静かなる者⑪
大神殿。真正面
こうして正面から見ると半壊していてもだ。
その荘厳さと存在感に圧倒される。
「……まるで巨人の神殿ね」
呻くようにミネハさんが言う。
サイズ的にミネハさんにとってどれも巨人の建造物だと思う。
「ここが本当にダンジョンの最深部なんですね」
「ねえ、それでずっと考えていたんだけど」
「どうしたんですか」
「あの陸ナマズは異変の地震でダンジョンが出来てバラバラになって、それがまた地震でひとつになったって、そう言っていたわよね」
「はい」
「それで異変はダンジョンロードの出来損ない」
「はい」
「それでここってダンジョンの最深部よね。あの陸ナマズが言うには。『最下層』ではなく『最深部』よね」
「はい。この規模は『最深部』で間違いないようです」
確かに小規模ダンジョンの『最下層』かと言われると違うっていえる。
それほどここはなにもかも圧倒的で偉大だ。
「じゃあ、ここのダンジョンロードはどこにいるの?」
「えっ、そういわれると」
「今回のダンジョンの異変。このダンジョンのダンジョンロードじゃないの」
「…………まさか」
いやでも関連性から、そうなのか。
納得できるところがある。むしろそれで成り立つ。
「まぁ思っただけよ。着いたわ………ん……んんっ?」
「ミネハさん?」
くらっとミネハさんは眩暈がしたように揺れた。
「……なんでもないわ。行くわよ」
「は、はい」
足を踏み入れる。
本当に巨人が通るのかと思うほどの巨大な扉があった。
それは完全に開いていた。
その奥に像がみえるけど。
「こ、これは」
「……すごいわね……」
入ると僕達は感嘆した。
天井と天窓が全てステンドグラスだった。
光が入り幻想的な光彩で照らされている。
僕とミネハさんは完全に見惚れている。
誰だってそうなる。それくらいの感動が込められていた。
「それにしても広い」
「……ええ」
祈祷場だからか。何百人も入れるほど広い円形の空間になっていた。
ステンドグラスと祈祷場の最奥に石像がある。
一際高く波打ったような不思議な立体模様の石の台座に設置されていた。
台座に金色の文字みたいなのがビッシリと刻まれてあるが読めない。
簡素な布を纏った白い少女像だった。
少し変わっているのは部分部分に色が差し込まれていた。
まず髪が紫だ。鮮やかな紫色をしている。
それはそうだろうな。
「こ、これがジェネラス……なの」
「……」
六つの瞳ではなく、双眸でやはり紫の瞳をしている。
だが……青にもみえる。青紫の瞳か。
掲げる右腕が宇宙になっていた。あれは【宇宙の腕】だ。
石像の周囲に浮いている無数の半透明な丸い球は……【ファンタスマゴリア】か。
「ん? 左手に……?」
左手に何か握って。あれは―――なっ勝手にレリック【静者】が発動した。
(———……制約【▢■■◇■■■■◇▢】……———)
なんだ頭の中に声が……制約……? 今のはなんだ?
「も、もうダメぇ……」
肩に乗っていたミネハさんがフラッと落ちる。
「っ!?」
慌てて僕はキャッチした。つい片手で掴む。
「はぁはぁっ……はぁはぁっ……はぁっ……はあっ」
「だ、だいじょうぶですか」
ミネハさんの頬に汗が出て息が荒い。
これはひょっとしてアクスさんが言っていた謎の威圧感か。
と、とにかくここを離れないと、ミネハさんを両手で慎重に抱えて石像から離れる。
「な、なんで、あんたは……平気なの……」
うわごとのようにミネハさんは呟く。
そういえば僕は全く平気だ。何故だろう。
いやいや、今はそんなことはどうでもいい。
ミネハさんを早く外へ。
大扉から出ると―――空気が変わった。
「っ……!?」
ゆっくりとした揺れが起きた。
直後、凄まじい衝撃と振動が全てを襲った。
「うわぁっっ!?」
破砕や倒壊音や落下音があたらこちらから聞こえる。
そしてピタリと不自然なほど静かになる。
「いったい……なにが…………」
僕は大いに困惑しながら歩き出し、大神殿を出た。
「え」
大神殿から眺めたのは信じられない絶望の光景だった。
あの巨大なミミック・ボックスが六つも現れ、パペットや魔物が彷徨っていた。
いったい、なにが。




