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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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魔女の弟子④


魔女は意識を取り戻した。

そしてテーブルの上にあるピンク色のあのハーブティーを勢いよく飲む。

あっ……まあいいか。


「ごくごく、ごくごく、ぷはあぁー、し、し、死ぬかと思っただねえ……」

「す、すみません」

「やれやれ、驚いた驚いたねえ。それはもう驚くってもんだねえ」


魔女は語彙力が弱くなり、三つの尻尾を振って黒のソファに座る。


「そ、そうですよね」

「まさかまさか、あの疑似化神《ぎじけしん》レリックだなんてねえ」

「疑似……?」

「おやおや、知らないのかねえ。ウォフ少年。疑似化神《ぎじけしん》レリック。伝説のレリックだねえ。コンもこの疑似化神《ぎじけしん》レリックの持主を見るのはこれで4人目だねえ」

「他にも居るんですか!?」


今度は僕のほうが驚いた。


「うんうん。第Ⅰ級にふたり。セイホウ教にひとり。他にひとりだねえ」

「セイホウにもいるんですか」


セイホウ教。一般的にはセイホウと呼ぶ。

世界最大の宗教だ。町や村にある教会はその殆どがセイホウ教のモノだ。

教義は『皆にセイホウの恵みあれ』で広く人々の間に知れ渡っている。


僕が知っているのはこれくらい。

詳しく知っている人なんてそんなにいないだろう。

教会に疑似化神レリックの所有者が居るのか。それっていいのか。


「第Ⅰ級のは……それって再来といわれている……」

「ああ、ああ、ナーシセスも居たねえ。おや、おや、しかしジェネラスがふたりってことになるねえ。うーむ」


魔女は考えるように顎に手を当てる。

僕は不安になった。


「なにかまずいんですか」

「いやいや、特に今すぐまずいってわけはないねえ」

「今すぐは、ですか」

「まあまあ、ウォフくんがジェネラスになれるってことがバレない限りはねえ」

「それもそうですね」


バレなければいいか。


「さてさて、これで秘密は全部―――」

「じゃないですよ。もう僕は持っていないですけど、魔女は制約レリック【バニッシュメントライン】って知っていますか」

「ふむふむ。初耳だねえ。それも制約レリックとはねえ」


僕は大神殿で起きた出来事。クラウンをそれで倒した事。

それによって帰納法で世界が改変したことを話した。

魔女は黙って聞いて、小さく頷いた。


「うんうん。それは神々のしかもとても古い御業だねえ」

「やっぱり神の力なんですか」

「そうそう。疑似化神レリックじゃないと、とても扱えないレリックだねえ」

「僕は……魔物だけどクラウン。ザ・フールという魔物の存在を完全に消してしまいました。そうしないとアクスさんとビッドさんが……皆が助からなかったとはいえ、本当にそれで良かったのか」


たまに思う。たまに考える。

だけどまた同じ選択肢があったら僕はまた選ぶ。また繰り返すだろう。

だからこそ悩むのかもしれない。


「まあまあ、済んでしまったことはしょうがないねえ」

「それはそうなんですが」

「ねえねえ、ウォフ少年。人生なんて選択肢の連続。たまに後悔することはあるけどねえ。そこから学んで次に生かすぐらいの気持ちでいいんじゃないかねえ」

「魔女も後悔したことあるんですか」

「それはそれは、とても沢山あるねえ。いやもう山ほどあるねえ。それにそれにねえ。ウォフ少年。実はねえ。コンも昔、似たような制約レリックを使って似たようなことをしたことがあるんだねえ」

「えっ、魔女も!?」

「うんうん。これは本当なら、コンの中に秘めて死ぬまでもっていくつもりだったけどねえ。同じ経験をしたコンの弟子になら話してもいいねえ」

「いいんですか。ありがとうございます」

「うんうん。それはそれは、あるダンジョンの最深部……ダンジョンマスターと呼ばれたアレキサンダー率いる第Ⅰ級の探索者のパーティー。たった一夜の明を呼ぶ烏・レイヴンサーガはダンジョンロードで至宝級上位の魔物デカタントによって全滅寸前まで追い込まれたんだねえ。コンは最後の力を振り絞り彼等の犠牲を払って、制約レリック【デストラクション・ゼロ】を使った。それでデカタントをこの世界から完全に消したんだねえ。そうしたらそれが最初から居なかったようになってねえ。ウォフ少年が言う通り、コン以外はそのことを覚えていなかったねえ。【デストラクション・ゼロ】も無くなっていた。おまけにレイヴンサーガは街のダンジョンで至宝級中位の魔物の亜種アブストラクト・エゴを倒したことになってて、思わず笑ったねえ」

