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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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305/312

フルムーンバザー②

ウォフの提案は、ハイゼンに戻ってくる良いきっかけになると思ったべ。

いつかは戻らないといけない。ルマに会わないといけない。

だからオラは戻ってきた。戻ってこれた。


ルマは昔と変わっていなかっただ。

昔と変わらず綺麗だ。あの頃のままだったべ。


彼女としっかり話せているオラ自身に驚きつつ、会話を進める。


「……あー……実は―――結婚することになっているんだ」

「え。あ、ああ、そ、それは、めでたいべ」


な、なるほどだ。

あれから随分と経っただ。


「相手は……バァロウ。バァロウ=ジンリュウ」

「ジンリュウって……大物だべな……」


バァロウ? 聞き覚えないだ。そんなヤツ居たか?


「ちなみにね。第9夫人になるんだ」

「えっ、あ、ああ、そういう」


なんだ第9夫人って。

なんで一番じゃないんだ?


「妾に近いんだ」

「…………そ、それでも好きなら」


好きなら、ルマが幸せになるなら。


「好きじゃない」

「……へ?」


淡々と突き刺さるようなルマの声だった。

好きじゃないって。


そんなのなんだべ。


オラはルマが止めるのも聞かず、昔馴染みの情報屋と会っただ。

金を渡してルマについての情報を集めて貰ったべ。


「結論からいうとルマはこのままだと死ぬ」

「……なに言ってるだ」


情報屋はなんともいえない表情をする。


「バァロウはヤバい。ジンリュウ家は終わりだ」

「どういうことだ?」

「ジンリュウ家は頭首のハガンも死に長男のジンギも死に次男のガラドも死に、残ったのはあの三男のバァロウだけだ。そのバァロウはハイゼンにいる女を手当たり次第に好き勝手に集め、妻と称して呪いを掛け、散々遊んだ後、飽きたら殺している」

