賭博伝説外典外伝~クイーン~ハウスオブカーズの謎①
ウチはビッド。獣人種で兎人種っス。
年齢は16歳。ぴちぴちっス。第Ⅳ級探索者やっているっス。
ソロでたまにヘルプでパーティーに入るみたいなことしているっス。
今のところパーティー加入とかはあまり考えてないっスね。
まあ、当分はこのスタンスでやっていくっスよ。
さて今、ウチは友達と貿易都市ハイゼンに来ているっス。
まあほぼ旅行気分っスね。ぶっちゃけ旅行といっても過言じゃないっス。
そんなウチは好奇心だけで、ギムネマとダガアの2匹に付いてきているっス。
いやこの魚頭とウォフのペットが何をするか興味なくないっスか?
興味あるっスよね。ありまくるっスよね。
というわけで暇潰しも兼ねて付いてきたっス。
「一応、ビッド殿はクイーンの護衛ということに」
「護衛ならギムネマさんがいるっスよ」
「いやいや、吾輩はクイーンの下僕である」
え。なんっスか。下僕とか。
「というかクイーン?」
「ナ!」
「なんでクイーンっスか」
ダガアがメスなのは知っているっスけど、クイーンってなんっスか。
するとギムネマはニヤッと笑ったっス。なんか殴りたくなる顔っスね。
いや捌きたくなる顔っスね。
そしてドンドンと進んでいく。
なんか背景が明らかに治安悪そうなんっスけど。
あそこの壁とかモロに崩れて落書きされている……視線を感じるっス。
いかにもな悪党面どもがこっち見ているっス。
「おい。クイーンだ」
「あれが?」
「シッ、目を合わせるな」
「ジンリュウの専属もゼンゼラの所属もゴウロの専門も蹴散らしたらしい」
「こえぇぇっ」
えっ、なんっスか。三大家を蹴散らした? ダガアが?
というかドンドンとヤバそうなところに向かっていっている気がするんっスけど。
あの建物とか完全に崩れているし、物陰に死体があるし、あっ生きてた。
廃墟になった教会とか見えるし、あー、スラムを思い出すっスね。
まあスラムなんてどこも同じっス。どこも変わらずどこの街にも必ずある。
比較的住みやすいハイドランジアにもあるっス。
ギムネマが立ち止まる。
そこは……あー潰れた劇場っスか。見た目は派手っスね。
その劇場に、えっと入っていったっス。
なんか扉の鍵を平気で開けたっスけど、なんで鍵を持っているっスかあの魚が頭。
劇場は―――潰れているのに妙に綺麗っスね。掃除しているみたいっス。
でもなんの為に?
エントランスホールから通路を右に進んだ先に地下へと続く階段があったっス。
劇場だから珍しくないっスけど、その階段を降りてドアをまた鍵で開けたっス。
ドアの先は部屋になっていて、えっあの緑色の光を放つのは転移陣!?
こんなところに転移陣とか明らかにおかしいっス。
まあ、おかしい度合いでいえばウォフくんの家とか隠れ家には勝てないっスけど。
転移陣に入った先は同じ間取りの個室。転移陣あるあるっスね。
ドアを開けると赤い大きな両扉と屈強な男が出迎えたっス。
ジロリとウチたちを睨む。あれは強いっスね。此処はいったい何処っスか。
「やあやあ、ご苦労さん」
ギムネマが男に何か渡したっス。符丁……コインっスか。
符丁を合わせて男は小さく言ったっス。
「通れ」
赤い両扉が開くと、そこは―――賭場だったっス。
妖しいライトに照らされた少し薄暗い空間。
でもどことなく高級感が伺える賭場っスね。
それは調度品だったり空気だったり……明らかな上流階級の客だったり。
酒を飲みながらルーレットやダイスやカードを楽しんでいるっス。
ここは街公認の秘密賭場っスね。しかも選ばられた者たちしか入れない。
「こんなところで何をするっスか」
ウチは不安になって尋ねたっス。
ギムネマは平然と答えたっス。
「見ていれば分かること。来たか」
こつちに誰か接近してきたっスね。
「やあ、魚の同志」
そう気楽に挨拶したのは黒い高級スーツが良く似合う……えっ……蟹?
