クラウンオブザワンダーランド③
クラウン。
ザ・フール。人型の魔物。
「……まさか。本当にザ・フールが?」
アレキサンダーさんが言った通りだった。
僕達は戦慄する。
最初に仕掛けたのはリヴさんとビッドさんだ。
リヴさんはマイアブレード。刀身が赤くなって斬撃を放つ。
ビッドさんは短弓から一本の矢を放つ。それが途中で複数の矢に分裂した。
レリックか。
だがクラウン。
その壊れたダンジョンロードは笑いながら、何かをひょいっと片手で放った。
なんかふざけた投げ方だ。
するとその何か―――半透明の丸い球が斬撃と複数の矢を消した。
「なんっスか」
「ん……厄介……レリック」
あれは―――僕は唖然とした。今のは、あれは……!?
「あーもう」
ビッドさんが跳んで射撃する。
その矢のいくつかは、やはりクラウンの投げた半透明の球で《《消失する》》。
やっぱり、あれは。
「ウインドエッジ!」
パキラさんは風の輪をいくつも形成させ、杖を回してクラウンへ飛ばす。
「子供。わたくしの後ろへ」
ルビナスさんが大盾を構え、僕を自分の後ろにつかせた。
なんて大きくも綺麗なラウンドシールドなんだ。
金縁で覆われ、真っ白く鏡面の様に煌めく大盾だ。
これは間違いなくオーパーツ。しゃがめば僕の姿がすっぽり入った。
ん? えっこんな大盾《重量》を彼女は持ち歩いている?
いやそんなことよりも、それよりも、クラウンだ。
あれが使ったのは―――【バニッシュ】だ。
僕は確信する。間違いなくレリック【バニッシュ】だ。
『アッハハハハハハハハッッッツツツツ』
笑いながらクラウンは【バニッシュ】をふたつ作って軽く手で遊ぶと、飛ばした。
手から離れたっ? 【ファンタスマゴリア】———いいや。何か違う。
無数に出して飛ばしていない。僕のとは違うのか。
だが、あれは【バニッシュ】だ。
触れたら消失する。
皆が危ないっ! 僕はルピナスさんの大盾から飛び出した。
「あっ、なんですの!? 止まりなさい、危険ですわ!」
ルピナスさんの制止する声が聞こえても僕は無視した。
ごめんなさい。でも一番危険なのは戦っている皆だ。
あれがそうだとしたら皆には【バニッシュ】が見えていない。
リヴさんが大胆に接近戦を仕掛けていた。
後方からパキラさんとビッドさんが射撃と風の輪で援護する。
見事だ。
前衛と後衛のコンビネーションがしっかりしていて、クラウンを追い詰めている。
―――ように見えていただけだった。
『アッハハハハハハハハハハハッッッッツッ』
クラウンは笑う。大笑いする。
リヴさんの攻撃を悠々と避け、笑う。
ビッドさんの援護射撃を、パキラさんの風の輪を【バニッシュ】で消去し、笑う。
なんて嫌味な魔物だ。腹が立ちそうになる。
そしてクラウンはおどけながら右手に半透明な球・【バニッシュ】を四つ出した。
両手で慌てるフリしながらお手玉するとスナップかけて、投げた。
「っ!?」
信じられない剛速球がリヴさんに迫る。
「危ないっ!!」
咄嗟に僕はダッシュして同じ【バニッシュ】で相殺……いや。
向こうは消えたが僕の【バニッシュ】は消えていなかった。
「ん……少年……」
「リヴさん。敵は【バニッシュ】というレリックを使っています……」
本当に危なかった。全力で駆けて間に合ってよかった。
「【バニッシュ】……ん」
「目に見えない球で、触れた部分を消失させます……レリックです」
「ん……【バニッシュ】……」
「しかも相手はそれを、おそらく四つ出せます」
「……厄介……すぎる」
僕は鋭い視線をクラウンに向ける。
クラウンはやっぱり笑っていた。四つの【バニッシュ】をお手玉する。
様子見か。余裕があるからか。
それとも道化師だからふざけているのか。
僕はまだ展開されている、僕の【バニッシュ】を見た。
半透明で大きさは野球のボールぐらいに縮小している。
消去の威力が同じなら相殺される。
でも僕の方は残っている。
「…………」
ひょっとすると、クラウンの【バニッシュ】は僕のより弱いのか。
試してみる価値はある。
ただ検証するならば、戦うなら、今の万全の状態だ。
【静者】のクールタイムまでもう少し掛かる。
「リヴさん。僕はそれを見る事と防ぐことができます」
「……それ……【危機判別】……?」
「えっはい」
「ん……頼もしい」
「子供! いい加減、危険ですわ。戻ってきなさい」
ルピナスさん。心配してくれているけど、すみません。
まだ僕はそっちに行けません。
「少年……ん」
「わぁっ!?」
いきなり間近にリヴさんの顔。ビックリする。
「ん……なるほど……見えない……か」
そう呟き、リヴさんが無防備な感じでクラウンへ向かった。
えっ、なにを!?
クラウンが反応して【バニッシュ】を四つ同時に投げた。
ただしリヴさんを狙っていない。
四つの【バニッシュ】は地面でバウンドし、近くの壁などを消しながら跳ねる。
【バニッシュ】は使用者の意志で消去を選択できる。
それをクラウンは巧みに使っていた。
そして、あらゆる方角から見えない球がリヴさんを襲う。
「リヴさん!」
「……宙の型……昴……タユゲテブレード!」
リヴさんのブレードが緑色に光り、自分を中心に円を描く様に地面を切った。
何を? するとリヴさんの周囲に薄緑色の半透明の壁が切り口から発生する。
そしてふたつの【バニッシュ】がバウンドし、リヴさんに当たる前。
薄緑色に輝く半透明の壁にぶつかり消えた。
それから薄緑色をした半透明の障壁は【バニッシュ】を全て相殺する。
タユゲテブレード。緑色の斬撃が障壁になるのか。
凄い。あんなことも出来るのか。
攻撃を防がれたクラウンは笑いながら跳び跳ねてズッコケて転んで後退する。
その動きはコミカルだが笑えない。
それと、やっぱり僕の【バニッシュ】より威力が低い気がする。
僕の【バニッシュ】なら、こう言うのは失礼だけどリヴさんの障壁も削れた。
ハッとするとクラウンは僕を見ていた。
そしてヤレヤレと大仰なポーズをして左手を挙げる。
なんだ。【バニッシュ】があるから迂闊に動けない。
「?」
その左手をくるくる顔の前まで回しながらゆっくりとお辞儀をする。
鼻につくほどわざとらしい。
「? いったいなにを」
すると地響きが起きた。
「きゃあっ」
「なんっスか!?」
「まさか、地震じゃと!?」
「ん……ありえない。あれはもう……始末した……」
それは地面を割って現れた。巨大な宝箱。いいやミミックだ。
青緑色の宝箱で表面に不気味な目玉だらけのミミック。
「モンスターボックスじゃと!?」
「あーもうっスか!」
「ん……嫌い……」
「よりにもよってですわ」
皆がうんざりするとモンスターボックスが開いた。
そこから魔物がぞろぞろぞろぞろとあらわれる。
ああ、だからモンスターボックスか。




