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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season1

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荷物持ち⑤

2日後。

朝、いつものように日課をこなす。

最近はストレッチと体力をつける為にランニングをすることにした。

それとナイフ捌きと動作の練習を倍にする。


基礎の積み重ねは大切だ。

目下の目標はナイフを自分の手や腕のように扱えること。


それらが終わって洗濯物を塔の上で畳んでいると鳥が飛んできた。

窓脇へ綺麗に着地。


僕を見ると脚に括ってある巻物をクチバシで床に落とす。

また僕を見ると飛び去って行った。


「…………」


巻物を手にして拡げる。

それは手紙だ。差出人はひとりしかいない。




次の日。魔女の家。


「やあやあ、よく来たねえ」

「手紙が来たので」

「ちゃんとちゃんと届いたみたいでよかったねえ」


そう差出人はこの魔女だ。

文通という概念はあるがまだ郵便という概念はない。

だから家の前に郵便受けがない。


手紙が一部の人間だけしか使ってないという理由もある。

それは識字率が低いからだ。


巻物(スクロール)から書物(ブック)に時代が代わろうとしている。

それでも識字率が高くなるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


なので文通手段に基本がない。決まりもない。

魔女みたいに鳥を使ったりするのもある。


通されたいつものゴッチャな居間にいたのは、ひとりの青年だった。

亜麻色の髪。薄い茶色の瞳。白い角。凛々しい顔立ち。

中肉中背で黒いチュニックを羽織り、緑色の服を着ていた。


腰の使い古された黒いバトルベルトにはポーチとナイフ。

ソファの横には剣が立てかけてある。


木の鞘と柄なんて珍しい。


「君がウォフか」

「は、はい」

「初めまして。俺はアクス。雷撃の牙のリーダーだ」


そう少し照れくさそうに笑った。

雷撃の牙のリーダー。アクスさんは見た感じ普通のフォーンの青年だ。


「さあさあ、立ち話もなんだねえ。座りたまえ」

「は、はい」


ちょっと緊張しながら僕は対面のソファに座った。

ニコニコと魔女が言う。


「ではでは、さっそくハーブティーを用意するねえ」

「いえ結構です」

「こちらも遠慮しておくよ」


やんわりと断る。


「おやおや、つれないねえ。自信作だったのにねえ」


魔女はしゅんとした。

アクスさんは苦笑する。


「それでは……ウォフ」

「はい」

「本当に申し訳ない!」


そういきなり頭を下げた。


「えっ」

「ふむふむ。どういうことかねえ」

「あの、なんで謝ったんですか?」

「―――それは、それには俺のおふくろのことを話さないといけない」

「母親ですか」

「ああ、知っていると思うが俺のおふくろは第Ⅱ級探索者だ」

「うんうん。そうだねえ。雷侭(らいじん)の爪刃。有名だねえ」

「……」


し、知らない。

黙っていよう。


「それでおふくろには弟子がいるんだ」

「雇い仔じゃなくて、弟子ですか」

「珍しいだろ。それでその弟子のことなんだが……おふくろの命で俺達と一緒にダンジョンに潜ることなった。つまり同行することになった」

「つまりそうなったから荷物持ちの話は断るということですか」


それならそれで仕方ない。

仕方ないな。うん。仕方ないぞ。


「いいや違う」


アクスさんはゆっくり首を横に振った。

怪訝に僕は言う。


「どういうことです?」

「その弟子っていうのは……女の子……10歳の探索者なんだ」

「ほうほう。10歳の探索者ねえ」

「探索者は14歳からでは?」


いや待て。

確か特例で探索者になった女の子の話を聞いたことがある。

僕は嫌な予感がした。


「彼女は特別に才能があって異例で探索者になった」

「知っています。噂で耳にしました」

「だよな。俺達も噂でしか知らなかった。まさかおふくろの弟子だったとはな」

「知らなかったんですか」

「ああ、おふくろとは成人してから会っていない」


成人したら親から離れるのが普通だ。

前世はそうではなかった。


「それで僕に謝った理由は?」

「雷撃の牙は俺を含めて野郎3人だ。ずっとそれでやってきた」

「というと?」

「……自慢じゃないが必死に探索者をやってきて3年近く。全員が彼女無しだ」

「は、はぁ……」


ええーと何が言いたいんだろう?

僕が困ったようにしていると、アクスさんは言った。


「だから彼女の荷物持ちをしてくれないか」

「僕が?」

「荷物持ちから色々と彼女の雑用とかも頼む」

「……えーと」

「頼む。年齢も近いし、魔女に聞けば女の子の扱いは慣れていると聞く」


僕は魔女にジト目を飛ばした。

しかし魔女にはこうかがない。


「いや、そんな僕は慣れてなんて」

「実はシードル亭で俺は見てしまったんだ。ウォフがトルクエタムのパキラと一緒に食事をして、そしてあの黒吞みのメガディアと2階のVIPルームに行ったのを……見たんだ」

「それは、えっと」


間違いじゃないんだけど、でもその言い方。


「おやおや、おやおや、おやぁ?」


ニヤニヤするな魔女。

グルグル回って愉しそうに僕を見るな。


「た、確かに、嘘も誇張もひとつもないですけど」

「ほおほお、ほおほお」

「なんなんですか。さっきから」


この魔女ウザい。


「なになに、別になんでもないんだねえ」

「……そうですが」


その嫌味な笑顔はなんなんだ。


「だから是非ともお願いします! 頼む。お願いしますっっ!!」


アクスさん頭を下げたまま必死に懇願する。

このままだと土下座しそうな勢いだ。


本音は何か誤解が生まれてそうで嫌なんだけど。

はあ、しょうがない。


「わかりました。僕でよければ引き受けます」

「ほんとうか! ありがとうありがとうっっ!」


立ち上がって僕の手をガッシリと掴む。


「よっぽどなんですね」

「……正直。どう接すればいいのか俺達分からなくて」

「普通に接すればいいだけでは?」


小首を傾げる。

難しいことは何もない。


「情けないが殆ど異性と話したことなくて」

「……それはさすがにどうかと思いますよ……」


あまり人付き合いしたくない僕が言うのもなんだけどさ。


「そ、そうだよな……」

「まあまあ、そういうのはこれからだねえ。若いんだからねえ」

「そうだといいんだが」

「ところでところで、コンは異性に入らないのかねえ」


ニコニコしている魔女。目が笑っていない。


「あっ、いや異性だけど、ほらなんつーか昔からの知り合いだから」


アクスさんはなんとか言い訳する。

魔女は納得していないけど納得したようにした。目は笑っていない。


「出発は4日後だ」

「わかりました」

「前日に顔合わせをする。一応、時間帯は昼頃。場所は『シードル亭』だ」

「わかりました」


3日後か。

アクスさんはもう一度、僕に礼を言ってから帰った。

魔女が少しして言う。


「なんだかなんだか。すまないねえ」

「なにがですか」

「それはそれは、今回のことだねえ。こうなるとは思っていなかったからねえ」

「しょうがないですよ」


これも乗りかかった船だ。

それと報酬も上乗せしてくれるというのもある。


「実は実はねえ。ウォフ少年には言っておかないといけないことがあるんだねえ」

「なんですか」

「それはそれはねえ。雷撃の牙のことだねえ」

「なんです?」

「実は実は彼らはねえ。アクス含めて全員レリックを持っていないんだねえ」

「……え」


僕は啞然とした。


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