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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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309/312

フルムーンバザー⑥

『木閃』を両手で握って一直線に向かっていく。

蒼穹突破流そうきゅうとつはりゅう』という槍術だ。

突きに特化していて速攻に長けている。


ラァダが剣を振るうと、黒い球体が無数に出現した。

あれはやばい。反射も出来ない気がする。

僕は【青ノ聖者】を使ってスローにして避ける。


似たようなレリックをメガディアさんが持っていた。

確か『黒呑み』の由来だったか。


スローで回避し、『ワンステップ』で一気に間合いをゼロにする。

いきなり目の前に現れた僕に対して、ラァダさんは蠱惑的に笑った。

突き入れた『木閃』が弾かれた。後ろに下がる。


「障壁っ?」

「ヴィヌのよりは劣化しています」


それなら【ビブラシオン】で壊せる。

振動で破壊すると、ラァダは衝撃波を放った。


咄嗟に『青聖の籠手』で反射する。ラァダは吹っ飛ぶが、倒れなかった。

うまく着地する。体幹いいな。ラァダは嫌そうな顔をして言う。


「……まったく次から次へと……」

「それはこっちのセリフだ」


強い。だけどアルヴェルドほどじゃない。

このままやれば勝てる。確信して『木閃』を構えた。

次は【レーヴムーヴ】で奥義を使う。それで終わりだ。


「はぁ……強いですね。あなた。どうやら勝てそうにないです」


ラァダはため息をつく。


「諦めますか。今なら苦しまずに死なせますよ」

「それはとても魅力的ですが、まだ全力じゃないんですよ」


なんだ。彼女には妙な余裕がある。


「それで勝てるとでも?」

「さあどうでしょう。まあ、たった5分で……7日も安全を犠牲にするのであまり使いたくなかったんですけど……仕方ないですね。死にたくないですから」


ラァダの剣が光り輝いて裸の女性の姿になり、ラァダだった器の身体が倒れる。

足元まで届きそうな白銀の髪を靡かせ、真っ黒い瞳で僕を見つめる。


不自然なほど美麗に整った白い顔立ちは神秘的な美貌を現わしていた。

前世の記憶にあるビーナスの裸婦像。

それが動いているような錯覚を覚えた。


「人化……!」


さっきより強くなった。

でもそれで僕に勝てるかというと、そうは感じない。


「ええ、まあ、この姿になったのも本当に久しぶり。とはいっても感慨深くなる暇はないですね。それではいきます。御覚悟を―――真格化神レリック【リリートゥ】」


瞬間、星空が消えた。一瞬で全てが暗闇になり、そして元に戻った。


「っ!?」


その刹那でラァダの姿が変貌していた。

白銀の髪の半分が真っ黒に染まり、捻れた禍々しい長角が額の左右に生える。

髪の隙間からエルフのような長く尖った耳が見えた。


爪が伸びて上半身に大蛇が巻きついて色々隠し威嚇する。

更に下半身は獣みたいな黒毛に覆われ、鏃のように尖った黒い尻尾が滑らかに動く。

