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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season1

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80/284

クラウンオブザワンダーランド⑧


野営地を引き払い、僕達は大神殿へ向かっている。

そして今、僕は大事な戦いの前だというのに羞恥乱舞の真っただ中に居る。


うーあー、昨日まさか泣くとは思わなかった。

しかも慰められるとは思わなかった。


それはさ。色々とさ。溜め込んでいたものはある。

特にナイフ。いやもう思った以上に心にガッツリ刺さっていたナイフ。


それと簡単に吐き出せないとはいえ、だからといってつい吐いて……あんな。

パキラさんにあんな醜態を見せてしまった。まともにパキラさんを見れない。


「はぁ……」

「おい。大丈夫か」

「は、はい」

「ウォフ。しっかり寝たんか?」

「実はあんまり」


寝れるわけがない。

レルさんが眼鏡をくいっとあげる。


「睡眠は大切だ。だが9番目の姉みたいになるな」

「なにをしたんですか。そのお姉さん」

「寝てばかりいる」

「……」

「なんとも言えねえべ」


レルさんの姉妹の話で少し気が楽になった。

途中でパペットや移動型のミミックに遭遇して倒す。

他の魔物もちらほらと見掛ける。


「ここはエッダの聖域よ」


そう主に倒しているのはメガディアさんだ。

ダンジョンの最深部だとしてもだ。


エッダの聖域を魔物が闊歩しているのが許せないらしい。

なにかエッダとして思うところがあるのだろう。


彼女は黒い球を複数出現させ、それで攻撃していた。

触れたモノを消しているところは【バニッシュ】に似ていた。


あれが『黒呑みのメガディア』の由来元だろう。

しかし複数を遠隔操作するところは【ファンタスマゴリア】に似ている。

エッダだからだろうか。


そんな感じで順調に進んでいくと、大神殿の正面まで着いた。

目の前の巨大な扉は閉まっている。


「うはっー凄いっスね」

「人の力では開けられそうにはないのう」

「ん……ルピナスは……いけそう?」

「わたくしをなんだと思ってますの。無理ですわ」

「……アタシ。やっぱりこの辺で待っている」


ミネハさんは力無く折れた柱の上に飛んだ。

すっかりトラウマになっていた。それを見てメガディアさんが言う。


「全員で戦う必要はもうないわ。ただケジメをつけるだけよ。ただしウォフくんは強制参加ね。悪いけれど」


僕はクラウンの【バニッシュ】を見ることが出来る。

それで揉めた。探索者でもない子供を戦いに巻き込むのは良くない。


それは当然だ。

結局、敵の危険性が上回り僕はこの戦いに参加することになった。


「では、こうしやしょう。あっしは今から大神殿の空き部屋に帰還転移陣を設置してきやす。ただ設置している間、あっしは無防備になりやすので、その護衛をお願いしたいんでやす」

