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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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325/329

フォレストウェーブ・合間③・鬼一文字。


午後。ハイゼン大森林。

それは木々を避けた草地にポツンと唐突に僕たちの前に現れた。


「なんだありゃあ?」

「なんだもかんだも、宝箱だべ」

「それはそうっスけど」

「問題はどうしてあんなところに宝箱が?」

「ですよね」


そう、宝箱だ。

どこからどう見ても宝の箱で、キラキラと輝いている。


表面は赤く、蓋から箱は金縁で鍵穴は大きい。

立派な宝箱で材質も木製でも石製でもなく金属製だとわかる。


「……宝箱か」

「んだべな」

「そうっスね」

「……ウォフさん」

「間違いないです。敵です」


僕は即座に【危機判別】を行っている。

赤だった。つまりあの宝箱はミミックだ。


そもそも、こんな森の中にポツンとあんな立派な宝箱があるのがおかしい。

あまりにも怪しすぎて、これミミックじゃなかったらどうしようかと悩むほどだ。

僕はふと尋ねる。


「……ガラドさん。こういうことって今までありましたか」

「いいや。俺も長く大森林に入っているが、こんなあからさまなのは初めてだ」


あからさまじゃないのはあったのかな。


「オラも経験ないべ」

「なんかもうダンジョンってバレたから開き直っている気がするっスね」

「あははっ、それでこれですか」


苦笑してしまう。

いくらなんでも開き直りすぎだと思う。


「さて、んだば。どうすんべ?」


無視してもいい。相手をしてもいい。

雨の日に傘を差さなくてもいい。自由とはそういうものだ。

ガラドさんは少し考えて発言する。


「そうだな。ナベル。いい機会だ。ちょっと戦って来い」

「ボクですか!?」

「ミミックはいい経験になるぞ」


ガラドさんに言われ、ナベルさんは頷いた。


「わかりました」

「気張るっスよ」

「はい!」


返事をしてウルフェグの刀の柄を握りながら、ナベルさんはミミックに接近する。

じりじりと慎重に近づいていって、ふいにナベルさんの姿が掻き消える。


あれは『ワン・ステップ』だ。

ミミックとの距離をゼロにすると察知したのか勝手に宝箱の蓋が開いた。


箱の中には目玉がふたつ。蓋と箱の縁は生物的な歯となっている。

虫歯の無い人間の真っ白い歯が、縁に沿ってずらりと並んでいた。


健康そうだなと思う反面、生理的な嫌悪感を覚える。

あれに噛まれたくない。あれに噛まれたくない。


「【居合い】!」


ナベルさんが刀を抜き放ち切るが、ミミックの蓋に当たった。浅い。

噛み付いてきたのでナベルさんは慌てて下がった。


「駄目だな。型が必要だ」


ガラドさんがぽつりと言う。


「型ですか」

「あいつは筋が良いし才能あるが、我流ってタイプじゃない」

「確かに……」

「何か見本になる型があればいいんだが、オレはあんな器用なの出来ないからな」


ガラドさんは脳筋タイプだ。


「ビッドはどうだべ? 抜いて斬っているの同じだ」

「うーん。ウチの瞬足に似ているようで、実は別物なんっスよね」


ビッドさんのはどっちかというと、前世の記憶にある盲人の達人タイプの居合いだ。

似ているようで全然違う。


はて、そういえば誰か居合いを使っていたひとが居たような?

戦ったことあるような……あっ! あった! 居たよバッチリ良いのが!

これは示せるかもしれない。


「ナベルさん。ちょっといいですか」

「あっはい。なんですか」

「悪いんですけど、あのミミック。僕に任せてくれますか」

「えっ、それは」

「その代わり。今からある居合いの型を見せます」


ナベルさんが目を見開く。


「居合い……ですか」

「ほう。そいつは面白いな」

「できるんだべか」

「ウォフくん。できるっスか。居合い」

「ええ、見様見真似ですけど、たぶん出来ると思います。どうしますか」


「よ、よろしくおねがいしますっ!!」


ナベルさんが大きく頭を下げる。そこまでしなくていいって。

僕はナベルさんに小さく頷いた。

さて、やるか。


手前のナイフを握る。

これは今まで使っていなかったのでちょうどいい。


アガロさんのナイフ改3は使わない。

あれは切れ過ぎて居合いの威力かどうかわからなくなる。


握ったまま構える。

あのときを思い浮かべながら【レーヴムーヴ】でトレースする。


トレース対象は第Ⅰ級探索者。

『一刀両断斎』カエデ=アキマの居合いだ。


達人に対して恐れ多いけど見様見真似をさせてもらう。

お許しください。一挙手一投足まで完全に合わせ、踏み込んでナイフを振るう。


「———鬼一文字」


抜き放った刃が線を描いてミミックを断った。


同時に僕が使用したナイフ。

『先端が斧の刃みたいに弧を描いてエッジが効いた大振りのナイフ』が砕け散る。

それはもう鮮やかに刀身が見事に砕けた。あーああ。


前世の記憶にあるナスカやインカ文明の装飾っぽいのが刻まれていた部族ナイフだ。

石製のナイフだった。金属のミミックを斬るのはやはり限界があったか。


いいや。単純に僕が未熟なだけだ。

カエデさんの熟達した腕前なら石のナイフで金属を切っても砕けなかっただろう。

でも型は示せたはずだ。


「……………」

「見事」

「さすがっスね」

「うまいもんだべ。誰の技だ?」

「『一刀両断斎』のカエデさんです」


ハイドランジアの闘技場跡地で戦ったとき、彼女は居合いを使った。

それを出来るだけ思い出して【レーヴムーヴ】で使用してみた。


「大物じゃないっスか。しかも『難攻不落』」

「前に戦ったことがあって」

「それで覚えたってわけか。大したもんだ」

「いいえ。なんとか出来た程度です」


砕けた石のナイフに視線を向けて小さくため息をつく。

それよりナベルさんの反応が無いのが気になった。


「…………」

「ど、どうですか。ナベルさん」

「…………」

「あ、あの……」


ずっと無言で俯いたナベルさんが怖い。

やっぱり型として未熟過ぎたか。

【レーヴムーヴ】にも限界があるなと反省すると、急に顔を上げて僕の方を向いた。


「わんっ、ウォフさんっ!」

「わっ!」


ガシッと力強く僕の手を握る。

えっ吠えた? 