「そ、それ本当なんだべが?」


信じられないだ。そんなこと。


「ああ、外からだけじゃない。ゼンゼラやゴウロに所属して縁がある者も被害にあっている。しかもジンリュウ家からもだ」

「……メチャクチャだべ」

「そうメチャクチャだ。ゼンゼラ家もゴウロ家も報復する為、裏で動いている。ジンリュウ家を見限って出て行ったり、裏切者も出る始末だ」

「な、なんでバァロウはそんなことしているんだ? あいつはオラが知っている頃はまったく目立たなくて大人しかったべ」


薄っすらと思い出すのはガラドの横にいた小さく細い青年。

あまり印象に残らず、確か『出来損ない』とか陰で呼ばれていた。


「……分からん。どう考えても自滅の道を歩んでいる。ジンリュウ家は終わりだ。三大家の一角が折れる。ハイゼンは荒れるぞ」

「ルマはどうなるだ。オラ、どうすればいいんだ?」


なんでだ。

情報屋はカーヴィーは、ぽつりと言う。


「おまえがあのとき一緒に連れて行けば……こうならなかった」

「そ、それは……オラは……」


なんで、なんでルマは幸せになれないんだべ。

あのときも今もどうして、どうして、どうして。


「ルマは待っていた。ずっとあの食堂で待っていたんだぞ」


責めるようなカーヴィーの言葉。

オラは……確かにひとりで出て行くより、一緒に行くべきかも知れなかっただ。

だから今からでも。


「……ルマを助けたい。どうしてもだ。協力してくれ」

「なら人を紹介する」


そう言われて紹介されたのが、語尾にゲスが付くあの顔に傷がある男だっただ。

彼は怪しさ満載だったけど全部……教えてくれたべ。


ルマが呪われていること。

その呪いでルマはバァロウに逆らえなくなっている。

自由も何も無くなっている。嫁ぐしかない。


呪いを解くにはバァロウを殺すこと。

呪いをバァロウ自身が解くことがないので殺すことが確定だ。


「ならオラがヤツを殺すだ」


狙うはフルムーンバザー。

要塞と化したバァロウが屋敷から出る唯一の日。

フルムーンバザー。VIPエリア・移動宮殿の中で殺す。


はあ、ウォフ達には何も言えないだべな。

アクスにもレルにも……すまない。


でもルマには幸せになって欲しいだ。今度こそ。






















上層・移動宮殿。

VIPエリア。ジンリュウ家エリア。


当主専用寝室。

天蓋付きの豪奢なベッドの近くで何かが割れたり砕ける音が鳴り響く。


「くそっくそっくそっくそぉっっ!!」


肥満体を揺らしながら次から次へと高価な調度品を壊していく。

ベッドには血まみれの女性の全裸死体が3体も転がっていた。


近くに血まみれの剣が転がっている。真っ白いとても綺麗な剣だ。

細身で血を吸ったように艶やかに輝いている。


剣の女神の娘が一振り。それが雑に床に放り出されている。

バァロウはそのことを知らない。この剣は『彼女』に渡された。


『彼女』がジンリュウ家の『出来損ない』バァロウの元に現れたのは数か月前だ。

その数か月でバァロウは豹変した。


父のジンギを暗殺して、兄のガラドを間接的に殺した。

前のバァロウなら絶対に出来なかったことだ。


そして体型も変わった。

前はチビで痩せていたが、今は腹が妊婦のように膨れ、顔も豚のようだ。

肌色のオークといわれても違和感が無かった。


「バァロウ様。何をそんなに荒れているのですか」


その『彼女』がやってきた。

黒いフードを目深に被っているのが紫の瞳は際立って光る。


フード越しでもその見目が稀なほど美麗なのは分かる。

だがバァロウは『彼女』に手を出していない。出せないのだ。


「ラァダ。ルマと一緒に捕らえた女。あれがなんなのか知っていたのか」

「いいえ。単なる小娘かと」

「タサンだ」


ラァダと呼ばれた女性は顔色を変える。


「タサン公爵家。まさか手を出したりは」


ラァダは死体を見る。

最悪かどうかを確認するが彼女はそもそも姿を知らない。

それでも見てしまうのは明らかに動揺していた。


「いいや。遊ぶ直前で気付いた。どうする。どうすればいい」

「……殺すのは絶対にダメです。事故でもなんでも殺すのはダメです」


ラァダは紫の瞳を鋭く光らせる。

何をどうしても悪あがきに過ぎない。破滅しかない。


「わかっているっ! そんなことをしたら破滅だ! だが攫ってきてしまったぞ」

「———彼女の要求を全て受け入れるのです」

「……ルマを開放しろと言っている」

「解放するしかありません」

「ぐっ、ぐぐぐぐぐうううぅぅぅぅっっああああああああああっっっっっ」


バァロウは落ちている剣を手にするとベッドの上の死体を斬り始めた。

乱暴で叩き付けるように斬り付けている。八つ当たりだ。


3体の死体……彼女達はハイドランジアの探索者だ。

フォレストウェーブに参加する為、ハイゼンにやってきた。


目的は稼ぐ為と力試し。

その末路がバァロウのオモチャである。

見目が麗しかった所為でこうなってしまった。


「ですが解放するのはフルムーンバザーの後で良いと思います」

「どういうことだ?」

「いま解放するのは得策ではありません。彼女も自分が殺されることはなく要求は受け入れられると踏んでいるのでしょう。そして解放されることも……ですがまだ解放してはなりません。時間を稼ぐのです」

「何のだ?」

「逃げる準備です」


それを聞いたバァロウは素っ頓狂な声を上げた。


「はあぁっっ!? 逃げる? 逃げるだとぉ? そんなこと出来るかっ! せっかくジンリュウを手に入れたんだぞ。地位も名誉も権力も何もかもだ! これから俺は他の家を蹴散らしてハイゼンの王になる男なんだぞっ!!」