その姿はまるで。


「悪魔……」


彼女の閉じた瞳が開く。深い黒紫が僕を見据える。


「……っ!?」


背筋がゾっとした。なんだ。強烈な存在の圧を感じる。

戸惑っているとラァダが腕を振り上げ、軽く振るう。


―――ヴォォォン―——。


それだけで何もかもが切断された。

《《全身を覆った青聖の籠手》》も反射できずに粉々に砕け散った。


「その姿。ほう。疑似化神。それも【ジェネラス】ですか」

「はぁっ……はぁっ……はぁっ」


危なかった。本当に危なかった。

咄嗟に【ジェネラス】になっていなければ間違いなく今、死んでいた。


戦慄する。今まで死を覚悟したことは何度かあった。

だけど即死する危機は一度も無かった。


今回が初めてだ。しかもそれがただ無造作に振るわれた手刀の衝撃波。

たったそれだけ。


「しかし【ジェネラス】とは……妙な縁ですね」


―――ヴォォォン―——。


言いながら振るう。ギリギリで避けられた。


―――ヴォォォン―——。


容赦なくラァダは手刀を振り続ける。

たったそれだけで僕は窮地に陥る。懸命に避け続ける。

反撃の糸口も隙もない。


そうすると砕け散った『青聖の籠手』が集まり、僕の腕から身体を覆っていった。

以前にも【ジェネラス】になると籠手も変化してたのを覚えている。

胸の真ん中に一際大きな青い魔宝晶が生成された鎧になった。


―――ヴォォォン―——。


手刀の衝撃波を【ナイフマジック】のチェンジングで回避。


「【ファンタスマゴリア】」


無数の【バニッシュ】を一気に放つ。

ラァダは避けるそぶりすらしない。全て当たっても無傷だった。


「この程度ですか」


ラァダが嘆息する。

やっぱり力の差がありすぎる。唯一の対抗手段は……あるが、まだ使えない。

制限時間に差がある。向こうは5分でこっちは1分だ。


制限が切れたら確実に死ぬ。

まぁその前に死にそうだ。


「ウロチョロと鼠のように面倒な。【シェディム】」


突然、黒紫のゆらゆら揺れる炎が僕の背後から弧を描いて噴出した。

壁のようになって僕の退路を塞ぐ。


「参ったな……」


あの炎、なにしても無駄だと感じる。

【危機判別】は真っ黒だ。


「これで逃げることは出来ないでしょう」

「…………っ」


手刀の衝撃波。1回は籠手が完全に破壊されるけど耐えられる。

【宇宙(そら)かいな】は望み薄いがいけるかも知れない。


これでなんとか2発は耐えられる。

3発目の前に、よし。切り札を使って一気に決着をつける。それしかない。


ふとラァダは思案顔をみせた。


「単なる手刀では防がれるかも知れませんね。【キスキル=リラの爪】」


―――オオオオオオオオォォォォォォ―—―。


ラァダの構える手刀が不気味な響きと共に沸き立つような黒に染まっていく。

沸々と煮え立つような黒い手刀だ。禍々しくされど刀剣のように美しい。


あー、あれは……あはははははっ、終わった。なにをしても絶対に防げない。

【宇宙(そら)かいな】でも無理だ。次元が違う。


だからといって、このまま死んでたまるか。何かないか。何か。

ああ、ダガアが居ないとこんなにも―――あ、あれはなんだ?


