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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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326/329

星月夜⑤


先客は……ビッドさんだった。

柵に寄り掛かって夜空を眺めていた彼女は、僕に気付いて振り向く。


「おや、ふふっウォフくんじゃないっスか」

「こ、こんばんは」


ちょっとドキっとした。

ビッドさんが普段と違う恰好だったからだ。


淡いピンク色の少し透けたネグリジェ。

しかも裾が短く、スパッツを穿いていない。


薄っすらと黒い下着らしきモノも見えている。

だからなのか。

ビッドさんがいつもより大人っぽく色っぽく見えた。


「どうしたっスか?」

「星が……凄いと思いまして……」


誤魔化すように見上げた空は、今にもその輝きが降り注ぎそうな星の天幕だ。

青く紫に赤と緑に黄と鮮やかで神秘的な色合いを宇宙そらに演出している。

指岩の周囲には木がないので緑の天井に邪魔されず、よく見えた。


「良い夜っスね」


くすくすっと笑うビッドさん。

僕は自然と彼女の隣に並ぶ。


「眠れないんですか」

「そうっスね。ちょっと緊張しているみたいっス」


言われると思う。

僕が眠れないのは緊張しているからかもしれない。


「それに『トルクエタム』が心配っス」

「僕も同じです」


この討伐村で合流するはずだった先行組の『トルクエタム』とは会えていない。

なにかあったのでは、と不安になる。

反面、彼女たちなら大丈夫だろうという信頼もある。


「……不思議っスね」

「なにがです?」


囁くとビッドさんは微笑んで僕をみつめる。

ふと気付く。彼女の腕には僕が渡したブレスレットがあった。


「ウチ、男が嫌いなんっスよ」

「そ、そうだったんですか……」

「まぁ、だからといって露骨に嫌ったりはしないっス。それと普通に話したりは出来るっスよ。それでも嫌いっスね」


普段、とてもそうは見えなかった。

社交的で男嫌いと言われて驚いたぐらいだ。


「……全然そう感じませんでした」

「うん。わからないようにしているっスからね。ウチね。隣の大陸の帝国領のいわゆるド田舎の村の出身なんっスけど、その村が男尊女卑は当たり前で、夜這いと誘拐婚が横行している最悪の村なんっスよ」

「……それは……酷いですね」


うわぁ、前世の記憶でいう典型的な因習村だ。

あと誘拐婚はさすがにないけど僕の村でも夜這いはあったな。


「成年になったら夜這いと誘拐婚されるんっスけど、親友の村で一番の美人さんが狙われて狙われて、元々こんなの村の若者の殆どが反対していたっス。でも老害どもが断固して認めない。それでウチたちは夜這いも誘拐婚もしようとするヤツを全員ブチのめして、村の掟がどうとかいう村長のオヤジを村の掟の前に帝国法守れ。夜這いも誘拐婚もするヤツは独身中年ばかりじゃねえかって集会のとき大勢の前でオヤジと取り巻きをボコボコにして、全ての黒幕だった長老連の無駄に豪華な屋敷を片っ端から破壊し、村の宝だった『キムクィ』を今までの迷惑料代わりに貰って村を出たっス」

