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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season1

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荷物持ち⑥


見送って数時間後。

今日のシードル亭は昼なのに人の気があまり無かった。

見回すと、アクスさんと目が合う。



「こっちだ。ウォフ」

「はい」


呼ばれたテーブル席へ行く。

そこにはアクスさんと見覚えがない男性がふたりいた。


「まあ座ってくれ」


言われた通りに座る。


「なにか頼むか?」

「じゃあ、レモネードを」


昼だが腹は減っていなかった。

アクスさんは注文して、そしてふたりを紹介する。


「まずレルだ」

「どうも。よろしく」

「は、はい。よろしくおねがいします」


短く挨拶したのは長い銀髪のエルフの男性だ。

長身で黒い服を着て眼鏡をかけている。


ズボンも黑かった。ベルトだけは銀だ。

エルフだから美男子でそれ以上に佇まいと雰囲気に高貴さを感じる。


「それでこっちがホッスだ」

「ホッスだ。よろしゅう」


ぺこりと頭を下げたのは背が低い男性だ。

やや四角い顔で糸目で団子鼻。

その体型からドワーフだと分かる。


彼の目前には特大ジョッキのエールがある。

半分ほど無くなっていた。


「はい。よろしくおねがいします」

「以上が雷撃の牙のメンバーだ。ちなみに俺が近接。ホッスが中距離。レルが遠距離だ」

「バランスが整っているんですね」

「扱う武器がそうなだけだ」

「んだ。アクスが剣でオラがハルベルド。レルが弓だ」

「なるほど……あの、それで」


僕はすぐに気付いた。

テーブル席にひとり足りない。


大事な顔見せの場。

そこに肝心の彼女が居ない。


「言いたい事は分かっている。良かったのか悪かったのか」


アクスさんは苦笑する。

他のふたりもなんとも言えない感じだ。

この場に彼女が居ないということはそうなんだろう。


「なにかあったんですか」

「到着していない。本来なら一昨日か昨日に到着しているはずだった」


レルさんが眼鏡をクイっとあげて言う。

アクスさんが溜息をつく。


「まぁ明日までに到着すれば、いいんだけどな」

「アクス。しなかったらどうすんべ?」

「しょうがない。置いて行く」

「うむ。仕方ない。依頼だからな」

「だな」


しょうがない。そう言う裏腹にそうなればいいと思っているのがバレバレだ。

他のふたりも似たような感じだ。


異性が入っていつもと違うことになるのは嫌だ。

気持ちは分からないでもない。


僕も出来れば……そうなってほしい。

誰も彼女を望んでいないかった。


「本人が居ないのであまり良くないですが、彼女の情報をくれますか」

「ああ、だが俺も知っているのは名前だけだ」

「それだけですか」

「……俺も名前だけしか教えてもらえなかった。サプライズとか言われたよ」

「あー……そういう」


居るよな。そういうタイプ。


「名前はミネハだ」


ミネハ。それだけじゃなんとも。

レルさんが口を開く。


「一応、我々も調べようとした。だが肝心な情報は噂だけだ」

「その噂も特例で探索者になったとしか」

「んだ。それだけ目立ってて、他はなんもなんもだべ」


僕もそれだけしか知らない。

まあ流布される噂なんてそんなもんだ。


「なんですって!? 異変討伐は出発したってなによそれ!?」


急に怒鳴り声が聞こえた。

見るとテーブル席にふわふわっと小さな女の子が浮いている。

橙色の長い髪。一部は三つ編みにしていた。


「フェアリアルだ」

「ほう」

「珍しいべ」

「あれが」


背中に四つの半透明な羽根を生やしている。

それで浮いているようには見えない。


何故なら羽根は動いていない。羽ばたいてもいない。

赤い服に鎧を着て、スカートが花弁みたいにふわりとしている。

腰に何故か馬上槍・スピアーを下げていた。


テーブルの上には食べて空になった皿が何枚も重ねてある。


まさか全部この小さな生き物が?

女性の店員はおずおずと答える。


「今朝、出発しました」

「なによそれっ」

「なにと言われても……」


腰に手をあてて店員に絡んでいる。

アクスさんは横目でヒソヒソと言う。


「小さいのに声がでかいな」

「ああいうの苦手だ」

「レルはどんな女でも苦手だべ」

「3番目の姉に似ている」

「レルは姉や妹が多いんだっけ」

「だから女はうんざりだ」


レルさんは苦々しく吐露した。

なるほど。それは苦手にもなる。


だが彼女を見て僕は不安を覚えた。

いやまさか。


「…………」

「どうした。ウォフ」

「嫌な予感がするんです」

「予感?」

「なんだべ」

「あのフェアリアルの少女なんですが」

「あんまり見るなよ。目が合ったら襲われるぞ」


レルさんが声を小さくして言う。


「えっいや」

「マジか。レル」

「そりゃあ魔物より怖いべ」

「6番目の姉がそうだったからな」


レルさんが眼鏡をクイっとあげて言う。

どんな姉だ。あと何人いるんだ?


「そうじゃなくて、ひょっとして」

「なに? あんたらさっきから」


唐突にフェアリアルの少女がこっちに飛んできた。

空中で腰に手をあてて苛立った表情をみせる。


「うわっ」

「……」

「ひえぇっ」


アクスさんは驚き、レルさんは黙って、ホッスさんは怯える。

フェアリアルの少女はムッとする。


「なによその態度」

「あっ、いや、その、す、すまん」

「……」

「ひぇっ」


アクスさんは緊張しながら対応して、レルさんは黙って、ホッスさんは怯える。

フェアリアルの少女は僕らを眺める。


「あんたら、あたしのこと見てたでしょ」

「チラッと見ただけだ」

「……見てはいない」

「お、オラは別に、見たけど、別に」

「あんたは?」


フェアリアルの少女は僕に言った。


「見ましたけど、あの、ひとついいですか」

「なに」

「人違いだったらすみません。ひょっとしてミネハさんですか?」


僕は尋ねた。

違ってくれと祈りながら。



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