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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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300/312

貿易都市ハイゼン⑭・フェニックスの蘇生卵。

ハイヤーンのみっつのたまご。そういう童謡がある。

ここのハイヤーンは、あのエロウサギのハイヤーン本人だ。


ただ大抵のひとは、禿げのエッダの男性だと思われている。

本人は今はウサギだけど、本来の姿はメガディアさんクリソツのエッダの美女だ。

それは彼女の直系じゃないけど先祖筋だからで、メガディアさんを気の毒に思う。


その童謡に出てくるみっつのたまご。


エリクサーの神聖卵。タリスマンの永世卵。フェニックスの蘇生卵。


どれも効果はとんでもない。

エリクサーはどんな傷も癒して回復させ、アンデッドを滅する。

タリスマンは不老になる。望めばエルフもフェアリアルも超える長寿が与えられる。

そしてフェニックスは……生き返らせる。どんなモノも復活できる。


そのフェニックスの蘇生卵がいま僕の手の中にある。

なんでこんなところにこんなモノが……あるんだ?

エリクサーといい。ゴミ場に捨てていいものじゃないぞ。


いや捨てたわけじゃないだろう。持ち主が死んでここに集まった。

だけど……まさかなあ。


「……フェニックスの蘇生卵って」


僕は卵を掲げる。

金色の古代文字は光加減で赤く燃えるように映る。

それが卵全体を赤くみせていた。なるほど。フェニックスか。


「ふむふむ。ふむ。これはまたとんでもないモノを見つけてしまったねえ」

「でもこれ本物なの? エリクサーだって世界中に偽物があったけど」


確かに中身が本物だけど無限湧きしないモノも沢山ある。


「僕は本物だと思います」


エリクサーと同じ青い光。

エリクサーと似たような箱に入っていた。

根拠はそれだけだけど、僕は本物だと思う。


「ほうほう。ならば使ってみるかねえ」

「えっ、使うの?」

「でもハイヤーンは蘇らせてはいけないと言っていました」


あのハイヤーンが珍しく真面目な顔で言っていた。

それだけは印象に残っている。


「それはそれは、あのハイヤーンが言っているから間違いじゃないだろうねえ。でもねえ。蘇生。興味無いかねえ? 生き返るっていう現象、コンはとてもとても興味があるねえ。それが例え止められていても、禁じられていても、コンは一度でいいから使ってみたいねえ」