「…………なんというか、爽快ですね」


そして豪快だ。だけどなるほど、それは妙な異性嫌いも納得だ。

男全員が敵じゃないというのは分かっているから表には出ないんだな。


ああ、そうか。

前パーティーの『ザン・ブレイブ』解散がトラウマになった原因はこれか。


「二度と帰るつもりないっスから大陸を渡って王都で探索者になったっス。それからしばらく王都周辺でソロをしていたところに『ザン・ブレイブ』に出会ったっス」

「王都だったんですね」

「人も多いから依頼も桁違いだったっス。まあでも危険とトラブルも段違いっス」

「そうなんですか」


王都。まだ行ったことないんだよなあ。

大体の辺境出身者はまず最初に王都へ行くのが多いと聞く。

大陸で一番人口が多く依頼が絶えないからだ。


それと王都にはダンジョンがある。

エッダが管理している王国最大のダンジョン。


確かなんていったかな。王国の名前が付いているんだよな。

そういえば僕、この国の名前知らないなぁ。興味もない。


「それで最初は助っ人で入って、何回かヘルプしたらメンバーになっていたっス。それで2年ちょっとで解散して、今に至るってところっスね」


話し終えるとビッドさんは恥ずかしそうに赤くなった頬を指で掻いた。

僕は彼女のそんな仕草を眺めて思い出す。


「さっきの不思議ってなにがです?」

「ふふっ、それはっスね」


ビッドさんは悪戯っぽい微笑を浮かべ、指を一本、僕の顔の前に立てた。


「?」

「そんな偏屈な男嫌いのウチが、ウォフくんだけは嫌いじゃないんっスよ。だからそれが不思議だなって、ちょっぴり思ったっス」

「あ、ありがとうございます……」


好意をもたれるのは、それを言われるのは、なんだか気恥ずかしい。

ビッドさんは立てた人差し指に蝋燭を消すようにフッと息を吹きかけた。

なんだかその仕草がとても艶っぽくみえる。


「だからというわけじゃないっスけど、ウォフくんのこと知りたいっス」

「え? 僕のことですか」


きょとんとしてしまう。

僕の事か。うーん。


「そうっスね。ウォフくんは故郷とか、どういうところだったっスか」

「ごく普通の田舎の村ですよ。特別なのは何もない貧しい村です。農家ですよ」


本当にどこにでもある村の農家の四男だ。


「長男が家を継ぐみたいなっスか」

「そうですね。ありふれてますよね」

「それはそうっスけど、でも普通は成人まで居るっスよね」


特に決まっているわけじゃない。

だけど暗黙の了解みたいに成人まで家に居てもいいことになっている。

なので特に決まってはいないから成人後も別に家に居てもいい。


「そうなんですけど、そのつもりだったんですけど、叔父さんからハイドランジアの棲み家をくれるという手紙が来て……正直、家は狭くて個室もなくプライベートなんてまるで無かったですからね」

「ベッドだけとかっスか」

「それです」


前世の記憶にある潜水艦の船員のプライベートスペースみたいだ。


「ウチは個室あったっスね」

「それに僕はちょっと村に居辛いことになってて」

「おやおや、なんかしちゃったっスか?」


嬉しそうにニヤニヤするビッドさん。

小悪魔みたいだ。


「村長の息子を殴り飛ばしました」

「派手にやっちゃってるっスね。理由は?」

「姉と妹を無理やり手籠めにしようとしたんですよ」

「はぁ~よくあることっスね」


あきれたようにため息をつく。

僕も息をついてから続ける。


「村は夜這いが許されているんですけど、成人済みの姉はともかくとして妹は未成年ですよ。まあ村長の息子は素行が悪過ぎてとっくの昔に村長候補から外されているんですけど、叩きのめしたことは問題になりませんでした。ただ、姉の夜這いも阻止したのが問題になってしまいまして……」

「面倒っスね」

「更に夜這いは廃止される予定だったんですよ。だから妹の件と合わせて罰せられることは無かったんですけど、村にとって微妙な立場になってしまったんです。それがまた居心地悪くて悪くて」

