フルムーンバザー⑤
女性は店内を呑気に回る。
テーブルにある様々なオーパーツとレジェンダリーを眺める。
たまに手を取るがすぐに置く。
「凄い品揃いですね」
「ほうほう。分かるかねえ」
「ええ、これほどなのは、なかなかお目に掛かったことがありません」
「ふふっふふっ、褒めて貰えてうれしいねえ」
ドヤな魔女。
いやこれ全部ハイゼンのゴミ場から持ってきたものなんだけどなあ。
それに黄色い光だけを並べて、青い光は殆どない。
女性は魔女を見た。
「すみません。実は剣を探しています」
「ふむふむ。剣ならそこにあるねえ」
「探しているのは白い剣です」
「白い剣ですか」
思わず僕は反応した。白い剣といえばあれだ。
女性が僕の方を向く。ん? なんかあの女性……妙だな。
「あのひと、誰かに似てない?」
ミネハさんもそう思ったらしい。だが誰だ?
女性はくすっと笑った。
「はい。白い不思議な剣です。この部屋に必ずあるんです」
そう確信をもって女性は言い切った。
それから部屋の真ん中に置かれている黒い棺に視線を移す。
「ほおほお、お目が高いねえ。それはついさっき仕入れて来た商品だねえ」
「やっぱり商品なんですか……」
「どんな商品なのよ」
「おいくらですか」
「とてもとても安いよ。たったの100億オーロだねえ」
「……は?」
「100億っ!?」
「どんな安さなのよ……」
「安さってなんデス?」
「……?」
いやいや、いやいや、100億オーロはさすがに……何が入っているんだ?
それになんで魔女はドヤ顔なんだ。いったい何が起きているんだ?
「……わたくしが探している剣はその棺の中にある気がします」
女性の目つきが変わった。空気も段々と変化していく。
魔女は腕を組んで愉快そうに笑う。
「おやおや、おや、それはまた不思議だねえ。確かにこの棺の中には剣が入っているねえ。真っ白い不思議な神秘的な剣がねえ。どうやって知ったのかねえ」
それって……どういうことなんだ。
女性の目つきが鋭くなる。殺意ではなく敵意を感じた。
「感じるとしか言えません。宵はただその剣だけを貰えればいいのです」
「その剣って、ひょっとして剣の女神の娘ですか」
僕がそう尋ねた瞬間、女性から殺意が溢れた。
その刹那、突然……棺の真下から4本の蛸の触手が現れた。え? なんで?
「くっ、異なる海の!?」
棺が破壊されて中から死体が出てきた。なんだあの死体。血まみれで太っている。
それより死体が握っている剣。あの白い剣は、まさしく剣の女神の娘!
あっそれを触手が飲み込んでしまった。
「ジュミぃっ!」
叫ぶ女性のフードが取れた。あ、あの顔は!
「メガディアっ!? でも声が!」
違う。メガディアさん……じゃない。
凄く似ているけど背丈とか顔立ちはこっちのほうが大人っぽい。
ハッとする。そういえば前にあいつは言っていた。
「ハイヤーン……」
呟くと女性が目を見開いた。心底から驚いたような表情をみせる。
「なんでその名を―――くっ、今は」
女性が何か懐から取り出す。
なんだか嫌な予感がして僕は【青ノ聖者】を使った。
全てがスロースローとなって、女性に接近する。
彼女が取り出したのは―――転移石だ。床に思いっきり叩きつけた。
砕けると白緑色の光を放ち、彼女とも消える。
「逃げられたっ?」
「いやはやいやはや。とんでもない女だったねえ。おや? はてさて、ウォフ少年はどこかねえ?」
「いないデス」
「……っ?」
「あいつ。ひょっとして―――!」
虚空から放り出され、僕は受け身を取って地面を転がる。
痛みに耐えながら立ち上がると、そこは外だった。
「ここは……」
「くぅっ……余計なモノがついてきた」
少し離れたところに女性が四つん這いになっていた。
どうやら転移の巻き込まれに間に合ったみたいだ。
あそこで逃げられるのは嫌だった。
逃がしちゃいけない。そう感じた。
僕は尋ねる。
「本当にハイヤーンの身体なんですか」
「……ええ、騙し取ったハイヤーン=メガロポリス。彼女の身体よ」
女性はゆっくりと立ち上がって振り返る。
このひとがハイヤーンをウサギに入れたひとか。
「だけどあれから数千年は経過していますが」
「タリスマンの永世卵です」
ああ、あれか。答えて彼女は剣を抜く。白く黒い剣だ。
柄頭から鍔元まで真っ白で輝き、刀身からは闇のように真っ黒くて蠢いている。
それだけで他の女神の娘とは格が違うと感じた。
瞬時にあれが彼女の本体だと察する。
僕は聞く。
「あなたはいったいなんなんですか」
剣の女神の娘なのは分かる。
だけどハイヤーンの元の身体を器にしている。
それはあの3本とは違う。
「———宵はラァダ。【魔性】のラァダ。坊や。あなたは?」
「ウォフです」