「ありがとうございますっ! ボク、目の前の霧が晴れたような気がします」

「ええっと……参考になれたのなら幸いです」

「わん。はいっ!」


良い笑顔。うまくいったようだ。

ナベルさんの尻尾が凄い勢いで回っている。


それと吠えたよね?

ジューシイさんだけじゃなかったのか。

やはりタバコ屋の黒い翼犬。


さてミミックの中身はハイポーションだった。

僕はいらないのでガラドさんにあげた。


ミミックの死骸は、放置する。

どうせ時間が経てばダンジョンに吸収されるだろう。

ついでに箱の中に壊れた石のナイフを入れて置いた。


それから特に何事もなく進むと、木々の隙間に大きな岩が見えてきた。

指岩だ。つまりやっと目的地の討伐村に着いたということだ。


ここの討伐村はハイゼン平原と同じで指岩の上にあった。

だが向こうと比べてそんなに高くはない。


平台といったところだが、魔物が指岩を襲うことはないという。

指岩はダンジョンにおけるセーフティエリアなんだろう。


着いた討伐村はやはり必要最低限の建物があるだけだった。

2件の武器屋。2件の防具屋。1件の酒場。1件の雑貨屋。数件の宿屋。


それと1件のギルド支部。他には見張り台があるだけだ。

それにしても交互に建物がある風景は、まるで前世の記憶の西部劇みたいだな。


「ここはギルド所有だが使用許可はとってある」


一番大きな宿屋のドアの鍵を開け、ガラドさんは言った。


「ギルドマスターはプアマンクラブと同志だからな」

「えっ、ということは頭部が……」

「鹿だ」

「…………」


統一しろ。

それから僕たちは宿の部屋を決める。


「『トルクエタム』は居ないみたいっスね」


討伐村を軽く回って、ビッドさんが言った。

心配なのだろう。息をつく。


「すぐ来ますよ」

「ガラド。雑貨屋、本当に好きなだけ商品をもらって使ってもいいだか?」

「ああ、武器屋も防具屋も全ての商品の代金は払ってあるから好きにしていい」


へえ、武器屋も防具屋も興味はないけど雑貨屋はある。


「ウォフくん。干し肉あるっスか」

「ありますよ」


ポーチから干し肉の塊を1本出してビッドさんに渡す。

ハイゼンに向かう道中から作っていて、ハイゼンに来てからも合間に干していた。


「ありがとっス」

「これ、新作ですよ」


さりげなく僕は干物を出した。

実はこの機会に挑戦して、一夜干しをいくつか作ってある。


「魚っスか」

「一夜干ししたものです。良かったらどうぞ」

「ありがとっス」


一夜干しは簡単だ。魚を開いて三枚におろす。

塩を全体にふって一夜だけ干して風任せにする。

隠れ家の屋上がちょうどいいので、そこで簡単な干物台をつくって干していた。


「そろそろ燻製に挑戦してみようかな」

「燻製っスか?」

「ちょっとやってみたいなって思って」


チップが無いなら香草という手がある。

前世の記憶でハーブブームがあったとき、ハーブ燻製も流行った。


この件が無事に終わったら挑戦してみよう。

ビッドさんが笑った。


「楽しみにしているっス」

「あはは、美味しいの作りますよ」


燻製器つくらないとな。

簡易で段ボールの作り方なら知っている。

ただこの世界には段ボールは無い。木箱を応用してやってみるか。


一緒に宿へ戻り、ビッドさんと別れ、厨房にいるホッスさんに挨拶する。

ちょうどいいので干し肉と干物を渡す。今晩の夕食に使うべと言ってくれた。


トイレに行って廊下を歩いていると中庭で声がする。

ナベルさんがガラドさん指導で居合いの型を練習していた。


ナベルさん頑張っているなぁ。

僕が手本を見せたのが功を為したのか動きが違う。

ガラドさんは腕を組んで「いいぞ」と声をかけていた。コーチかな?


がんばれと心の中で応援し、僕は部屋に戻るとベルトを外す。


「ナ!」


くるりんッパっとダガアが出てきた。

思わず苦笑した。


「おはよう」

「ナ?」

「いや寝過ぎだって」

「ナ!」


違う寝てないって猛烈に抗議されたけど、いやいや寝過ぎだって。

部屋で身体を洗ったりベッドに横になったりと少し休む。


日が完全に落ちたので皆で夕食を食べ、ゆっくりとした。

時間潰しにカードゲームをする。


ダガアが圧倒的過ぎた。なんなのこの生き物。

ガラドさんが神妙な顔をして最下位のビッドさんがうめく。


「さすが……クイーンっスね」

「やはりか」


何の話?

そうして僕はハイゼン大森林で最初の夜を迎える。

それはとても穏やかな夜だった。















深夜。

なかなか寝付けなかったので、気分転換に宿の屋上へ。

そこには先客がいた。






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