フルムーンバザー①
移動宮殿。
ここが噂のVIPエリア。
全く同じ間取りの小部屋から出ると、煌びやかな廊下が待っていた。
赤い絨毯が敷かれて等間隔に見事な風景画と石像があり、ドアが並んでいる。
神殿のような円柱が平然と建っていた。
「これらは全て転移室だ。店舗エリアはこっちだ」
廊下の先は噴水が見事な中庭だった。かなり広い。
「あれ?」
「どうしたの」
「いや……」
中庭でルマさんとサマーニヤさんを見たような気がした。たぶん気のせいだろう。
ホッスさんはあれから戻っていない。どこでなにをしているのか。少し心配だ。
中庭を後目にして2階へ上がる。
2階は広い空間・ホールになっていた。
ホールから左右の廊下に転移室と似たようなドアがズラリと並んでいる。
「ここが店舗エリア?」
ミネハさんが眉根を寄せる。
「そうだ」
「テントは無いんですね」
「無い。宮殿の2階~5階の部屋がそれぞれ店舗になっている」
「6階は?」
「そこは玉座の間だ。確かハウスオブカーズのチャンピオンマッチが行われる」
「それってあのカードの?」
「ハイゼンのチャンピオンとの一騎打ちだ」
へえー、カードか。あんま興味ないな。
ミネハさんもそんな感じの反応をする。
「にしても、なんか地味ね」
あからさまにガッカリするミネハさん。
思っていたのと違う。その気持ちは分かる。
もっと豪華なテントとか並んでいると思った。
だけどあまり目立たないようにという感じのがVIPエリアなんだろう。
「魔女の店舗はこっちだ」
右側の一番端、『216』とドアに番号が入っていた。
ギィーザがドアをノックする。
「はいはい。どうぞどうぞだねえ」
魔女の声がしてギィーザが開ける。チリンっと鈴が鳴る。
入るように促され、部屋・店舗に足を踏み入れる。
長く大きなテーブルがひとつ置かれ、部屋の隅に椅子が端から端まで並んでいた。
テーブルの上には今朝、ゴミ場から持ってきた黄色の光のモノが並んでいる。
ひとつだけの窓には薄黒いカーテンが付けられていた。
「これが店舗?」
ミネハさんが見回ってぼやく。
安全だと分かったのかフードを鬱陶しそうに取る。
「まぁまぁ、もうちょっと内装は整える予定だねえ」
「……なんだか宝石店みたいな、そういう感じがありますね」
「おお、おお、さすがウォフ少年。分かっているねえ。内装は王都にある完全予約制で招待制の宝石店がモデルだねえ。そこで売っている宝石は全て鑑定付きのレジェンダリーでねえ。地下には呪われたモノも売ってあったねえ」
どんな店だよ。
ミネハさんが眉根を寄せる。
「呪いって本当にあるの?」
「ある」
「あります」
「それがそれが、あるんだねえ」
異口同音に僕達は肯定する。
現に僕は剣の女神に呪われて剣が持てない。
「ではでは、その呪いというのはなにか。それはずばりレリック効果なんだねえ」
言いながらテーブルに寄り掛かる魔女。
「レリックなの?」
「いやいや、厳密に言うとレリック効果。そうだねえ。実例でいうと身体の自由を奪うレリックがある。このレリックを掛けられた人は当然、身体の自由が奪われるんだねえ」
傍に置いてある指輪を手にし、ダブルリングだ。指先で弄ぶ。
「それは当然そうなるわよ。そういう効果なんだから。なに言っているのよ」
「うんうん。でもミネハはそれが永続的に続くとは考えていないよねえ」
「永続的って、その場限りじゃないの?」
「違う違う。ずっと身体の自由を奪われる。それが呪いと呼ばれているんだねえ」
ミネハさんは目を見開いて驚き、疑問を口にする。
「クールタイムはどうなっているのよ」
「ほうほう。真っ先にそれに気付くとは、とても良い質問。呪いはレリック効果だけどクールタイムはないんだねえ」
ダブルリングを魔女は置いた。
ミネハさんは困惑している。
「そんなの……」
「さてさて、クールタイムが無い理由はもちろんある。呪いは代償を払うことによって発動し続けている。その代償とは古のレリックの力……命だねえ」
魔女の言葉に僕とミネハさんは息を呑んだ。
ギィーザはため息をつく。
「命って、どういうことよ」
どういうことか分かって聞いているのは明白だった。
それでも口にしないと納得できなかったんだろう。
「ふむふむ。簡単にいうとレリック所持者が絶えず命を削ってレリック効果を持続し続けている。または誰かの命を代わりにする。つまり生贄とかだねえ」
「……外道ね」
吐き気がするとミネハさんは舌打ちした。
剣の女神はたぶん前者だ。そして命が尽きることはない気がする。
そのときチリンっと鈴が鳴ってドアが開く。
「どうなの準備は?」
そう言いながら入ってきたのは狸耳の女性だった。