【フィールドクエイク】:【ジェネラス】権能レリック。領域範囲内を揺らす。


これって……これだ。これに賭けるしかない。


「覚悟はいいですか」

「いいや。まだ、だ。【フィールドクエイク】」


地面が揺れ始めて激震する。


「きゃっ、な、なにっ? あなたこんな手で!?」


ラァダは動揺する。だが背中から黒い蝙蝠の翼と白い鳥の翼が生えた。

嘘だろ。そんなのがあるのか。宙に浮いたら効果がない。


黒と白の翼が一斉に羽ばたこうとする。

しかし地面から4本の太い蛸の触手が飛び出てラァダさんを拘束した。


「ぐうぅっ、おのれ。大海抱母めえぇっっ!!」


暴れてもがっちりと太い4本の白く赤斑の触手に抑えられる。

あんなに白く太かったか? ひょっとして触手も籠手みたいに変化しているのか。


まあいい。今だ。今が唯一のチャンスだ。僕は【レーヴフォーム】を使用する。

すると額から顔全体に奇妙な痛みがはしった。


だがそれもすぐに消え、急に視界や思考がとんでもなくクリアになっていく。

僕という存在の位が次元ごと上がった感覚。


手を伸ばせば本当に夜空の星も何もかも掴める。

そして全ては児戯に過ぎない。


ただしあの者は違う。

決して児戯に非ず。

真格に至る者。すなわち至宝。


「馬鹿なっ! 真格……!?」


ラァダが呻いた。

僕はエリクサーククリナイフを抜く。相手が悪魔ならば一番効果的だろう。

するとナイフを見てラァダさんが嗤う。


「そんなモノで宵に傷付けることが出来ると思いますか」

「—――【ロアの宇宙そらかいな】―――」


ナイフを持つ腕が宇宙になり、それがナイフに伝わっていく。

エリクサーククリナイフが恒星の光をもった。


「たかが恒星系ひとつ」

『シャアアァ―—―っ!!』


不意打ちといきなり大蛇が飛び掛かってきた。

僕は冷静にナイフで受ける。蛇の牙がナイフに食い込んだ。


ピキッと小さなヒビが入ったが、蛇は切り裂いた。

そして目を見張る。ラァダの胸元に瞳があった。


深い白紫の瞳が僕を凝視する。直感する。あれは急所かも知れない。

『ワンステップ』で時空距離をゼロにして、エリクサーククリナイフを振り下ろす。


「舐めるなっ! 【クリファ」

「一刀断魔!!!」


させるか。光速で胸元の深い白紫の瞳を斬る。正しくは振り下ろして突いた。

深く深くナイフの刃が瞳を貫いて背中まで至る。


「ギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッッッッッツ」


張り裂け劈くような悲鳴が夜に響き渡った。

同時にエリクサーククリナイフがパキンッと折れる。


触手が離れ消えるとラァダは地に落ちた。

体中から蒸気を放ち、悪魔姿から銀髪の美女に戻っていった。

血を吐く。


「終わりだ」


僕は折れたままのエリクサーククリナイフを威嚇で向けた。

ラァダは吐血し、残酷なほど美しい笑みを浮かべる。


「……そうね。最後にひとつだけ……いいでしょうか……」

「なんです」

「ハイヤーン……商会……気になっていたんです……あれは誰が……」

「あのウサギですよ」

「……ウサギ……ふふふふっ、彼女を殺すつもりは全くなかった……助手として付き合って、彼女は人間にしては……まあまあマシな部類……ただ頭の中が年中発情しているひとだったから……だから……だからね……ウサギに入れたんですよ…………」


そう悪戯っぽく微笑み、ボロボロと彼女ラァダは崩れた。

残ったのは朽ちた剣。それも霧散していく。


「…………」


なんかこう最後の言葉がそれで良かったのかと思わなくもない。

後にあるのは―――静かな夜の草原にポツンとあるハイヤーンの身体。

ハイヤーンボディ。


それを後目に僕は元に戻り、それで気が抜けたのか座り込んだ。

本当に死闘だった。まさかあんなのが……全部使ってようやく勝てた。


その勝利はまさに紙一重。

ひとつでも間違っていたらこの世から消えていたのは僕だ。


「……はあぁぁっ……つかれた」


ぼやいて見上げる夜の空は、信じられないほど幻想的に綺麗で瞬いている。

青や紫の光は銀河だろうか星雲だろうか。


そんなことを思いなから水筒の三か月の器を口にする。

ほのかに甘く酸味がある。スッキリとする自家製のお茶だ。

調合の腕も上達したなと自画自賛する。


「さてと、持って行くか」


気力が回復したので立ち上がる。

さすがにこれは放っておくわけにはいかない。


「ただその前に……ちょっと失礼して」


ハイヤーンボディのローブを探る。

タリスマンの永世卵……やっぱり持っていなかったか。

いや別に集めているわけじゃない。むしろ最も放棄したいシリーズだ。


それにしても……ハイヤーンの元ボディ……色々女性として……その凄いな。

いかんいかん。相手はあのハイヤーンだぞ。いかんいかん。


気を取り直し、よいしょっとハイヤーンボディを俵みたいに背負う。

とても柔らく暖かい感触とほんのり甘く香るが全て無視した。


さて、いったい此処はどこだろう。

ハイゼンは近くにあるのか。


あっちに明かりが見える。行ってみるか。





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