表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/284

魔女の弟子②

あのまま居間に通された。

相変わらず色々なモノでゴチャゴチャしていて、なんだか懐かしくなる。


本棚に入りきれない書物や巻物の山々。

何に使うかまったく分からない怪しい道具類の山と箱。

三日月の器もここにあったな。


杖入れの筒からはみ出して転がった沢山の杖と金属の棒などなど。

あれ、あの杖。パキラさんが持っている杖に似ている。宝玉の色が違う。


床には高そうな絵画と壺と彫像と剥製。あの壺。アリファさんの店で見たな。

魔物の角やらの素材が無造作に置かれていた。サンダーブルの角もある。


それとネックレスや腕輪や指輪などのアクセサリーが数多に転がっている。

かろうじて無事なのは、ゆったりした赤いソファと僕の前のテーブルの空間だけだ。


魔女は着替えにいった。

それは当然だろう。そのまま接したら僕が死ぬる。


それにしても大きな狐耳の先まで真っ赤にしていて大慌てだったなあ。

胸と下を腕で隠して、涙目になっていた。


あんな魔女でもしっかり羞恥心があって良かった良かった。うんうん。

いや、それならば、なんで全裸でいたんだ?

魔女はひょっとして裸族なのか? 魔女だからそれもありえる。


「なんで裸なんですかって聞いていいのかどうか」


悩む。これは悩むぞ。


「……うーん。ううーん。うーむ。ううーむ」


そう僕は取り急ぎと置かれた格式高そうな白磁のカップから目を逸らす。

魔女お馴染みのハーブティーだ。隠したままほぼ全裸で置かれた。


「…………」


今回はルビー色だった。一瞬紅茶かなと思った。

紅茶と《《目が合わなければ》》手に取って優雅に飲んでいたかもしれない。


「…………」


紅茶の中に瞳があった。

ルビーの液体に浮かんぶ、たった一つ目がジッと僕を見ている。


軽く見てしまったときアイラインやマスカラをしているのが分かった。

女性の瞳だ。だからどうしたバカ野郎。


「…………」


視線を感じる。明らかにジィぃーーーっと僕を見ている。

こんなとき前世の記憶が憎い。


なにが『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』だよっ!?

物理的に深淵が覗くわけじゃないっあと神は死んだんだっ。


「ま、ま、おま、お待たせしたねえ」


魔女が来た。真っ黒い柄のケープを付けて赤柄の入った真っ黒いドレス。

相変わらず実に魔女らしい恰好だ。


そしてやっぱり胸元が大胆に開いてスカートが短い。

三つのフサフサもふもふの尻尾が飛び出ていて目立つ。

ほんの少し屈むだけでスカートの中身が見えそう、というか見えるんだよなあれ。


「あ、あのお久しぶりです。魔女」

「そ、そ、そうだねえ。お久しぶりだねえ」


実際は1週間ちょっと、だからまあ久しぶりといえばそうか。

魔女は顔をほんのり赤くし、僕をちらちらっと見ている。

さっきの裸の事があって気まずい空気が流れていた。

いやここで黙っているのはよくない。


「実は、その僕は魔女に」

「実は実は、ごめんなさいなんだねえ!」


いきなり魔女が頭を下げて謝る。えっなんで。


「どうして謝るんですか」

「それはそれは、アクスとミネハのことだねえ」

「ああ、あれはやっぱり魔女の仕業でしたか」

「えとえと、怒ってないんだねえ?」


淡白な僕の反応に魔女は困った。

僕に怒られる覚悟をしていたんだろう。


「怒っていないと云われれば―――まあ最初はそれどうなのかなとは思いました」

「ううん。ううん。ごめんなさいだねえ……」

「もう今は怒っていないですよ。色々とありましたが、アクスさんは母親との確執も解消するように手紙を書いて送ったようです。ミネハさんとも普通に接しています」

「そ、そ、それは、僥倖だねえ」


魔女は驚いていた。そしてホッとしていた。

僕の対面の黒いソファに座って安堵する。


今回のは魔女も無茶ぶりだと思っていたようだ。

よし。ここだ。このタイミングと間だ。今だっ!


「実は、魔女。僕も魔女に謝り」

「うんうんっ! やっぱりウォフ少年はコンの自慢の弟子だねえ!」

「なっ―――……!?」


満面の暢気な笑顔に僕は言葉を詰まらせた。んだと……?


