドから手紙が届くらしいのじゃがのう。


他の昇級試験は年に2回も行われるのじゃがな。

第Ⅱ級と第Ⅰ級は参加資格者があまりにも少ない為か、年に1回あるかないか。


しかもこのふたつの試験は探索者ギルドの大本であるグランドギルドが直接行う。

そして聞いたところによると試験官は第Ⅰ級探索者。


わらわは、第Ⅰ級が試験官じゃから滅多に行われないのではと思う。

あやつらは変人ばかりで気まぐれで自由ときいておる。


「それがどうかしたのかのう」

「ハイドランジアを拠点とするかどうか、おふたりにお聞きしたいんですの」

「ん……なるへそ……」

「ふむ」


わらわは栞を置いて本を閉じた。

確かにそれもありかも知れんのう。じゃが突然の提案じゃな。

ルピナスは誇らしそうな笑顔で言う。


「わたくしは拠点にしても良いと思います」

「ルピナス。その根拠はなんじゃ」

「あら、長く居座っているでは理由になりませんの?」

「まぁそれもそうじゃがのう」

「ん……太客……みつけた……?」

「リヴ。その言い方は下品ですわ」

「なんじゃ。そうなのかのう」

「相変わらず不思議な直感ですわね……ええ、とても良い支援者になってくれるかもしれませんわ」

「なに、確定はしておらんのか」

「近々、ハイドランジアに来訪する用があり、そのときにわたくしたちを見て正式に決めるという手紙が届きましたの」

「ん……相手……だれ」

「来訪ということはハイドランジアに住んでおらんのか」

「ええ、領地を持ってますの。ハイドランジアには別邸もありませんわ」

「むう? どういう経緯でそうなったんじゃ」

「ん……パキラ……その前に……相手……聞く」

「そうじゃったな。して相手は誰じゃ」

「タサン侯爵家ですわ」

「なっ!? あのタサンか……?」

「ん……あんぐり……びっくり」


そうはいうリヴは眠そうな無表情で口を閉じておった。それはさておいて。

タサン侯爵家。この国で唯一の侯爵でタサン領の領主。

またタサン派の筆頭としてこの国の貴族で第3位の権力を持つ。

文句なしの大貴族だ。


「経緯はそう難しくないですの。きっかけはメガディアですわ」

「ん……黒呑み……」

「ふむ?」

「先日トルクエタムのリーダーとしてギルドに呼び出されたのは覚えてますの?」

「あったのう」

「ん……忘れた……」

「おぬし……」

「そのとき、メガディアから声を掛けてきたんですの。タサン侯爵家が有能な女性探索者の支援制度をしているから興味ある?って言われましたわ」

「支援制度じゃと」

「ええ、確か20年前の女性探索者緩和から女性も稼げることが出来て、年々女性探索者が増加傾向になっているとお聞きましたわ。ふたりとも、ご存じ?」

「さすがにそこまでは知らん」

「ん……興味ない……」


むしろメガディアがそういう事を知っておることに驚いておる。


「ですわね。わたくしも知りませんでしたわ。なんでも将来有望と更なる女性の社会進出の為に設立されたらしいんですの」

「ほう。それも初耳じゃな」

「ん……」

「あまり周知されていないのは、まだ設立されて間もないということですわ。それでその支援制度にメガディアさんが推薦状を出してくれることになったんですの」

「ほう。それで……待て。おぬしは推薦を頼んだのか」

「ええ、即決でしたわ」


わらわはギロッとルピナスを睨んだ。

リヴも眠そうだがルピナスをみつめる。


「たわけ。そういう大事なことはまず皆に相談じゃろう」

「ですがそこはリーダーとして判断したんですの」

「ん……リーダー独断……反対」

「そうじゃぞ。大事なことじゃ。リーダーだから良いとはならん」


たまにルピナスはそういうことをする。困ったものじゃ。

ルピナスはわらわたちに責められて明らかに気落ちする。


「ご、ごめんなさいですわ。今度から気を付けますわ」

「ん……反省は次に生かして……」

「はい。ですわ」

「そうじゃな。次は……本気で怒るからのう」


わらわは追加とジロリ睨む。ルピナスはしょげて頭を下げた。


「は、はい。ですの」


まぁこやつもトルクエタムの為に行動したから、あまり怒れぬ。

やれやれ。わらわも甘いのう。


「それで推薦状の返事が来たというわけじゃな」

「ええ、そうですの。推薦があってすぐ面接に決まったらしいですわ」

「ふうむ。手紙はあるのじゃろう。わらわにも見せてもらおうかのう」

「はいですの。これですわ」


用意がいいのう。わらわは受け取って読む。

こういうのは何があるか分からん。隅から隅まで読むものとわらわは教わっておる。


メガディアがどういう推薦を送ったのかは分からぬが、ふむふむ。なるほどのう。

わらわ達のことは前から知っておって、今回の推薦状で実技審査をパス。


直接面接となったわけか。

具体的な日時は後日、手紙で送るとあるのう。


「どうですの?」

「ん……なにか詐欺……あった?」

「あるわけないですわ」

「そういうのは無いのう。概ね、ルピナスの言う通りじゃ」

「良かったですわ」

