フォレストウェーブ・合間④・トルクエタム⑥
わたくしはルピナス=ロードデントン。
由緒正しいロードデントン家令嬢ですわ。
第Ⅲ級探索者。『トルクエタム』のリーダーでタンクですの。
ええ、タンクですの!
タンク。それはわたくしの生きる目標。
世の人々を守り護り
それがわたくし。タンク。
現在、わたくしたちは先行していて、それでその、なんといいますか。
ハイゼン大森林の中でちょっとだけ……道に迷っていますわ。
「なんでこうなったんじゃ?」
「ん……調子のって……クリビ……倒し過ぎた……てへ」
リヴが無表情で舌をちろっと出す。
それは笑えばいいと思いますわ。
いえ、そういうことじゃないですわね。
「クリスタルビーストを変な略し方するでない」
「……クリパ……」
「何の略じゃ?」
「ん……陽キャの集い……」
「陽……なんなんじゃ」
ふたりのいつものやり取りを後目に、わたくしはため息をつく。
「はぁ、困りましたわね」
巨大な樹木に覆われた大森林は目立つモノがなく同じ景色ばかり。
「この辺はわらわたちが何度も通ったところじゃ。急に迷うなんてあるのかのう」
パキラがふうむと考え込んでしまいましたわ。
こういう考察っていうんですの? 考えるのは彼女の得意分野ですわ。
「それにしても、ここがダンジョンと言われると腑に落ちることばかりですわね」
「そうじゃのう」
「ん……それな……」
「でも急に現れたミミックはさすがにどうかと思いますわ」
「あれは突然じゃったからのう」
「しかも……あんまいいの……無かった……しょぼん……」
各種ポーションの詰め合わせセットなんて、今どき献上品にもありませんわ。
それにわたくしたちにはウォフさんに貰った小瓶がありますの。
どんな傷も一瞬で治してしまう。
それを配るほどの量を持っている。この時点で察しはつきますわね。
「これはもう合流を考えず、わらわたちの安全を考慮したほうがいいのう」
「そうですわね」
「ん……しゃあない……」
「そういうわけで、リヴ。頼みますわ」
「ん……りょっ」
リヴは頷くと近くの巨木によっと軽い掛け声で脚をかけましたの。
そして跳んで登っていきましたわ。
まるで地面を歩くみたいに垂直の木を駆けていくのは見事ですわね。
「相変わらず凄いものじゃのう」
「レリックではなくスーツの機能とか言ってましたわね」
「多彩なことが出来るレジェンダリーじゃな」
リヴが木の上の偵察から戻ってくるまで、わたくしたちは木の幹に座って休憩。
木が巨大だからその地面から剥き出しの幹も座れるぐらい太いんですの。
「それにしても良かったのう」
「なにがですの?」
「ブルーグリーンクリスタルじゃ」
「そうですわね……」
1か月近く粘っても手に入らなかった。
本音を言えば諦めそうになっていましたわ。
それがまさかこんなカタチで入手できるなんて、人生って不思議ですわね。
「それに【バトルクライ】は便利じゃのう」
「え、ええ、そうですわね」
歯切れが悪くなるわたくし。
確かにとても便利なレリックですわ。それは認めます。
ええ、利便性が高いですわ。それは認めますわ。
「なんじゃ。まだ言うておるのか」
「だって、あんなの! 貴族令嬢として、いいえ。女として、なんてはしたない行為ですわっ!」
「そうかのう」
「そうですわっ!」
「じゃがどう使うかは前もって分かっておったじゃろう」
パキラが不思議そうにわたくしを見ますの。
ああ、その白い猫耳を揺らすのはやめて欲しいですわ。
撫でたくなりますわ。
「それは、そうですけれど、まさか実際にやってあんなに恥ずかしいとは思いませんでしたわっ!」
「じゃがのう」
「なんですの?」
いまいち納得してなさそうなパキラにちょっとイラっとしましたの。
それに気づかず呑気にパキラは言いますの。
「使った後のおぬし。妙にスッキリして爽快みたいな顔をしておったぞ」
「なっ! そ、それは……」
た、確かに使った後、今までにないぐらい心が開放された気分になりましたわ。
