黒吞みのメガディア②
気になる。
黒吞みのメガディア。
そう呼ばれるもうひとりの第Ⅱ級探索者。
どんなひとか見てみたい。
「どういう人物か見てみたいがあれではのう」
パキラさんもそう思っていたみたいだ。
ただ、かなり盛り上がっていて人の壁みたいになっていた。
あれを物理的に突破するのは僕たちでは無理そうだ。
そうするつもりもない。
「……そうですね」
僕はレリック【危険判別】を使った。
店内に赤と青のポイントが見える。例え店内でも赤はある。
真っ赤なのは盛り上がっている場所だ。
少し黒もあって苦笑する。
「ウォフ?」
「ああ、すみません。凄い人の壁だなと思ったので」
「そうじゃのう」
それから見回して、みつけた。白いポイント。
人の壁が途切れているところがある。カウンターだ。
飲み比べをしているのがカウンターに近い。
また酒を持ってくる動線も必要だ。
だからカウンター付近には人がいなかった。
そしてカウンターの内側は空いている。
「パキラさん。いけます」
「なにがじゃ?」
「まずは食べ終わってからです」
「う、うむ」
そうして僕達は料理を堪能した。
食べ終わって少しして動く。
「ついてきてください」
「むう?」
僕は席を立ちあがってカウンターに移動する。
ちょうど店主のバーンズさんが厨房から出て来た。
「バーンズさん」
「よう。ウォフ。パキラの嬢ちゃんじゃないか」
「うむ」
「珍しい組み合わせだな」
「実はちょっとお願いがあるんですが」
「おっなんだ」
「あの、カウンターに入らせてもらえませんか」
「カウンター?」
「なんじゃと、カウンターじゃと」
「ええ、あの端っこのほう」
「端……あっ」
「なるほどな。見たいのか。いいぞ」
「ありがとうございます」
「なに言ってんだ。おまえには色々と助けてもらっているからな」
バーンズさんは豪快に笑う。
「どういうことじゃ?」
パキラさんは小首を傾げた。
「そんな大げさじゃないんですけどね」
「ふむ?」
「少し料理のきっかけみたいなことを話したりしているだけです」
前世の記憶にある前世の料理。
そんな詳しくはない。それでもいくつか役に立てた。
「ウォフは料理できるのか」
「趣味程度です。行きますよ」
「う、うむ」
カウンターの中に入る。
そして今も盛り上がっている人の壁へと近づく。
酒を運ぶ動線になっているカウンターには人の姿はない。
そこから見えたのは椅子のないテーブル席でジョッキを手にしたアガロさん。
顔は真っ赤でフラフラしてて、あれだいぶ酔っているんじゃないか。
その対面には―――んん? ん!?
「……ゴスロリ……」
「ほう。あやつが黒吞みじゃな」
対面に居たのはゴスロリ衣装の女性いや少女だった。
長い紫混じった黒髪はなんと姫カット。据わった紫の瞳。
赤黑いゴシックロリータ衣装を優雅に身に舞う。
厳密に言うとゴシックロリータ衣装はこの世界に無い。
ただ似たような衣装はあるのは知っていた。
エレガンスシックという。
ゴシックロリータとそう変わらないような?
だからゴスロリと心の中では呼んでいる。
ただ……彼女はアガロさんより背丈が高い。
おそらくアガロさんは175ぐらいはある。
つまり黒吞みのメガディアさんの身長は190近く。
でかい。
しかもゴスロリだから妙な迫力がある。
「おいおいおいおおぃ。もういい加減にしろよてめえ……」
「それはあーしのセリフよ」
「っ!……オラあぁっ」
アガロさんは飲み干した。
気合いで飲んだって感じだ。
「おかわりだあっ!」
「うおおおぉぉぉぉっっっつ」
「おおおおおおおっっっっっ」
「66杯目だあっ!?」
「66だっっ!」
えっ、そんなに飲んでいるの?
「アホじゃ」
「うん」
呆れるパキラさんに同意する僕。
そしてアガロさん。誰が見ても明らかに限界だ。
それに比べて対面のメガディアさん。
顔も赤くないし見た感じ酔ったようにみえない。
しかし飲み比べということは66杯も彼女も飲んでいることになる。
こくこくこくこくっとメガディアさんは特大ジョッキを飲む。
「ぷはっ、おかわり」
空にした途端、周囲が爆発した。
「うおおおおおおおぉぉっっっ」
「おおおおおおおおおおおおっっっっっ」
「69杯!」
「69杯目だああぁぁっっっっ」
「これが、これが黒吞み!?」
「つ、つえええ」
69杯!?
「驚いたのう」
「……アガロさん。負けているんですね」
「ううむ。あのアガロがのう」
「酒に強い探索者だけじゃなくドワーフの猛者にも勝ってましたからね」
「ハイドランジアで勝てるヤツはおらぬと言われておった。アホらしいが」
それで殆どの酒場が出禁になっているんだよな。
「そのアガロさんが」
「勝ち目はないのう」
アガロさんは67杯目でダウンした。
勝者は80杯目を飲み干したメガディアさんだ。
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