「それならわたくしが申し出ますわ」


真っ先にそう言ったのはルピナスさんだった。


「ルピナス……おぬしが!?」

「守るのは得意ですの。それにお詫びも兼ねてますわ」

「お詫びでやすか?」

「ええ、ですからアレキサンダー様はわたくしが必ずお守り致しますわ」


同じ魔物だと疑って断罪しようとしたお詫びかな。

そういえばアレキサンダーさんが戻ってきてから有耶無耶になった。

なにせそれどころじゃなかったから、当の本人は何も知らないけど。


「オラも残るべ。話を聞いてるどクラウンっていうのどうも苦手ただ。皆の勝利のメシをつくってるだ」

「俺も残ろう。ただしアクス。おまえだけは参加しろ。ウォフを守れ」

「ああ、わかった」

「ん……リヴも残る」

「なんですって」

「なんじゃと」


トルクエタムのメンバーが驚いた。

リヴさんはボソボソ呟く。


「……クラウン……リヴのタイプじゃない……」

「それならこっちを手伝いなさい」

「ん……わかった……パキラ……任せた」

「仕方がないのう」

「残るのはこれだけね」


居残りは、ミネハさん。アレキサンダーさん。ルピナスさん。リヴさん。

レルさん。ホッスさんか。


そして決戦組は、メガディアさん。僕。パキラさん。アクスさんか。


「この巨大な扉はエッダに反応するの」


メガディアさんは巨大扉に触れる。

気のせいか。メガディアさんの紫の瞳が光っているような。


「<ロケア>」


彼女が唱えると巨大な扉は反応して開き始めた。


「ほ、本当に開いた」

「エッダにしか反応しないっスか」

「そうね。この扉自体はレジェンダリーだわ」

「昨日はなんで開いたんでやすかね」

「何か誤作動でも起こしたのかのう」

「そんなはずないけど」

「あーもう。緊張感無いっスね」

「あなたが言うと違和感がありますわ」

「ルピナスさん。どーいう意味っスか!」


皆が笑う。僕も笑った。

これから決戦だというのに、ホント緊張感がない。


でもなんだかそれがいい。僕達はそれでいい。

巨大な両扉は完全に開かれた。


「では、あっしたちは設置しに行くでやす」

「ええ、お供しますわ」

「ん……行って来る」

「オラたちは神殿街で食料調達してくるべ」

「ごちそう作って待っているぞ。ホッスが」

「レルも手伝え」

「気を付けてね。ウォフ」

「はい。ミネハさん」

「<ロジト>」


メガディアさんが唱えると巨大な扉はゆっくりと閉まっていく。

メガディアさんが先頭で入った。

そしてビッドさん。パキラさんと最後に僕。


巨大な両扉は重い音をたてて閉まる。

こうして待機組と分かれた。

天井一面に煌めくステンドグラス。広い礼拝の間。


「な、なんっスかこの圧力……」

「なんじゃ。この威圧……」

「ひでえなぁこりゃあ」

「少し感じるわね」


メガディアさんでも少し感じるのか。

僕は何も感じない。


そして奥にあるジェネラス再来の少女像。その真下の派手で陳腐な玉座? 

その横に誰か倒れている。クラウンだ。苦しそうにゴロゴロ寝転がっている。


【危機判別】だとクラウンは赤か。


「なんだ? あいつも圧力にやられているのか」


アクスさんが剣を抜いたまま困惑している。


「この圧力だと無理ないっスけど」

「なんだかマヌケね」

「なんじゃかのう」


確かになんだこの……うーん。


そういえばアレキサンダーさんが言っていた。


クラウンは逃げる魔物だ。

だからここに逃げ込み、扉が閉じて出られなくなった。

なんともマヌケだが、道化師らしい。


そう僕達は思っていた。

アクスさんたちが武器を手にしてクラウンへ向かっていく。


瞬間、僕は見た。


「っ!?」


頭上だ。真っ黒い大きな何かが降ってきた。

真っ黒い。


「ウォフくん危ないっス!!」


どんっと誰かに強く押された。

直後、凄まじい振動と轟音が遠くに木霊した。














『アッハハハハハハハハハハハハハッッッツッッ』


笑い声が聞こえる。


『アーッハハハハハハハハハハハハハハァァァッッッ』


馬鹿笑い声が聞こえる。

なんだ、身体がうまく……動かない……痛みがする……なにがあった……?


腕は動く。脚は……無理か。

それなら……ポーチに手を入れる。奥にある、卵に触れた。

握って取り出す。開けてなんとか……口に入れた。


そういえば初めて、エリクサーを飲んだ。

なんだ。体が力が意識が―――急激に戻っていく感覚がある。


僕は立ち上がった。立ち上がれた。身体の痛みも無い。

そして見る。

巨大な黒い何かが大神殿の礼拝の間を崩壊させた。


ジェネラスの神像も砕かれていた。いやそんなのどうでもいい。

皆は無事か……え。


僕は言葉を失う。


「…………———え」


黒い何かの隅っこにメガディアさんが倒れていた。気のせいか。

首が変な方向にまがっている気がする。

ビッドさんの姿がない。

そうだあのとき僕を押したのはビッドさんだ。


彼女はどこへ―――ふと彼女の短弓が転がっていた。

そして……黒い巨大な何かの下から小さな腕が。


あの革製の籠手。


いや……そ、そんなウソだ……アクスさんは!?

