荷物持ち①
1日目。
僕は森へ行って薬草図鑑を見ながら薬草を集める。
2日目。
集めた薬草で調合をする。
3日目。
僕は衝動的に家を出た。魔女の元へ向かう。
行きたくなかった。
でも、もう魔女のところしかない。
三日月の器の調合機能を3日間ずっと使い続け。
あれだけ採取した薬草を使い果たして、理解した。
無理だ。今の僕ではポーションすらつくれない。
薬草図鑑にポーションの材料と書かれた薬草を混ぜた。
赤黒い液体と青緑の液体―――だがどれだけ何十回いや何百回も調合してもだ。
ポーションもどきにすらならなかった。
つまり僕はスタートラインにすら立てていない。
甘かった。調合があれば簡単にできると思っていた。
3日間の調合で出来たモノは全部ポーションじゃなかった。
回復薬ですらない。
一応、飲んでみた。指を軽く切ってから飲む。
吐くほど不味くもない。だからって飲み干すほど美味くもない。
普通にまずい。おいしくない。あと傷が治らなかった。
何度も何度も色々試した。全くうまくいかなかった。
せめてスタートラインに立ちたい。
スタートラインに立つ方法。
瞬時に分かったと同時に僕は愕然とする。
ここにはない。
あるとするなら魔女のところだけだ。
そう他の場所には、アンブロジウスさんのところにもないと言われた。
ポーション等の調合方法が記された本だ。
ふと思う。魔女はこのことを予期していたのだろうか。
予期していただろう。なにせ魔女だ。
僕が調合できなかったポーションを鼻歌交じりに調合できる女だ。
あのときを思い出す。
魔女の三日月の器の実演。
てきとうに入れているだけだと思った。
雑にしてもポーションぐらい出来ると思った。
それくらい彼女はぞんざいに扱っていた。
でも今なら分かる。彼女の凄さ。極めている。
道中の魔物も雑に処理するぐらいの速度で急ぐ。
それでも魔女の家に着いたのは昼過ぎだ。
ぐねりと曲がった大木の根元の洞に煉瓦の家。
木製のドア。斜め上の呼び鈴を鳴らす。
チリンチリン。
「はいはい。ただいまお待ちをねえ。いま開けますねえ」
大きな狐耳を揺らしながら魔女がひょっこりとドアの隙間から顔を出す。
僕を見て目を見開く。
「おやおや、まあ、まあ、ウォフ少年だねえ」
「ど、どうも」
魔女は真っ黒い柄のローブに真っ黒い柄のドレス。
相変わらず実に魔女らしい服装だ。
胸元が大胆に開いてスカートが短い。三つのもふもふの尻尾が目立つ。
はぁ、ほんの少し屈むだけでスカートの中身が見えそうだ。
「さあさあ、入って入って、遠慮せずに入りなねえ」
「は、はい。お邪魔します」
居間に通される。
居間は相変わらず色々なモノでゴチャゴチャしている。
本棚に入りきれない書物の山々。何に使うか分からない怪しい道具類の波。
杖入れの筒からはみ出して転がった沢山の杖。
何故か絵画と壺と彫像やネックレスや指輪などが数多に転がっている。
かろうじて無事なのはソファだけだ。
「まあまあ、座りなねえ。今ハーブティーを持ってくるからねえ」
「あっその、それはおかまいなくっ」
行ってしまった。
僕は諦めてソファに座る。