カニ? えっと、なんて言っていいのか。蟹? かにっス。
その……その人物は蟹が丸々一匹、頭になっていた……っス。
蟹頭ではなく、人の身体に蟹が一匹丸々首から繋がって顔と頭になっていたっス。
何を言っているか分からないと思うっスよね。
ウチも正直、何を言っているのかよく分かっていない。
「おお、蟹の同志」
魚丸ごと一匹が頭になっているのが蟹一匹が丸ごと頭になっているのに声を掛ける。
なにこの悪夢。ウチ、クスリも何もやってないっスけど。
「クイーンもようこそ」
「ナ!」
話ながら頭の蟹の口だけじゃなく脚がワシャワシャっと動いているっス。
というかこの蟹……色合いからして。
「沢蟹っスか」
あっつい声が出てしまったっス。
蟹頭がウチを見るっス。
「ほう。分かりますかな」
「え、ええっ、よく捕って食べたっスから」
小さい頃、スラム地区からちょっと行った先が森で川が流れていたっス。
そこで魚とか蟹とか捕ってたっスね。自然油で揚げるとなかなか美味いっスよ。
調理はウチじゃなく、そういうのが得意な子が居たっス。
確か今は結婚して村で幸せに暮らしているっスよねえ。
はあ結婚。
ウチ、結婚とか正直ぜんぜん分かんないっス。
なんか色恋とかパーティー解散したのがまだトラウマで、考えられないっスね。
「なかなか豪胆な娘さんだ。初めまして。プアマンクラブという。ここのオーナーをしている」
「ビッドっス。第Ⅳ級探索者。こっちでは討伐者っスか。それやっているっス」
「ほう」
「彼女は護衛だ。腕は立つ」
「第Ⅰ級のお墨付きか」
第Ⅰ級からそう褒められると、なんでかな。あんまり嬉しくないっスね。
そういえば武器持ったまま入っているっスけど、大丈夫なんっスかね。
プアマンクラブはギムネマに言う。
「では、魚の同志。クイーンを戦いの場へ」
「ナ!」
「戦いっ!?」
ちょっといきなり何を言っているっスか。
プアマンクラブはああ、と笑う。蟹のハサミがカャカチャっと鳴る。
ちょっとウザいっスね。
「戦いといっても怪我はしない。カードだよ」
「カード?」
「そうクイーンはリーズの賭場を制覇し、更にハイゼンの賭場で資格者を倒し、
ここに入る権利を獲得した。これから挑戦権を得るための戦いが始まる」
「挑戦権?」
「チャンピオンへの挑戦権だ」
「……チャンピオン?」
「カードゲーム・ハウスオブカーズのハイゼンチャンピオンだ」
マジでなにしてんっスか。
ハウスオブカーズ。
3枚のカードで決められた手札『役』をつくって、それで勝敗を決める。
『役』をつくる方法は、①札を山から取る。②相手が捨てた札を取る。
③カードの効果を使う。
『役』は様々な種類があるっスね。
揃ったときにいつでも自分の手番じゃなくても開示が可能っス。
誰かが開示したら全員が開示することになるっス。
1ゲームは基本4ロール。
大体4ゲームで勝利数によって勝者を決めるっス。
ロールが終わったら、または山が無くなったら強制開示になるっス。
カードには『役』で使う札と、『役』に使えない札の2種類があるっス。
使えないのはレガシー。色々な効果があるカードのことっス。
手番を飛ばしたり、山から2枚引いたり。
相手の手札から1枚、こちらが選んで捨てさせたり、貰ったり。
レガシーは使うと捨て札になるっスけど、手札に加えることが出来ないっス。
ただしレガシーを捨て札から拾って使用するレガシーもあるっス。
またレガシーは自分の手番じゃなくても使うことが出来るっス。
なお手札は最大5枚まで持てるっス。
まあ、賭博では一般的に広く知られているカードゲームのひとつっスね。
探索者でも覚えられるルールでよく酒場とかでやっているっス。
たまに刃傷沙汰になることもあるっスね。
プアマンクラブに連れられて、ウチたちはワンランク違うフロアに通されたっス。
一際高い台に高そうなカードテーブルがあったっス。
既に3人座って、どいつもこいつも一癖も二癖もありそうな容姿っスね。
フォーンの男がふたり。普遍人族の女がひとりっスね。
ただエッダがカラコンしている可能性もあるっスけど、まあだからなにっスかね。
空席にクッションが置かれてダガアが座る。
全員の視線が彼女に集中し、空気が変わったっス。
まるで斬り合うときの緊張感。
ひとりずつダイスを振って、数字が高いほうからディーラーがカードを配る。
ダガアは2番目だったっス。
中央の山からカードを引いて捨てて、レガシーを使ったっス。
いきなり!?
「っ!」
「!」
「……?」
全員が反応する。
ダガアが使ったのは山からもう一枚、引く。
そして捨てる。その次の瞬間。
「ナ!」
ダガアは3枚のカードをいきなり開示した。
そこには『ペガサス』・『キマイラ』・『グリフォン』の絵柄が並んでいる。
「三幻獣っ!?」
これで三幻獣という『役』っス。
まあまあ強い。
「まさか!」
「やりますねえ」
ひとりがカードを開示すると、全員カードを開示しなければいけない。
他の3人はバラバラだった。誰も『役』が揃っていない。
つまりこのゲームはダガアの勝利っス。
「さすがクイーン」
何故かドヤ顔をするギムネマ。
プアマンクラブは頭部の蟹脚をワシャワシャさせて腕を組む。
「ほう。魚の同志。これがクイーンですか」
「いかにも。蟹の同志。これがクイーンだ」
「……」
唖然とするウチ。マジ?