「このままだと何もかも失います」

「ふざけるなぁぁっっっ、ウッ!? ウウウゥゥッッ……!?」


バァロウは急に苦しみ出すと、床に膝をつく。

その様子を何もせず黙っているラァダ。


「ウガアアァァァガアアアアァァァアアァァッッッ」

「……………」


苦しみ悶えていてもジッと見ているだけだ。

すると何事も無かったようにバァロウは立ち上がった。

ラァダを見るとため息をつく。


「うまくいったけど、正直この豚は嫌い」

「分かっています。少しの辛抱です。ジュミ」

「うん。あのさ。ラァダ。もっとうまく出来なかったの?」


非難めいた目線をラァダに向ける。

ラァダは微苦笑した。


「仕方がありません。宵の権能レリック【魔性】は魅了ではありませんから。宵が出来ることは相手の心を引き出すことです。バァロウ様の所業は彼が元々心にあった渇望。それを実際に叶えてあげただけ。さすがにこの有様は予想外でした」


ラァダは自嘲に近い苦笑を浮かべた。

ジンリュウ家が破滅する原因は彼女ラァダにあった。


剣の女神の娘で【魔性】のラァダは人化して長い時を放浪している。

たまにこうして名家などに客人として招かれることもある。


この美貌とエッダの証である紫の瞳。

エッダは例外なく貴族となっている。

そして権能レリック【魔性】を使えば造作もない。


今回もそうだった。

だが今回は失敗した。近年稀にみる大失敗だ。


気付いたときはもう止めることも出来なかった。

それは言い訳にもならない。


彼女は思う。

【魔性】は悲劇と破滅しか生まない。


「悪趣味極まり。神の娘だけど、同じ女として吐き気がする。グェネが出て行ったのも納得」


知った途端、激怒してバァロウとラァダに切り掛かったぐらいだ。

ラァダは吐息する。


「グェネには悪いことをしました。それにいずれ訪れていた破滅。それがほんの少しだけ早まっただけです」


ラァダは、ゼンゼラ家とゴウロ家が動いていたことは黙っていた。

それらの情報がバァロウに伝わらない様に全てシャットアウトしていた。


ジンリュウ家にもう後がないことが分かったからだ。

ならばもう用がない。元々長居するつもりも無かった。


いつまでもこんなことが続くとは思っていなかった。

それでも自分が逃げるまでは、なんとか間が持つとは思っていた。


「後はバァロウ様をスケープゴートにすればいいだけでした。それなのに余計なことをしてくれます。さすがバァロウ様です」


よりにもよってタサン公爵家の娘を攫ってきた。

終わりのカウントダウンが一気に早まった。


「ルマとサマーニヤはどうする」

「フルムーンバザーまで軟禁します。丁重に扱ってください。こんなこと罪滅ぼしにもなりませんが、唯一生き残っている彼女達には無事で居て欲しいのです」

「わかった」

「あなたは予定通りに行動してください」

「そうする」

「行動後、あなたを回収する手はずです」

「よろしく頼んだ」

「ただしアンノウンが存在します」

「ヴィヌとルゥベを壊したヤツ」

「———それには気を付けてください」

「わかった」

「それでは、まず彼女達を弔ってあげましょう」


ラァダの言葉にバァロウいいや彼を器にしたジュミは頷いた。


明日、フルムーンバザーが開かれる。

夕方から朝方までの最大の露店市場だ。


今年も様々な出会いと出来事が始まるだろう。



























同時刻。隠れ家。

ウォフの部屋。


「あああぁぁぁっっっっ!?」


思わず叫ぶ。研いでいたナイフがパキンっと折れてしまった。

それは戦利品にあった見た目が普通のナイフ。


刀身に錆が浮いているナイフだ。

まだ残っている戦利品を品定めしているとき。

なんとなく錆びを落とせばいけると思った。


なので新しく買った研ぎ石で慎重に研いでいた。

でもちょっと錆がしぶとくて、力を入れたら見事に折れた。


そのショックで思わず叫んでしまった。

すると磨いて塩水につけていた異なる海のナイフが蠢く。

一気に4本の蛸の触手を伸ばし、折れたナイフをバキバキに折って吸収していく。


「ええぇ……」


いつの間にか1本、増えている……?

吸収すると4本の触手は僕の方を向いた。

ぺこりと頭を下げるように触手を動かすと元のナイフに戻っていった。


「…………」


寝るか。




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