「ど、ど、どうしたんだねえ?」

「どうしたもこうしたも……僕はあの魔女の……」


『弟子だったんですか?』&『あるいは弟子でしたか?』という言葉を飲み込んだ。

僕はどうやら魔女の中では本当に弟子だったようだ。


弟子だとか言われてないのでまったく気付かなかった。

それならば改めて確認することではない。


よくよく考えると親切すぎると思ったのも弟子だからだと分かった。

だから「弟子だとは思わなかった」なんて言えるわけがない。


それに僕も弟子という立場を何度か利用している。

でも、このまま進めるのはなんだか……モヤモヤする。


「ん? ん? 魔女の……なにかねえ」

「あの……ごめんなさい。僕は魔女の弟子だと思っていなかったです」

「え? え? そ、それは、だねえ。ど、どういうことかねえ……」


魔女は動揺していた。ひどく驚いて、そしてショックを受けていた。

僕は心が少し痛む。分かっていたことだけどその様子を見るのはつらい。

だが僕には大きな疑問があった。


「あの、落ち着いてきいてください」

「う、う、ウォフ少年がコンの弟子じゃなかったんだねえ……弟子だよねえ?」

「弟子だと思っていません」

「うぅーあー、うぅーあー、ウォフ少年がコンの弟子じゃなかったなんてねえ……」

「だけど、いいですか。魔女!」

「あああぁぁーーー、あああぁぁーーー、ウォフ少年はコンの、コンのっ」


えっウソだろ。泣き出しそうになっているぞこの魔女。

ダメだ。ここからだと伝わらない。距離が遠すぎる。


僕は勢いよく立つとソファに寝転がり背を向ける魔女に近寄り、強引にその腕を掴んで、うわっ! 引っ張られた。凄い力!?


「わぁっっっ!」

「っ!? っ!? ウォ、ウォ、ウォフ少年ねえ!?」


体格差もあって僕は足も引っ掛け、魔女におもいっきり倒れ込んだ。

うわぁっぽよんってめちゃっえつなにこれ柔らかすぎ……じゃなくて!


慌てて起き上がると魔女と目が合った。

顔が近い。凄く近い。そして息を呑んだ。


魔女は涙目だった。えっなんで、なんで泣いているんだ。


そ、それより魔女をソファで押し倒したような姿勢になっている。

急いで離れないと―――魔女は僕を見つめたまま涙を流す。


魔女が泣いている。

あの魔女が泣いている。


ったく、もう!

ホントに本気で泣くほどじゃないだろっ!


「ったくもう、魔女。泣いてないで、ちゃんと聞いてください」

「なな、なな、こ、こ、コンは泣いてなんか、な、ないんだよねえっ」

「だったら泣き止んで下さい。そもそも、いいですか。ちゃんとしっかり聞いてください。僕は魔女から弟子だとは一度も言われてません!」

「えっ、えっ、え? そうだったかねえ……」


泣きながらきょとんとする魔女。

僕はため息をついた。


それにしても魔女。良い匂いがする。ああ、これ牛乳石鹸の匂いだ。

それに掴んでいる腕とか伝わる汗と感触とか、あたたかさとか……気持ちいい。


そうだな。女はこういう―――って違うだろ!? 

ウォフおまえは13歳だろっ!? 

そう言うのは前世の記憶でも早い! 


落ち着け。落ち着け。だけど【静者】を使うのは違う気がする。

小さく深呼吸。魔女がなんかぴくぴくっしているけど気にしたら負けだ!


ようやくようやっと心を整えて僕は言った。


「……魔女。僕は弟子になれって言われたら、素直に受けていました」

「!? う、う、ウォ、ほ、本当に? 本当にそうなんだねえ……!?」

「はい。だから魔女。しっかり言ってください」


僕は魔女の瞳をみつめる。魔女の涙は止まっていた。

魔女は満面に嬉しく微笑んだ。


「うん。うん。ウォフ少年。コンの弟子になってください……だねえ」

「はい。僕は魔女の弟子です」


ハッキリと言う。今日から僕は魔女の弟子だ。

これで僕の中でしっかりとケジメがついた。

よし。本題に入ろう。


まずはこの誰かに見られたら言い訳できない体勢をどうにかしてからだ。

えっちょっ魔女。なんで目を閉じる。なんで頬を赤らめているっ!?

違うそうじゃないっっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