「アレキサンダーさんたちはそのとき……死んでたんですか。ひょっとして、この世界ってそうやって何かが消えてそのたびに世界が変わっていっている……?」


僕は自分で言ってからとても怖くなった。

それはまたなんという世界だ。

こうしている間にも誰かが何かを消して変わっているのかもしれない。


そしていつか誰も気付かずに世界が無くなったら。

不安になる僕を魔女はみつめる。フッと笑う。


「ふむふむ。言う通りかもしれないねえ。でもねえ。ウォフ少年。コンはこう思う。消えるモノがあれば生まれてくるモノがある。それが消えたからこそ生まれるモノもあるかも知れない。そしてその世界だからこそ、出会えるモノもあるかも知れない、とねえ」

「それはまた楽観的ですね」

「まあまあ、それがそれがねえ。コンという魔女だからねえ」


ゆえに魔女か。

クラウンが消えたことで生まれたモノ。

クラウンが消えた世界だから出会えるモノか。

うーん。やっぱり楽観視だな。だけど少しだけホッとした。


まあ、アクスさんとビッドさんが生きていて良かったと思う。

惨劇も無くなったから被害者も無い。


うん。とりあえず、それでいい。それも楽観視だなと思う。

だけどそれでいいのかも知れない。


「ありがとうございます。魔女」

「いやいや、師匠として悩める弟子にアドバイスをするのは当然だねえ」


魔女は得意げに笑った。


「さてさて、これでウォフ少年の秘密は全部」

「まだあります」

「うーむうーむ。まだあるんだねえ……」


さすがの魔女も感心半分で呆れ半分になっていた。

僕はポーチからエリクサーの神聖卵を出した。

途端、魔女の眼の色が変わる。


「これはこれは、神聖卵だねえ」

「エリクサーの神聖卵です」

「ふむふむ。よりにもよって一番多いほうだねえ。まぁちょっとビックリしたけど、神聖卵は割とあるほうだねえ」


そうなのか。

ミネハさんが生まれるとき母子ともに助かったのもエリクサーの神聖卵だった。

でも、そのときの神聖卵は使ったらカラになったままだったような。


「それでこの神聖卵なんですけど、10分ぐらいで満杯になるんです」

「え? え?」


魔女の反応が変わった。


「魔女?」

「…………ふむ。ふむ。ふむふむ。それなら見せてもらおうかねえ。ウォフ少年を疑っているわけじゃないねえ。コンは見たい。実際に満杯になるのをねえ」

「わかりました」


僕は蓋を開けて中身をカラになった白磁のカップに入れる。

透明でどこか粘度があって微かに光る液体だ。


「うんうん。間違いないねえ。エリクサーだねえ」


言いながら魔女は棚にあった砂時計を手にする。

ひっくり返した。


「ちょうど10分ですか」

「そうそう。そういえばウォフ少年に色違いを渡したんだったねえ」

「今も重宝してます。その間に最後の秘密を出しますね」

「……まだまだ、あったんだねえ」


魔女は苦笑する。僕はポーチから四角い黒板を出した。赤い線が横に入っている。

それをテーブルに置くと魔女の眼つきが変わった。


「レリックプレートです」

「これはこれは、また面白いモノだねえ……」


やっぱり知っていたか。

元第Ⅰ級のアレキサンダーさんも知っていた。そういえば。


「魔女は第Ⅰ級討伐者なんですか」

「おやおや、ウォフ少年。知らなかったのかねえ。うん。最近はずっと探索していないけど、まっコンは第Ⅰ級探索者だねえ。【天蓋の魔女】と呼ばれているねえ」

「……そうだったんですね」


そこで僕はひとつの疑問が生まれた。

魔女の名前なんだろう。魔女と呼べって言われてずっと魔女って呼んでいた。


まあ見た目や言動から魔女だから違和感が無かった。

だから今まで疑問に思わなかったのもある。


「魔女の名前は何と言うんですか」

「ねえねえ、ウォフ少年。プレートに触ってもいいかねえ」

「あっはい。それは構いませんけど」


なんか遮られた?

プレートに触れると魔女は目を見開き、苦笑した。


うーむ。名前はタブーか。


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