魔女はやっぱり魔女だ。

だけど僕も興味はある。


「じゃあ、やってみたら」


ミネハさんは興味無さそうに言った。


「やってみるって」

「別に人じゃなければいけないってわけじゃないでしょ。弱い魔物とか、小さい生き物か何かでやってみたら」

「まあまあ、こういうときはモルモットスライムだねえ」

「モルモット……スライム」


ネズミじゃないのか。

魔女はポーチから何か瓶を取り出す。

瓶の中には赤い液体が入っていた。


「これはこれは、死んだレッドスライムだねえ」

「なんでそんなものを持っているのよ」

「それはそれは、素材用だねえ」


絶対ウソだ。素材用にモルモットなんて付けない。

魔女は近くにあった青銅の兜を手にして、死んだレッドスライムをそこに垂らした。

ねっとりとした真っ赤な液体が兜の中を満たす。


僕はフェニックスの蘇生卵を開け、中身を一滴だけ死んだレッドスライムに落とす。

エリクサーと同じ開き方でスライムは赤く光ると動き出した。


「本当に蘇った!」

「ほうほう。生き返ったねえ」

「でも何か様子が変ですね」


レッドスライムは震えると、兜から飛び出し、魔女へと襲い掛かった。

咄嗟に前に出て籠手を構える。レッドスライムは反射して弾かれた。

そしてミネハさんが『妖星現槍』で仕留める。


「なんなの」


魔物として襲い掛かったとみれば特に不自然はない。

魔女はレッドスライムの死骸を手にして、兜に入れる。


「よしよし。ウォフ少年。もう一度だねえ」

「え?」

「ほらほら、もう一度、復活するかやってみるんだねえ」

「……わかりました」


また甦るかどうか検証するのか。

それは僕も興味があった。ミネハさんも黙って構える。

一滴、またレッドスライムの死骸に垂らす。少しして動き出した。


とりあえず10回やってみた結果、10回とも蘇った。

レッドスライムの復活した様子は全く安定しなかった。

襲ってきたり何もしなかったりと蘇生後の反応は様々だ。


実験途中でうっかりスライムのコアを壊し、蘇生してもすぐ死ぬこともあった。

エリクサーで回復してから即死は無くなった。


「ふむふむ。状態が安定しないねえ」

「襲ってきたり大人しかったり、情緒不安定ね」

「それは何度も蘇生させられたらそうなりますよ」


というか精神崩壊してもおかしくない。

魔物に精神があるかどうかわからないけど。


「ふうむふうむ。ふむ。何度も……ねえ」


魔女は腕組みして思案する。

腕を組むと魔女の胸がこれでもかと強調されて揺れ、僕は目を逸らした。


「何か引っ掛かるの?」

「うむうむ。それぞれの反応に一貫性が無い。これほど蘇生させるたびに違うのは、もうまるで別々の個体のように思えてねえ。それで思い出したんだねえ。セイホウの教え。死ぬと魂の器から魂が抜けて、魂の海に還るんだねえ」

「えっと魔女はセイホウの教えを信じているんですか」


僕は意外に思った。セイホウという宗教をこの魔女が信じているのは信じ難い。

ミネハさんは首を傾げる。


「セイホウとか、あんた。何が言いたいの?」

「それはそれは、ひょっとしたら、このフェニックスの蘇生卵は《《蘇生させるだけしか出来ないんじゃないかねえ》》」

「はあ? そんなの当たり前じゃない」

「ふむふむ。では、ウォフ少年。生き返るとは、復活するとは一般的にどう思われているかねえ。例えば愛しいひとが死んで蘇るときとかだねえ」

「奇跡としか言いようがないのでは? 良かったね。としか」


まあ嬉しいよな。

復活なんて普通はないんだから。


「うんうん。そうだねえ。愛しいひとが復活したら、その魂も当然、その愛しいひとだと思うよねえ」

「それはそうでしょう。復活ってそういうことなん」


僕はハッとする。

蘇るたびに一貫性が無いスライムの行動が浮かんだ。


それと死んだ魂は魂の海に還る―――ナイフの女神様も同じ事を言っていた。

つまりセイホウの教えはこの世界の真実だ。


蘇るということは、つまり魂の海から魂を持ってきている。

ただしスライムのあまりに不安定な行動から考えると。


「蘇生した肉体に入る魂はランダム?」

「え」

「魂の海からランダムで引っ張ってきているのかな」

「ほうほう。なるほどねえ」

「ちょっとそれって、生き返らせても元の持ち主に会えないってことじゃない!」


ミネハさんは思わず叫んだ。

そう。そうなる。復活しても本人には会えない。


「うむうむ。おそらくそうなるねえ。つまり蘇生は確かに出来る。フェニックスの蘇生卵には、その力があるんだねえ。それは魂の海から魂を持ってくるチカラ。ただしその魂は本人とは限らない……ということかねえ」

