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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season1

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荷物持ち⑧


僕は魔女の出したハーブティーに触れず目下にして一部始終を話した。

出会って言い合いになって喧嘩別れになったこと。


魔女は黙って頷いて聞く。

話し終わると微苦笑を浮かべた。


「それはそれは、まあなんともいえないねえ」

「僕、思ったんです。ああなったのはワザとそうしたのではと」

「ふむふむ。エミーがそうしたとねえ?」

「エミーさんがどういうひとかは分からないですけど、あれはどう考えてもワザとです」


エミー。アクスさんの母親でミネハさんの師匠。

現役の第Ⅱ級探索者。魔女の知り合い。

彼女がどういう人物か僕は何も知らない。


肝心な情報を伏せたまま接触させた。

弟子の性格と息子のコンプレックス。


それらを把握していれば何が起きるか想像がつくはずだ。

怒るべくして起きた。僕はそう結論した。


それにしてもエミーさんを知らないけど、なんていうか。

心を鬼にするというか。


息子の事なのに弟子の事なのに、どこか突き放した感じがある。

第Ⅱ級探索者だからか。


それにしてもやり方が。


「そうそうだねえ。言われるとそうなるよねえ」

「僕はどうしてそんなことをしたのか分からないんです」

「だろうだろうねえ」

「魔女は何か分かりますか」

「前に前にねえ。エミーと会ったとき、彼女言ったことがあるんだねえ。私の弟子は優秀だけど、探索者として大切なモノが欠けているってねえ」

「大切なモノですか」


そういうフレーズとかはよく聞くけど、なんだろう。


「それとそれとねえ。息子のアクスは頑張っているのは評価する。実力も申し分ない。だけどしっかりと認めないといけない。そうしないといつまでも苦しいままだ。でもそれは難しいだろうってねえ」

「認めるですか」


なにを認めるんだろう。

うーん。なんとなくしたいことは分かった。

それはふたりにとって大切な事なのも理解した。


それにしてもやっぱり、このやりかたは乱暴すぎる気がする。

これはヘタする―――と魔女は珍しく少し遠慮がちに言った。


「あのねあのね。エミーはサプライズが好きだったり肝心なところで抜けていたりとあるけれど、それでも息子と弟子の事はいつも大切に想っている優しい子だねえ」

「……僕は心配しすぎだったんでしょうか」


それを聞いて余計な事をしているんじゃないかと思った。

僕はあくまでも部外者だ。すると魔女は優しい顔をする。


「いやいや、ウォフ君の懸念は正しいねえ。すまないねえ。こうなる予定じゃなかったのに、こうして余計な心配までさせてしまったねえ」

「それは、一度受けた仕事ですから、そういうのはしっかりやりたいんです」

「ふむふむ。前から思っていたけど仕事熱心だねえ」

「そうですか」


仕事熱心なのは普通だと思う。

いや……この世界だと、普通なのか?


そういえば前世は仕事ばかりしていたな。

サービス残業は当たり前だった。


転生してまで社畜根性は嫌だな。

世界を超えてまで社畜は勘弁して欲しい。


「ふふ、ふふ、そんなウォフ君。コンはとても好ましく思うねえ」

「……顔が近いです」


メチャクチャ近い。

彼女の瞳に僕が映って、その僕の瞳に魔女がいるのが分かるくらい近い。


「おやおや、それは失礼したねえ」


唇が触れる距離で口を動かす魔女。

スッとあっさり離れる。


「……い、いえ」


ビックリした。

魔女。これでも、こんなんでも。

かなりの美人だから……間近で見たら改めて綺麗過ぎた。


やはり魔女。

だから魔女だ。


「そ、それで魔女。結局どうすればいいと思いますか?」

「それはそれは簡単な事だねえ」

「えっ、そうなんですか」


拍子抜けして驚く。

簡単なのか。魔女は微笑む。


「うんうん。ウォフ君。なにもしないでいいんだねえ」

「…………様子を見ろってことですか」

「うんうん。さすがさすがだねえ。結局は当人同士の問題だからねえ」

「……そうですよね」


僕はなんともいえない苦笑いを浮かべた。

結局はそうなる。だけどそれしかないのも事実だ。


僕としてはだ。

引き受けた仕事をしっかりやりたいだけだ。

それの懸念は払いたい。でも僕にやれることはないだろう。


当人同士の問題。

まさにそれに尽きるからだ。


まぁでも分からないままではなく、一応の答えは得た。

僕はそれでいいと魔女の家を後にする。





街に戻ってきた。

帰って一応、明日の準備をしないとなぁ……そうぼんやりと歩く。


「あ、あんた!」


背後で声がした。でも僕だと思わず気にしないでいると。


「ちょっと無視しないでよっ! 名前は確か、も、モフ?」


可愛いな。

んん? ひょっとして僕の事か。


ニュアンス的にそんな感じがして立ち止まって振り向く。

そして僕はああ自分が呼ばれていたんだなと納得した。


ミネハさんだ。

小さく羽ばたいて、不機嫌な目線を僕に向ける。



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