あらゆるしがらみがバカバカしくなった気もしましたの。
「ルピナス。おぬしは妙に変に考え込むところがあるからのう」
「ぐっ、否定できませんわね」
「じゃからこうやって発散しないと寝込むぞ」
「……わかりましたわ。はしたないですけれど、これからも使いますわ」
本当に恥ずかしいんですのよあれ。
するとパキラが立ち上がりましたの。
「すぐ使うことになりそうかもしれんのう」
あら、なにか周囲の空気が変わりましたわね。
そう思ったらリヴが戻って来ましたの。降りると剣を抜いて構えますの。
「どうでしたの」
「ん……見つけた……けど……リヴたち……囲まれて……おるぞ」
「そうじゃのう」
わたくしも遅れたけど気付きましたわ。
わたくしたちの周囲から敵意を感じますの。
わたくしは盾を出して構えますの。
臨戦態勢のわたくしたちの前に木陰から出てきたのは、なんですのあれ。
真っ白い身体。まるで陶器みたいな色合いですわね。
両腕に黒いまだら模様が入った人型の魔物。
蜘蛛の脚が髪のようになって人の顔ですけれど、赤い目が四つありますわ。
体つきから女性―――魔物に言ってもしょうがないですけれど、裸は困りますわね。ですけど不思議に不埒さは感じませんわね。
「ん……よいからだ……してる」
「むう。ルピナスぐらいあるのう」
「そんなことどうでもいいですわ! 完全に囲まれてますのよっ!」
それにわたくし。あれよりもうちょっとスタイル良いですわ!
わらわらと出て来る蜘蛛女。
どういう攻撃をするか分からないから不気味ですわね。
「ん……ルピナス……鬨の声……いっちょ……よろ」
「鬨の声?」
「あれ使えということじゃろう」
「もうちょっとわかりやすく言って欲しいですわ」
仕方ないですわね。
わたくしは大きく前に立つ。
両腕を広げて胸を張るように眼を閉じて息を吸う。
別に眼を瞑って吸う必要性はないんですけれど、これは気分の問題ですわ。
眼を見開くと同時にわたくしはおもいっきり叫ぶ。
「うおおおおおおぉぉぉぉああああああぁぁあぁッッッッ!!!!」
レリック【バトルクライ】。
その咆哮は空気を振動させて、ああ、なんてはしたない。
うら若き乙女でロードデントン家の令嬢たるわたくしが、このルピナスが!
こんなに大きな声を野外で人前であげるなんて!
ああ、なんて……なんて、はしたない……快感……かしら。
おっほん。わたくしの【バトルクライ】で蜘蛛女どもがワラワラわらわら。
殺到するようにわたくしの元へ集まってきますわ。
「ゆくぞ、ウインドクローっ!」
パキラの放った風の爪がノロノロした蜘蛛女どもを斬り飛ばす。
「………宙の型……昴……メロペブレード……」
青く光る剣を持ったリヴが次から次へとノロノロする蜘蛛女どもを斬り飛ばす。
ふたりの攻撃、明らかに身体の動きが良く、威力が上がってますわ。
それは当然ですの。
わたくしの新レリック【バトルクライ】。
それは【挑発】と【ハウリング】と【雄叫び】の複合レリックですの。
敵を【挑発】で集めて【ハウリング】で低下させ、【雄叫び】で味方の力を上げる。
だから蜘蛛女どもの動きが悪く、パキラたちの攻撃が冴え渡ってますのよ。
あっという間に蜘蛛女どもは殲滅されましたわ。
「ふたりとも、ご苦労様ですわ」
「やはり良いのう。ぬしの【バトルクライ】」
「ん……ルピナスの叫び……クセになる」
「やめてくださいまし! はしたなくて恥ずかしいんですのよ」
顔を真っ赤にするわたくし。
でも、ほんの少し気持ち良い気持ちになれるのは内緒ですわ。
「しかしのう。こやつらなんなんじゃ?」
「ん……まさに……怪奇……蜘蛛女……」
「蜘蛛といえば、ウォフさんが話していたダンジョンの異変がそうでしたわね」
「関係が大いにありそうじゃのう」
ふとリヴが蜘蛛女の遺体をゴロっとわたくしたちへ転がす。
なんですの?
「ん……ルピナスの……からだ……」
「おぬしなぁ」
「やめてくださいましっ!」
だからわたくし。もうちょっと良い身体してますわっ!
もうっ!