カタカタっと異なる海のナイフが騒ぐ。
でも僕は『木閃』を構えた。すると異なる海のナイフは収まる。
聞き分けはいいんだよな。
ダガアは居ない。あいつなにしているんだろう。まあ、いいか。
ここがどこだか分からない。
見回す。空には無数の星々が青紫色に瞬き光り、満月と衛星が鎮座している。
それらが照らす煌めきで地面が草だと分かった。
どこかの草原か。まったく。どこまで転移したか分からないのは、不安だ。
「たぶん……これから僕たち戦いますよね」
「そうですね。ちょっとあなたは生かしておくのは無理そうです」
苦笑された。やはり戦いは避けられないようだ。
「……それなら、いったい何が起きているのか説明してくれませんか。このまま何も知らずに戦うのは嫌なんですよ。ほら冥途の土産ってやつです。いいでしょう?」
僕の言葉にラァダは笑った。
「面白い考え方ですね。分かりました。宵がハイゼンに来てから知っていることだけでも語りましょう。あれは数か月前、ハイゼンに来た宵は赤い仮面の男という知人を得て三大家のジンリュウ家に紹介されました。ちなみに赤い仮面の男は剣の女神の娘たちを死の都から持ってきてバザーで売りさばいた後、やることがあるとハイゼンを出て行きましたね。今はどこで何をしているのやら」
うわぁ……赤い仮面の男。元凶すぎる。
なんというはた迷惑なヤツなんだ。
「死の都?」
「死そのものが封じられている遺跡都市です」
「ああ、なるほど」
『デス・アブストラクト』が封じられていた遺跡のことか。
剣の女神の娘たちは赤い仮面の男によってそこから持ち出されたのか。
赤い仮面の男は盗賊団の仲間だったのかな。
今となっては壊滅しているからなあ。
「ジンリュウ家の客人になった宵は、ひとりの青年に出会いました。彼はバァロウ=ジンリュウ。出来損ないと呼ばれた三男です。彼は英雄の父と優秀な兄たちに挟まれていつもビクビクと怯えて隠れて気の毒そうに思いました。だからせめて心の奥にある願望を引き出してあげようと思ったんです。慈悲深いでしょう。幸いにも宵の権能レリック【魔性】は、そういうことが出来ました。バァロウ様の心を開放。そうしたら、とんでもないことになりました。びっくりです」
「……とんでもないこと?」
「バァロウ様の心は醜悪だったのです。父を殺し兄たちを殺し、次期頭首となった彼は女を攫って呪いを掛けて好き放題に遊んだ後、飽きたら殺す。そんなことを繰り返しました。そしてそれは段々と歯止めがつかないほど暴走しました。外からや身内だけでは飽き足らず。ゼンゼラ家とゴウロ家ゆかりの女性も攫って遊んで殺すようになったのです。最近ではルマという娘にも手を出そうとしました」
ルマさん!?
「彼はゼンゼラとゴウロを完全に敵に回しました。宵はジンリュウ家は終わりだと思いました。なのでバァロウ様にゼンゼラ家とゴウロ家が動いている情報は一切教えず黙っていました。そこで彼は更に地雷を踏んだのです。ルマと一緒に攫った女はタサンの娘でした。何をどう取り繕うとも終わりです。元々フルムーンバザーで暗殺されることは確定していたのでバァロウ様の死は覆ることはありませんでしたけどね」
くすっと笑う。
「まるで他人事で言っているけど、あなたが元凶じゃないですか」
そうだ。なにもかもこいつが悪い。
ラァダは目を閉じて小さく頷いた。
「否定はしません」
「罪悪感はないのか」
「あなたはアリの巣に水を流しても悪いと感じますか?」
「人間はアリじゃない」
「宵にとっては変わりません。アリも人間も……気の毒だとは思います。運が無かったと感じます。そう、たまたま運が悪かったのです。心を開放させても良い方向になったことも沢山あったんです。だから運が悪かっただけです」
「……それだけか」
「はい。それだけです。それで確実にバァロウ様を暗殺させる為、仲間の器になってもらいました。そして予定通りに彼は暗殺されました。めでたしめでたし。これでどうですか。大体は掴めたと思います。冥途の土産になりましたでしょう?」
仲間の器……ひょっとして棺にあった死体がバァロウなのか。
それにしても彼女、本当に最後まで他人事だった。当事者意識が一切無い。
分かった。同じ剣の女神の娘だけどギィーザとの明確な違い。
なんでギィーザが同類をあんなに毛嫌いするか。
人を自分と同じだと思っていないんだ。
だから人がどうなっても別にいいんだ。
「あんたは生かしてはいけない。きっとこれからもずっと同じ事を繰り返す」
「ええ、これまでもやってきたことですから繰り返します。ああ、奇遇ですね。宵も同じことを思っています。あなたはここで死んでください」
この女、ラァダは今ここで確実に倒す。




