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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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魔女の弟子①

この世界は前世とは比べられないほど過酷で人の価値が低い。

いくら僕が前世の記憶がある存在だったとしてもだ。


ただ今の年齢では理解できないことも分かるのは便利だったりする。

でも僕の前世の記憶はこの世界を変革できたりとかは出来ない。


マヨネーズのつくりかたも知らない。

ホントなんで知らないんだろうな。

ドレッシングのつくりかたは知っているのにな。


「さてと、そろそろ起きるか。いててっ」


古い木枠に藁を敷いたベッド。硬くてたまに腰とか関節が痛い。

本当にちょっとなんとかしないとな。布団か。うん。考えるか。


それと、そろそろ藁を替えないと虫が湧く。

というか帰ってきたら湧いてて酷かった。


【バニッシュ】で対処した。さよなら藁。こんにちは新しい藁。

殺虫剤でも作れたらいいんだけど、そんな知識もない。


ああ、でも知ってそうなひとは知っている。

とりあえず樽に溜めた水で顔を洗って、割れている鏡に顔を映す。


「……何度見ても慣れない」


苦笑する。青髪銀目。幼い顔立ち。本当に幼い。

実際13歳だから幼いのは当然か。


それと割れた鏡をどうにかしないといけない。

これもしっかりしたヤツでも買うか。確かアリファさんの店にあったな。


「…………」


毎朝、飽きるほど見る。僕の顔。

今までは、どこか遠くの少年を見るようで自分だという感覚は薄かった。


でも今は僕がウォフだと小さな声で言えるぐらいには自覚がある。

大きな声はまだ無理だ。

苦笑して布で顔を拭いて、朝食のパン豆を食べる。


パンのようにモチモチした大きな豆。

焼くと柔らかく素朴な味。嫌いじゃない。


強引に冷たいお茶で流し込んで食べ終わり。

今日のは柑橘系のお茶だ。


魔女に貰った僕でも出来る調合メモは重宝している。

ほぼ毎日、三日月の器でお茶ばかりつくっていた。


おっと忘れてはいけない。皿いっぱいにパン豆を用意する。

後で見張り塔を不法占拠している彼女が食べる分だ。


パン豆だけでは文句を言うので雑肉スープも用意する。

昨日の余りだ。少し煮て残りを全部……おわんに山盛り。これでよし。


雑肉はいい。雑肉はいいぞ。

こんなにコスパが良いとは知らなかった。ホッスさんに感謝だ。


後は日課の訓練。

【バニッシュ】の鍛錬と応用。


クラウンとの戦いで自分は【バニッシュ】をまだ扱い切れていなかった。

だから【バニッシュ】で出来ることを色々と試す。

他にも【静者】になったり【ジェネラス】の検証。


【ジェネラス】は活動時間5分。クールタイム1日だと分かった。

これは所持したときに検証することだった。


まぁ悔いても仕方ない。今後も扱いは慎重には変わらない。

それらが終わると真新しいナイフを装備して家を出た。


新しいナイフ。

しかもこのナイフはタダで手に入れた。


やっぱり先に無事に戻ってきていて、酒場で相変わらず飲んでいた。

そうアガロさんだ。

上機嫌な彼に討伐記念に欲しいモノはないか聞かれ、真っ先にナイフと答えた。

そうしたらアリファさんの店の奥に眠っていたこの赤いナイフをくれた。


アガロさんが第Ⅳ級の頃に愛用していたナイフだという。

片刃の造りはシンプルで鞘と拵えは何度か替えたと言っていた。

今はサラマンダーの革製の鞘。で柄はサンダーブルの角。

あの雷を纏った牛の角か。


そして一度も替えていない刃は赤銅のように煤けて真っ赤な色をしていた。

刃紋が荒波のように入っている。


少し反っていて今まで一番長い。短剣かと思うほどだ。

というよりもこのナイフ。前世の記憶の片隅にあるナイフに似ている。


あの帽子がトレードマークで飼っていた犬の名前を使っている冒険家のナイフ。

シンプルなデザインだが格好良かった。


ちなみにこのナイフはオーパーツではない。

ナイフ。ありがたや。ありがたや。


ダンジョンの討伐から6日が経った。

早いなと思ったけど実はそうでもなかったりする。


帰還先はハイドランジアの討伐者ギルドの地下だった。

帰還ルームといって床に大きな転移帰還陣が設置してある。