「ただしのう。面接は必ずトルクエタムのメンバー全員とある」


まぁちと、特にリヴが心配じゃがたぶん大丈夫じゃろう。


「あら、見落としてましたわ」

「ん……フルメンツ……上等」

「……心配じゃのう」


貴族相手でも容赦なくやらかすからのう、こやつ。

それにしても思わぬ話じゃな。


「話を戻しますわ。ハイドランジアを拠点にするってことでよろしいですの?」

「ふむ。構わぬ」

「ん……異論なし……」

「それではトルクエタムは今日からハイドランジアを拠点とすることにしますわ」

「うむ」

「ん……おー……」


そろそろ拠点を決めねばと感じておったところじゃからのう。

ひとまず不安は消えたわい。


別にのう。わらわはこれで気兼ねなくウォフに会えるようになるとか。

まあ嬉しいのはあるのう。


「ん……拠点申請……出すの……?」

「ええ、色々な優遇処置がありますから」

「待て。確か拠点申請で宿は拠点とならぬはずじゃったぞ」

「えっそうですの?」

「宿をこのまま使うのならば申請は受理されぬぞ」


それでもここに住みながら活動するのは別に構わないがのう。

ただ拠点申請するメリットは多い。


まず拠点としてハイドランジアの行政からパーティー補助を受けることが出来る。

次に拠点となるパーティーハウスの借り入れ。または購入において割引きされる。


拠点とすることで貢献度が加算されるのも大きいのう。

要するにハイドランジアならびにギルドへの貢献による優遇が発生するものじゃ。


色々とあるが一番大きいのは商店の割引じゃな。

それと税金も減税処置される。これもかなりお得じゃ。


「ん……諦めるかどうか……難しい」

「宿とはいえ特別室ですから居心地は悪くないのがなんともですわね」

「台所があるからのう」


特別室は他の部屋に無いのがある。

台所と洗濯室じゃ。もっとも使うのはルピナスだけじゃがのう。

ルピナスは悩み考えておる。


「……うーん」

「のう。ルピナスよ。それ以外は後でも良いじゃろう。この街を拠点にすることは決まったんじゃ。後は、タサン侯爵家が支援者になった後で考えればよい」

「ん……それ……な」

「そうですわね」


ルピナスは頷いた。そんなに急ぐことではないからのう。

まずはタサンの面接合格が今の最善じゃ。


「ふう」


ルピナスは安堵の表情でお茶を飲む。

ウォフに貰ったお茶じゃ。柑橘系じゃったな。


「ん……ルピナス……忘れてる……」

「なにがですの」

「なにがじゃ」

「……エリクサー……ウォフのこと……」

「なにっ……?」


わらわは少しだけ動揺する。

ほんの少しじゃ。ルピナスは苦笑した。


「そうでしたわ。うっかりしていました。パキラ。あなたも気付いているでしょう。あの日、わたくしたちを助けたのは子供。いいえ。ウォフ君ですわ」

「ん……」

「……何故、分かったのじゃ」


この時点で、わらわは観念した。

リヴがおるのでいずれ分かることでもある。


「パキラ。あなたが、お腹に穴が開いて死ぬ寸前のクルトンに使ったのはエリクサーですわね。探索前にウォフ君から貰ったの見ていましたわ」

「ん……あと匂い……少年……エリクサーの匂い……強い」

「いかにもそうじゃ。主らに黙っておったのは、事はわらわだけの問題ではないからのう。じゃが、あいすまぬ」

「構いませんわ」

「ん……気にしない……」

「―――それでどうするつもりじゃ」

「話はしたいと思っていますわ」

「ん……一度ちゃんと話……したほうがいい……」

「ふむ。そうじゃな。今度ウォフに会ったとき、伝えておくとしよう」

「ええ、頼みましたわ。ただパキラ。あなたにも勘違いして欲しくありませんの」

「というと、なんじゃ」

「わたくしはウォフ君を責め立てるわけではありませんの。無理に訊き出したりもしませんわ。ただ話をしたいだけですの。それらも伝えて欲しいですわ」


ルピナスは穏やかな表情で言った。

わらわは微笑む。


「うむ。しかと伝えよう」

「ええ、頼みましたわ」


紅茶を優雅に飲む。

これで話は終わりじゃろう。わらわも本の続きを……今、良い場面なんじゃ。

黒月の騎士ルドトが光輝姫ニニヴァと夜の天空園でついに逢―――ドアが叩かれる。

なんじゃ。


「なんですの」

「ん……誰か来た……」

「ドア前におるということは知り合いじゃな」


少なくともフロントのカウンターを通れるのは見知った者だけじゃ。

リヴが立ち上がってドアの鍵を開ける。


飛び込むように入って来たのはビッドじゃった。

ホーランドロップの耳をした兎種の黒髪の女の子じゃ。


わらわたちと同じ第Ⅲ級探索者。

随分と荒い息じゃのう。


「はぁっはぁっ、はぁっはぁっ、た、大変っス!」

「なんじゃ?」

「なんですの」

「ん……」

「う、ウチのパーティーが……ザン・ブレイブが解散したっス!!」


なんじゃと。



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