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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season1

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静かなる者⑩


レリックプレート。戻ってきてしまった。

これはもう本格的にここから出たら今後を考えないといけない。


もうひとりだと抱える秘密に限界がある。

幸いにもレリックプレートは共有しているからそうじゃないが。


この後さり気なくミネハさんにやっぱり使ってみませんか。

そう言ったら冷たい眼で無視された。

ごめんなさい。

とりあえず……まあ今はゆっくりしよう。


ようやく身も心もくつろげる場所に着いた。

ここは安全だとホッスさんが頼もしく言ってくれた。ありがたい。


出るのは明後日と決まり、僕達は休んでいる。

のんびりしている。


なんかもう終わったって感じだ。

帰るまでが遠足だから油断してはいけない。


遠足か。

前世の記憶に小さい頃、遠足で登山に行ったことがある。

最初は楽しかった。お弁当のご飯も美味しかった。


だが帰り道。急な雷雨。前が見えないほどの豪雨に襲われる。

そのとき誰も何も言わず。その下山する光景は雪中行軍みたいだった。


登山道も酷かった。濡れた火山灰で足が沈んでうまく進めない。

すぐ横の溝は豪雨で荒々しい川に変貌し、あばら家が次々と流されていった。

生まれて初めて命の危険を感じたなあ。


「……いやなに考えているんだ……」


なんてアホだ僕は。

実際、後はここから出るだけだ。そう出るだけだ。


「なかなか美味しいわね。これ」


さてミネハさんが雑肉スープを実食している。

かなり気に入ったのか。言葉とは裏腹によそったお椀を空にしていく。


ミネハさんからすればかなりの大きさ。

いわばマウンテンだ。それが次から次へと消えていた。

瞬時に消えるのは物理的に無理だと思うんだが。


「すっげぇな。あれ」

「やはり10番目の姉のようだ」


どうでもいいけど多才すぎないレルさんの姉妹。


「沢山、食べて貰えると嬉しいべ」

「あんたやるわね。見直したわ」


ホッスさんをミネハさんが褒める。

まんざらでもない様子のホッスさん。


このダンジョンに入ったときにはとても考えられなかった光景だ。

なんかいいなこういうの。スローライフみたいな感じがする。


最近は人生設計が狂い過ぎて設計図無視した魔改造になっている気がする。

僕のダンジョンマイライフはどうなってしまったんだ。


いかんいかん。のんびりしよう。

ふう、お茶がうまい。思わず湯呑みをずずずっと啜ってしまう。


このお茶は僕がつくった。

ホッスさんが持ってきた神殿街の貯蔵庫にあった乾燥茶葉。


神殿街の貯蔵庫には様々な食材や調味料や酒などがあるという。

心配したのは貯蔵庫にあるとはいえ、鮮度とか大丈夫なのか。


「ダンジョンにあるモノは消費しない限り鮮度はそのままだ」

「そうなんですか」


あんまりそういう話を聞いたことがない。

詳しく聞くと町や村があるのは珍しくない。


ただし、こうやって豊富な食材があることのは珍しい。

また今の時代にない食材などもあり、その依頼を出す貴族や商人もいる。


「だから食うても平気なんだべ」

「つくづくダンジョンは不思議ですね」


鮮度がそのままなんて時が止まっているみたいだ。

まぁ摩訶不思議ダンジョンパワーでまとめるか。


改めて神殿街の貯蔵庫にあった乾燥茶葉。

それを三日月の器で調合したものだ。


いわゆるブレンド茶である。

というのも魔女から貰った僕でも作れる調合メモ。

その一番最初にこう記されていた。


『お茶』


それからいくつかのお茶の配合と調合が書いてあった。


お茶って―――最初は魔女のマイブームだからかと呆れた。

だがとりあえずやってみたら、調合に慣れる手法としては最適だった。


まずお茶も薬だ。それとよほどじゃないと失敗しない。

また失敗しても立て直しが容易に出来る。


そして茶葉の配合によって味が大きく変わることも分かった。

茶葉を配合して調合する。これは薬の基本そのものだ。


いいや。たぶんこれが基本中の基本なんだ。

とても勉強になる。魔女のメモに感謝だ。


それと貯蔵庫には黒い小さな豆が大量にあったと聞く。

おそらくカカオ。あるいはコーヒー豆だろう。


コーヒー……作ってみるか。

作り方は知っている。


「戻ったぞ」


大神殿の調査に行っていたアクスさんとアレキサンダーさんが戻ってきた。


「おかえりなさい。早かったですね。なにかありました?」


僕がお茶を渡しながら聞くとアクスさんはため息をつく。


「何も。ほんとここは魔物が出ないんだな」

「それでいて食料は豊富にありますね」


貯蔵庫には塩漬けや干し肉もある。乾物も豊富だ。

他にもキノコやハーブが群生していると聞いた。


それと水だ。この近くの泉も途切れることなく湧いている。

まだ神殿街の手つかずの貯蔵庫が沢山あるから食べ物の心配はない。

明日ここを出て2度と来ないけど心配はない。


「宝も無いんですか」

「色々調べたが、その前に神殿が広すぎて広すぎて」

「あっし達も全部はまだ見てないんでさ。神殿街も探索途中でして」

「そんなに広いんですか」

「広いでやすね」

「広い。だがこの大神殿がなんなのかは分かった」

「何の神を祀っていたんですか? やっぱりハーヴェス」

「いいや。ジェネラスだ」


ごくごくごくっとアクスさんがお茶を飲む。


「へ?」

「美味いなこれ。あ、ああ俺達にはあまり馴染みは無いが、ウォフは『ジェネラス』って知っているか」

「……確かエッダの神様ですよね……」


全身が心が静かに震えた。

アクスさんは笑う。


「知っていたか。ここはそのジェネラスを祀った大神殿だ」

「どうやってそれが分かったんですか」

「大神殿の中央にジェネラスの像があった。アレキサンダーが言うから間違いない」

「そうですか」


それは間違いないというか、説得力が強い。

そのアレキサンダーさんがキセルを吸って吐きながら言う。


「大神殿の中央に巨大な扉がありやす。巨人が開けるのかというほど見上げて首が痛くなる扉でさ。それが、実はでやすね。なにをどうやっても開かなかった扉だったんでやす。それがいつの間にか開いてたんでさ」

「なに? あの大扉が?」

「どうしても開かなかったべ!」


話を聞いていたらしい。

レルさんとホッスが驚いている。


「………………」


まさか僕が来たから開いたとか……そんなことないよな……?


「ふーん。ジェネラスね。面白そう。見てみたいわ」


ミネハさんが飛んできて僕の肩に座る。

それはもちろん。僕も気になる。


「そうですね。行きましょうか。アクスさん。ちょっと見てきます」

「ああ、行くのはいいんだが」

「なにかあるんですか」

「ジェネラスの祀っているところから妙な圧力を感じるんだ」

「あっしもヒリヒリっと感じやした」

「具合が悪くなった。だから早めに引き返したんだ。おまえたちも気分が悪くなったらすぐ戻って来いよ」

「は、はい」

「わかったわ」


圧力って……やや不安を覚えつつ僕はミネハさんと一緒に大神殿に向かった。


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