長い金髪を緩やかに巻いて流し、丸い獣耳・狸耳が出ている。
澄んだ青い瞳。魔女やミネハさんに負けず劣らずの整った顔立ちをしている。
よく見ると絶世の美女しかいないなこの部屋。
みんなクリームみたいな甘く良い匂いがするし。
黒いケープにヒラヒラとしたドレス姿。
なんだろう。見た目は質素だけど存在感が段違いで気品が漂っている。
あのドレス……見た目とは裏腹に高級品な気がする。
二つの狸の尻尾を生やしていた。
狸人種だ。あっ、ポンポコってそういう。
「お嬢様」
「あっ、ええっと……ひょっとして」
「はじめまして。ウォフです」
「ミネハよ」
「こんこん。魔女だねえ」
僕達は自己紹介する。
お嬢様ってことは、このひとがセィラン嬢ちゃんか。
「は、はじめまして。ポンはセィラン=ゼンゼラ。ゼンゼラ家の当主なのって、魔女は知っているから自己紹介いらない!」
「はは、はは、とまあこんな感じのメス狸だねえ」
「女狐め」
プイッと怒ってセィランさんは顔を逸らす。
そして僕をチラっと見た。
興味深そうな目線で、だが距離をとっている。
「……お嬢様。御用件は?」
「様子見なの。どんな店舗にしたか確認しに来たの。ふぅーん。悪くないわ。魔女にしてはね」
「あの、すみません」
「な、なに?」
ビクッとされた。僕はポーチから手紙を出す。
「これ、叔父さんからです」
「へ……?」
「セィラン嬢ちゃんへって」
「へ?」
唖然としていたが、ゆっくりと彼女は手紙に触れる。
バッと奪うように取った。彼女のふたつの尻尾が総毛立っている。
野生の狸かな?
「お嬢様。獣みたいだぞ」
「うっ、うるさいの。ギィーザ」
「おやおや、そんなものがあったんだねえ。ラブレターかねえ」
「ニヤニヤするなっ女狐!」
キッと魔女を睨んでからセィランさんは手紙を大切に仕舞う。
「渡せて良かったです」
「あ、ありがとう……なの……あ、あっ、これ!」
何か照れ隠しのようにセィランさんはテーブルの上にある髪飾りを手にする。
「おやおや、何か気になったのかねえ」
「……いくら?」
「ほうほう。ほう。そうだねえ。面白いモノが見れたから5万でいいねえ」
「ギィーザ。払っておいて」
「畏まりました」
「魔女。ついでにこれは何処で手に入れたの?」
髪飾りを見つめながら尋ねる。
「さあてさあて、前のバザーかねえ」
「居なかったじゃないの。ウソつき」
ジト目で魔女をみつめるセィランさん。
ギィーザが5万オーロを魔女に払う。
「じゃあ、頑張ってなの」
セィランさんとギィーザは一礼して去って行った。
しばらくして魔女が呟く。
「ふうむふうむ。ちょっとまずいかもねえ」
「なにが?」
「おそらくおそらく、あの髪飾り。セィランの知り合いの遺品だねえ」
「あっ」
「疑われたわね」
嘆息するミネハさん。魔女は頬に手を当てる。
僕は聞いた。
「どうします?」
「まあまあ、それはそれでやりようがあるからねえ。心配は無用だねえ。それとウォフ少年。店番でシャルディナとアンナクロイツェンに手伝ってもらいたいねえ」
「わかりました。後で伝えておきます。ところで魔女。聞きたいことがあるんですけど、いいですか」
「おやおや、なにかねえ」
僕は剣の女神の娘の件について尋ねる。
魔女はやっぱり忘れていた。だけど倒したことについては否定する。
「それじゃあ誰がやったの?」
「さあてさあて、彼女たちには敵が多いみたいだねえ」
魔女は笑う。楽しそうだ。
ミネハさんは呆れる。
「そうみたいね。アタシもそのひとりだけど」
「ふふ、ふふ、どちらにしても手柄はまるっとコンが戴いておくねえ」
だろうと思った。
その後は魔女の手伝いをして部屋を出る。
階段を降りて中庭を見る。噴水が見事だ。
「ねえ、あれ」
フードを目深に被ったミネハさんが僕の袖を掴んで引っ張る。
前方から6人ほど鎧を身に纏った集団がこっちに来る。
一番先頭の男はなんとも奇妙で楕円形の鏡面を装着していた。
鏡面に僕の顔が映り、そのまま通り過ぎる。
彼等の後ろ姿を眺めていると、ミネハさんがこそっと声を低くして言う。
「見覚えがあるんだけど」
「鏡面の男ですか?」
「あんな気味悪いのは知らないわ。あれが連れていた他の連中よ。あいつら。クーンハントの探索者よ。間違いない。何回かハイドランジアのダンジョンで見たわ」
「クーンハントが」
驚くと同時になんとも嫌な感じを覚える。
クーンハントも関わるのか。なんか嫌だな。
ちょっかい掛けてきたら叩き潰そう。
僕にとってクーンハントはゴキブリに近い。
帰りにベルク食堂に寄ってみた。
あのとき見たふたりの姿が脳裏に過ったのもある。
だが休みだった。
定休日かな。