「それで成人前に村を出たっスか」

「手紙もらって即決ですね。次の日には出ました」

「ん? えっと家族の許可は得ているんっスよね?」

「一応、書き置きはしておきました」


しなくてもいいかなと思ったけど、家族だからしておいた程度だ。


「家族と仲が悪かった……わけじゃないっスよね。姉と妹を助けるところから」

「仲は悪くないですよ」


良くも悪くも普通だったと思う。


「……まぁ今更っスね」

「それに僕の場合は叔父さんの影響が強いです」

「あー……なんかすげえ納得したっス」


すげえ納得された。


「と、まあ、こんな経緯ですね」


ざっくりだけど。

それからキャラバンに拾われて、ハイドランジアに着いてからも色々とあった。

ふと話し終えて、そういえば故郷や家族の事を誰かに喋ったのは初めてだと気付く。


まあ話して面白いようなものじゃないからなあ。

話す理由も機会も無かったのもある。


「にしても、あれっスね。ウォフくんの叔父さん。ハイゼンの隠れ家とかゴミ場とか見ると、他でも色々とやってそうっスね」


苦笑しながら言うビッドさん。

そうなんだよなあ。叔父さん色々やらかしてそうなんだよなあ。


「でも第Ⅰ級探索者じゃないんですよ」

「これだけ色々やっても第Ⅰ級じゃないのは違和感あるっスね」

「ですよね。僕もそう思います」


どう考えても第Ⅰ級探索者じゃないのがおかしいんだよなあ。


「叔父さん。名前はなんて言うんっスか」

「それが……いつも叔父さんって呼んでて……」


僕は困った笑みをする。叔父さんって呼んでいるから名前を知らない。

ビッドさんはクスっとした。


「親族あるあるっスね。ウチも従妹の姉ちゃんをずっと姉ちゃんって呼んでいたから名前を忘れちゃったことがあるっス」

「何かで有名なのかもしれませんけど……」


ゼンゼラ家とも因縁ある感じだ。

セィランさんをセィラン嬢ちゃんなんて呼んでたみたいだし。

それとゴミ場にあった日記帳から薄々と感じていた。


『ゴミ場の発見を厄介と思っても大したことじゃないと思っている』


つまりまあその色々やっちゃってそう。


「それはあるっスね。間違いない。なんてたってウォフくんの叔父さんっスから!」

「あははっ……」


僕の叔父さんだからとは、どういうことなんだろう。

苦笑の後、ふいに空を眺める。見るたびに思う。


この世界の星空は前世の記憶のどの星空とも一致しない。

だからなんだという話だけど、それと今日の女王様は三日月だった。


「ねえ、話は変わるっスけど、ウチ。考えていることがあるっス」


ビッドさんが僕と同じように星空へ顔を向けながら言った。


「なんです」

「―――『トルクエタム』の誘いを正式に受けようと思っているっス」

「入るんですね」


やっとか。ようやくか。という気持ちは心の中に仕舞う。


「ずっと悩んでいたっス。このままソロでもある程度はいけるっスけど、それもどうかなってウチ、思ってて……『トルクエタム』とも付き合い長いし、今もアジトにそのまま居候している状態っスからね。それになによりも居心地が良いっス。それにソロ続けているのも、いじけているみたいなもんっスからね」

「喜びますよ。パキラさんたち」

「そうっスね……今、ウチ。とっても楽しいっス。『ザン・ブレイブ』のときも悪くないっスけど、充実感が段違いっス。それは、なによりウォフくんのおかげっス」


僕?


「僕ですか」

「ふふっ、そういう反応されると思ったっスよ」


ビッドさんは何故か少し僕に寄ってきた。

なんだ。


「まずウチが強くなれたことっスね。瞬足剣はウチの宝っス」

「たまたま運が良かっただけですよ」


ハイドランジアの水のダンジョンにかくしてあったゴミ場。

そのゴミ場でスーパーレアの黄色の光を放っていたのが『瞬足剣』だ。


「それでもウォフくんが居なければウチは手にして無かったっス」

「確かにそれはありますけど……あれはビッドさんがいなければオーパーツだと分からなかったですからね」


たまたま適合者のビッドさんがいたからこそ役に立った。

うん。やっぱりビッドさんの運が良かっただけだ。


「それと『パレステジア』もウチらしい槍でとっても気に入ったっス」

「あれは便利ですよね」


前世の記憶でいうところの範囲……なんだろう?

束縛系? 地雷系? なんか別の意味に聞こえるな。


「それにこのブレスレットも気に入っているっス」

「それは嬉しいです」


今もこうして着けてもらえるのは素直に嬉しい。

とってもよくお似合いだ。


「ねえ、ウォフくん」


ドキっとした。急にハスキーボイスから可愛らしく甘い声で呼ぶから。

思わず見ると潤んだ瞳をするから。


「ビッドさん……?」


頬を紅潮させているから。熱のこもった眼差しで僕を映すから。

顔が近くなっていくから。唇に吸い寄せられるから。

彼女がそばにいるから。


だからドキっとした。


「―――星が奇麗っスね」


そう僕の眼前で呟くように唇を動かす。

それからビッドさんは眼前でふわっと微笑み、離れてくるりと回る。

ダンスを踊るように軽やかなステップだ。


「は、はい。綺麗です」


素直に答える。

ビッドさんが、まるで星のようにかがやいていたから。


すてきだったから。

まっすぐ僕は言った。





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