「ほ、本当にそうなの?」


おそる尋ねるミネハさんに対し、意地悪っぽい含み笑いを魔女は浮かべた。


「さあてさあて、どうだがねえ。これはあくまで推論。机上の空論。実証するには、そうだねえ。分かりやすく人間で蘇生実験をやってみないと分からないねえ」

「そんなこと、できるわけないじゃないっ!」

「だからだから、それ以外に確かめようがないんだねえ」

「…………」


生き返らせても中身は別人———実験する以外に確かめようがない。

だけどさすがにその為だけに人を殺めるのは僕も躊躇う。


僕はたくさん人を殺してきた。大量殺人者だ。魔物と同じぐらい殺してきた。

だけどそんな僕にも一定の線引きがある。

殺すのは襲って来たり皆を傷付けたりする悪意ある者だけだ。


しかし例え悪意ある者でも実験の為に殺すのは線引きから外れている。

それに蘇生した後、別人でも別人じゃなくても蘇らせた責任があると思う。

それを僕は負えないし、また殺すのも…………やっぱり無理だ。


でも僕は確信していた。生き返らせても別人になるのは間違いないだろう。

特定の魂だけサルベージするチカラはフェニックスの蘇生卵には無い。


そう確信する理由はナイフの女神様の話だ。

死んで『魂の器』から離れた魂は大いなる魂の海に還る。

また魂の海から魂は流れていく。つまり誕生だ。


それは前世の記憶でいう。輪廻転生の概念だ。

あるいは異世界転生かも知れない。

だからもし転生していたらその魂をもってくるのは不可能だ。


フェニックスの蘇生卵を使えば生き返らせることができる。

それは魂の海から魂を持ってくるチカラがあるということだ。


ただし特定の魂を持ってくることは出来ない。

魂の海から持ってくる魂はランダムになる。


生き返らせたらそれはまるっきり別人ということになる。

ただ、たまたまサルベージした魂が本人という可能性もある。

しかしそれは広大な砂漠の中で特定の砂を偶然見つけるのと同じぐらいの可能性だ。


だからハイヤーンは蘇らせてはいけないと言ったんだ。

それはそうだ。こんなの復活とは言えない。


「さてさて、そろそろ地上に戻ろうかねえ」

「そうね。なんだか疲れたわ」

「あ、あの、魔女。これはどうします?」


フェニックスの蘇生卵を見せる。

魔女はあっさりと言った。


「それはそれは、ウォフ少年に任せるねえ」

「えっとでも僕はエリクサーを既に持ってますよ」

「だったらいいじゃない。1個が2個に増えても同じよ」


ミネハさんも無責任な事を言う。

僕に押し付けるつもりだ。


「同じじゃないですよっ」

「でもでも、でもねえ。今のところ一番安全なのはウォフ少年のポーチだからねえ」

「それは魔女も同じでは?」


同じくらい、いいや僕以上に安全なのは魔女に渡すことだと思う。

すると魔女はニヤニヤっと小悪魔的な微笑みを僕に向けた。変に色っぽい。


「おやおや、コンに持たせて本当にいいのかねえ。コンは好奇心旺盛な女だよ。伊達に魔女と呼ばれていない。フェニックスの蘇生卵という禁断の果実の味を知ったら、コンはどうにかなってしまうかも知れないねえ」

「うっ、そ、それは……」


なんというとんでもない脅しだ。でも否定できない。

魔女はフェニックスの蘇生卵できっと何かしてしまう。


それが危険で禁止されていても、ついやってしまう。

魔女はそういうひとだ。僕はミネハさんを見る。


「アタシ? アタシは悔しいけどこの中で一番弱いわ。そして一番……その卵に興味が無いの。重要性は理解しているけど、正直捨ててもいいと思っているわ。全く興味が無いからこれがなんなのか忘れてうっかり捨ててもおかしくない。そういうことってあるわよね。でもこれに関しては、それは良くない。というわけであんたが持っていなさい」


ハッキリと言われてしまった。

全く興味無いから忘れて雑に扱うのはある。

僕にとって剣がそうだ。


最近はナイフも大量に手に入るからそうなってしまっている。

だからミネハさんの気持ちは分かる。


彼女はきっと忘れる。どこかで捨ててしまうだろう。

ミネハさんはそういうひとだ。


「……はあ、わかりました」


仕方なくフェニックスの蘇生卵を僕はポーチに仕舞った。

はあぁ、気が重い。


だけどこれでフルムーンバザーに備えることは出来たから、それは良かった。

レリックが進化して更に使いやすくなったのは素直に嬉しい。

それだけでも良しとしよう。


僕達はゴミ場を後にした。






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