慌てて見回してすぐ見つけた。

あ、アクスさんのけ、剣だけが……あった。


アクスさんは!? アクスさんはどこへ!?

そんなすぐ近くにいるはずだ、いるはずだっっ!?


「う、ウォフ……」

「パキラさんっ」


血だらけでよろめくパキラさんに僕は駆け寄る。

ひどい怪我だ。でも無事だった。それだけはよかった。


「い、いったいなにが」

「……あれは……わらわたちが倒した……巨大な陸ナマズの死骸じゃ……」

「それってダンジョンの異変……」


あんなにでかかったのか。クジラよりでかいぞ。


「その死骸が…………」


落した。上から。

どうやって? 転移だ。レリック【転移】だ。


そうすると地震が起きたときの転移は……誰の仕業だ。

クラウンだ。


『アーッハハハハハハハハハハッッッッッッッ』


死骸の上でクラウンは寝転がって叩いて大笑いしている。

あいつが全ての元凶そのものだったのか。

僕はエリクサーの神聖卵をパキラさんに渡した。


「これで傷を治して皆を頼みます」

「お、おぬし。これは……もしや!?」

「僕はこれからあいつを倒して来ます」

「待て、待って」


僕は【静者】を使ってすぐ【ジェネラス】になる。

僕の髪が紫になり、僕の青い瞳に紫が混じる。


心が静かになった。今の僕には迷いも何もない。


「……行ってきます」

「———必ず戻ってくるのじゃぞ」


パキラさんはやさしく笑った。

僕は一気に巨大な陸ナマズの死骸の上へ。

真っ黒い大地のような巨体の上にクラウンが僕を待っていた。


メガディアさんは……ビッドさんは死んだ。僕を庇って下敷きになって死んだ。

アクスさんもおそらく……あの巨大な陸ナマズの下敷きになって、死んだ。


他にも、ホッスさん。レルさん。ミネハさん。

アレキサンダーさん。リヴさん。ルピナスさん。

皆が無事かどうかわからない。


いやそれ以前にこいつは、このクラウンは多くの犠牲者を出した。

ゴミ場のミミックの惨劇を僕は忘れない。例え《《これからなかったとしても》》。

その全てを清算させる。


僕は【ファンタスマゴリア】と左腕に【宇宙そらかいな】を出す。

そして右手でエリクサーナイフを抜いた。


静者が告げる。活動時間は残り4分。

充分だ。


まだ、まだ全てを取り返す方法がある。

あのとき、ジェネラスの再来の少女像の前に立ったとき与えられたモノ。


制約レリック【バニッシュメントライン】———。


発動条件も効果内容も全てそこで知った。

このレリックは世界を変える。変えてしまう。

だから使うことは無い。


なによりも条件の最後のパーツが無かった。どこにあるか皆目見当だった。

でもそれも昨日のクラウンの戦いで見つかった。


バニッシュに適合したオーパーツ。【バニッシュナイフ】だ。

そして昨日メガディアさんと話をして改めて思った。


これは人が使ってはいけない。

ヒトは神になってはいけない。


でも僕は使う。

使ってやる。使ってやるんだ。

みんなの為に僕は、使う。


『アッハハハハハハハハハハハハハハッッッッッツツツツ』


クラウンは笑う。呵々大笑だ。

いつもいつも何がおかしいのか。


「僕は、おまえがなんなのか知らない。ただのザ・フールなのかそうじゃないのか。亜種なのか。本当にダンジョンの異変なのか。それとも他の何かなのか。僕は全く知らないし、本音は興味もない。おまえと戦う理由もない。いや理由はある。だけど僕はおまえを恨んでないし、絶対に倒そうとかそういうのも無かった。それは僕の役割じゃない。アガロさんやメガディアさんの仕事だ。でも、もう……そんなことはどうでもいい。どうでもよくなってしまった。僕は皆を……ふたりを助けたい。だから僕は出来ることをする。その為には僕はなにもかも捨てられるし投げ出せる。その覚悟で今から僕は、おまえの存在を完全に消去する。倒すでもなく殺すでもない。過去-未来から消す……それがどういう意味か分かるか。クラウン」


『アアァッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ』


クラウンはおどけてから【バニッシュ】を四つ出してお手玉をするが。

僕の【ファンタスマゴリア】がクラウンを制圧した。


同時に駆ける。クラウンは時を止めていた。

【ファンタスマゴリア】……無数の【バニッシュ】が空中に止まる。


時間停止。でもそれは僕には通じない。向こうも承知だろう。

だからクラウンは十字ナイフを出した。


エッジガードも刃になった十字型のナイフ。

それは【バニッシュ】に適応したオーパーツ。切ったモノを消去する。


【バニッシュナイフ】だ。


クラウンは笑いながら真っ直ぐ向かってきて薙いで突く。

素早く手慣れていた。でも僕もナイフ捌きは負けてはいない。

避けて、下がって、前に出て、【バニッシュ】で弾き、避け、ここだっ!


小さな金属音がした。

【バニッシュナイフ】とエリクサーナイフがかち合う。しかしそれも一瞬だ。

すぐ溶けたバターのようにエリクサーナイフの刀身が斜めに消去された。


クラウンが嗤う。でも僕も笑った。残り活動時間3分。


宇宙そらかいな】で【バニッシュナイフ】を刃ごと掴む。

この腕は宇宙に繋がっていて、あらゆる攻撃を吸い込む。


そしてそのチカラを殴ることによって相手にぶつけることができる。


僕は【宇宙そらかいな】でクラウンを殴った。

クラウンは笑いながら後退し、僕は【バニッシュナイフ】を奪った。


殴ったクラウンの箇所は消失していなかった。

やはりクラウンの【バニッシュ】は弱いんだな。


僕は【バニッシュナイフ】を【宇宙そらかいな】で握った。


これだけはどうしても手に入れたかった。そしてついに手に入った。


「———返してもらう。あらゆるもの。おまえの存在を代償として!」


この制約レリックの条件は6つだ。


【バニッシュ】

【静者】

【ジェネラス】

【ファンタスマゴリア】

宇宙そらかいな

【バニッシュオーパーツ】


思えばこれが【ジェネラス】の六つの瞳なのかも知れない。

いいや分からない。でも揃った。


『アッハハハハハハハハハハアアアァァァァハハハハハハハハハッッッッ』


クラウンは笑う。大笑いする。こいつは笑ってばかりだ。

それはコイツがダンジョンの魔物でアンデッドでザ・フールで道化師だからか。


それともコイツは笑っていたいのか。僕にはわからない。残り活動時間2分。


僕は【静者】のまま【ジェネラス】となり【バニッシュナイフ】を【宇宙そらかいな】で握り【ファンタスマゴリア】を全て重ねる。


「———演繹なる神々より。制約レリック【バニッシュメントライン】———っ!」


それは宇宙の線だった。

僕の利き腕が宇宙の線そのものになる。

それが【バニッシュメントライン】だ。


クラウンは笑いながら【バニッシュ】して【時間停止】して【転移】して逃げた。


無駄だ。これには時間も距離も無い。

例えこの宇宙の果てに逃げても意味はない。

もうお前は釈迦の掌の上だ。


僕は躊躇うことなくクラウンを【バニッシュメントライン】で切った。


『アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……———ふゥ神よ』


クラウンは『消去』された。

この場からじゃない。過去—未来全ての宇宙からその存在が消えた。


制約レリック【バニッシュメントライン】

       その存在を過去—未来含めて完全に宇宙より消す。

       その存在が関わった全ての事象は帰納法によって収束される。


使用条件:【バニッシュ】【静者】【ジェネラス】【ファンタスマゴリア】

     【宇宙そらかいな】【バニッシュオーパーツ】


クールタイム:56億7000万年。


【バニッシュメントライン】が解かれる。

同時に【バニッシュナイフ】が耐え切れずボロボロと崩れ消える。

かなり無理をした。ごめんなさい。ありがとう。


「そして……クラウン。僕は神じゃない」


活動時間0分。


「ただのウォフ13歳だ」


さあ帰ろう。

皆の元へ。みんなのところへ。

パキラさんが待っている。


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