この大きな転移帰還陣はレジェンダリーだ。

アレキサンダーさんが設置している転移帰還陣はレガシー。

正直、そう言われても違いがうまく分からない。


レジェンダリーはまだ分かる。

でも正直レガシーとオーパーツが未だによく分からない。

それは僕がまだ探索者じゃないからだろう。


そういえばアレキサンダーさん。

最初は残るって言っていたけど一緒に戻ってきていたな。


だけど「では、あっしはこれでまたお会いできればと思いやす」って消えた。

また会えたらいいな。釣り以外で。


帰還した僕達を待っていたのはギルドの職員とギルドマスターだった。

金髪のエルフで白いシャツとズボンの男性……化粧をしていた。

アランスさんというらしい。あらんっていうのが口癖のオネエである。


メガディアさんがリーダーとしてアランスさんに経緯を話すと案内されて行った。

僕達は解散となるが、後日。呼び出すことがあるかも知れないと言われた。


疲れたので真っ先に家へ、帰るとき何故かミネハさんも一緒だった。

そしてそのまま塔の不法占拠を今も続けている。


 今日の空は曇っていた。

 街の白い建物が一段と鈍くみえる。


この街の壁や建物の材質は魔物避けの効力がある。

だから街の中を含め周辺に幾つもダンジョンがあるのに今も存続しているわけだ。


街の名前はハイドランジア。水の容器という意味だ。

確かに地下水が豊富で水に困らない住みやすさは辺境で一番の街だ。


もっともこの国自体が肥沃な大地で大陸の食料庫なんて呼ばれている。


ハイドランジアの西地区の広場。鐘楼の隣。

ぽっかりと大きな怪物の口《洞穴》が突如としてあらわれた。

この洞穴がダンジョンの入り口。しかしまだ閉鎖されている。


「こんにちは。ガウロさん」


僕は門番に挨拶した。

ガウロさんだ。ベテランの門番。顔に傷があり盗賊みたいな面相だ。

昔は探索者だったが、顔に傷を負ってから門番になった経緯がある。


「よう。悪いなウォフ。まだ閉鎖中だ」


ダンジョンの異変は解決した。

だが調査団が調査した結果で異常無しと判断されないと閉鎖は解かれない。


「はい。今日は様子を見に来ただけなんで」

「まあゴミ場は《《何もないからすぐに使えるだろう》》」


クラウンが完全に消えたので配下のミミックも関与していないことになった。

だからゴミ場の惨劇も無かった。

ミミック代わりのリザードマンでも被害は出たが、惨劇というほどじゃない。


アガロさんがそのときのボス・リザードジェネラルを倒した。

僕もその場にいて、やはり女の子を助けた。


「それは良かったです」

「早く再開してやりたいんだけどなぁ。毎日来ているガキが何人か居てなぁ」

「それは仕方ありませんよ」


ガウロさんのことだ。来た子供たちに飯でも奢っているんだろう。

僕も奢ってもらったことがあるからだ。


「あっそうだ。これ、この前の探索のときに貰ったんですけど」


僕は青銅製の指輪を見せる。


「探索ってそういえばおまえ異変討伐のとき、なんだ。こいつがどうかしたか」

「あげます。売ればそれなりになるはずです」

「お、おいっ!?」


僕は指輪を投げ渡した。

ダンジョンのリザードマンの巣で手に入れた青銅製の指輪だ。


帰納法でも僕は【静者】であの巣で無双したことになっている。

それなりと言ったが、本当はいくらになるのかは分からない。

でもそれでご飯が食べられる子供が増えるなら、それでいい。


「ウォフ。こんなの貰え……チッ、行っちまった」


断るのは目に見えているので僕は笑って逃げた。





ハイドランジアの街の南西。この辺りで2番目の森の奥。

ぐねりと曲がった大木の根元の洞に煉瓦の家がある。


木のドアの斜め上の呼び鈴を鳴らす。


チリンチリン。


「はいはい。いま行くねえ」


魔女の声がして、僕はドキドキしていた。

魔女に会うのは随分と久しぶりだ。

帰還して色々あってすぐに会えなくて、それが余計に苦しかった。

僕は魔女にどうしても話さなければいけないことがある。

その前にどうしても謝らないといけない。


ドアが開く。


「あ、あの魔女。おひさ、うわああああぁぁぁっつつっ!?」


僕は想わず悲鳴をあげた。それはそうだ。

魔女は笑顔だったが全裸だった。

そう真っ裸で何も着ていなかった。


なんでだよっ!?



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