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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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297/312

貿易都市ハイゼン⑫・ベルク食堂②

「はーい。お待ちどーさま」


サマーニヤさんが『ケルベロスターン』のテーブルに料理を置いていく。


「ちなみに雷撃の牙のレルはあたしの兄です。ごゆっくりー」


そう悪戯っぽく言って厨房へ戻る。

思わず彼女を視線で追う3人。


「ビックリした」

「マジか……」

「世の中って狭いのね」


僕もそう思う。

もう少し待つとこっちにも料理が来た。


食べながら『ケルベロスターン』の話を聞く。

彼等は昨日ハイゼンに着いた。


そしてギルドに行って往復したらフルムーンバザーが終わることを知った。

これにはフルムーンバザーを諦めるかどうか話し合って悩んだらしい。

稼がなくても10日間ほど滞在できる資金はあるが、それでも稼ぎたい。


「ただフルムーンバザーは武器や防具の掘り出し物が多いと聞いていて」

「武器に不安が?」


ナベルさんの持っている『ウルフェンの剣』はオーパーツだ。

特殊な金属で出来ていて専用レリックがある。


「不安は無いんですけど、予備に持っていたほうがいいかなと。『ウルフェンの剣』は先祖代々の家宝で信頼はしているんです。だけど、なにが起きるか分からないじゃないですか」

「確かに」


僕もナイフを折りまくっているから予備が欲しいのは理解できる。


「俺はもうちょっと強い槍が欲しい。今の俺の槍。風のレリックの威力がちょっとだけ上がるっていうのは、これから昇級していくのを考えると弱い気がする」


なるほど。


「そうねぇ。わっちは杖は気に入っているけど、ローブがね。オーパーツでもレジェンダリーでもいいから、オシャレで良いものが欲しいわ」

「わがままじゃね」

「なによ」

「でも分かるっス。フルムーンバザーならあるって思うっスよね」


そこで癖のあるハムサンドイッチを食べながら僕は疑問を吐露した。


「フルムーンバザーってどこで開催されるんです?」


最初は街中でやると思った。

でもフルムーンバザーは千を超える露天商が出店する。


そんな広場があるなら、そこは観光名所になっているはずだ。

だけど聞いたことがない。それならどこで開催されるんだ?



「フルムーンバザーは、ハイゼンの外。ハイゼン平原で行われる。ハイゼンの端から端まで露店のテントが並び、移動宮殿が現れる」


僕の疑問にコランさんが答えた。

海鮮パスタをフォークで巻きながら。


「移動……宮殿?」

「フルムーンバザーはハイゼン平原で半円形に展開して3層になっている。下層エリア。中層エリア。そして上層エリアだ。上層はいわゆるVIPエリア。下層と中層は普通に行き来できる。だがVIPエリアは限られた者しか立ち入る事が出来ない」

「それが移動宮殿なの?」

「そうだ」


限られた者は言わなくても分かる。

どうせ三大家とか王侯貴族とかそういうのだろう。

しかしそうなっていたのか。


「詳しいっスね」

「俺はここ出身だからな。それに幼少の頃……VIPエリアに侵入して捕まり即処刑された盗人のことを今でも忘れられなくてな……」

「コランさん……」

「えと即処刑って、そんなの許されるんですか?」


通常は衛兵が捕縛。牢に入れ、それから裁判を行う。

その結果次第で監獄大陸に送るという流れだ。

コランさんは含み笑いをする。


「ウォフさん。ここはハイゼンだ。ハイドランジアじゃない。三大家が支配者で法律で正義だ」

「まっそんな感じっスよね」


先程の出来事を思い出したのか、ビッドさんが不機嫌になる。

まぁそんな感じだよなっていうのは僕も感じた。


郷に入っては郷に従えっていうけど、これは従いたくないなあ。

悪いけど相手が三大家でも場合によっては相手になるなら容赦はしない。


もちろん。自分はなんでも出来るなんて思ってはいない。

三大家を潰すこともハイゼンを火の海にすることも出来るとは断言しない。


ただそうなった場合でも負けるつもりはない。

ひたすら精一杯全力でやって一矢報いてやる。

それにしても即処刑って、どんなモノが売っているんだ。VIPエリア。


「ねえ。思ったんだけど、あの魔女なら入る資格あるんじゃない?」


プランシーさんがジャガイモのとろとろスープをスプーンで掻き混ぜながら言う。

猫舌なのかな。


「あーありそうだ」

「確かに……魔女なら」

「その辺どうなんっスか。ウォフくん」

「うーん。どうなんでしょう。聞いてみます」


魔女がゼンゼラ家と親しい間柄なら資格はあるはず。

もしかしたらVIPエリアでミネハさんの『スピアー』を探せるかも知れない。


フルムーンバザーの話はこれで終わり、フォレストウェーブの話になる。

どれだけ稼げるかの一般的なところから、『キズモノ』の話題に入る。


「なんであんなに賞金額が高いんですか」

「イラストのバッテンの大きな傷あるだろ。あれをつけたのは『剣の剣』だ」

「———仕留め損なったっスか」

「そんな魔物がいるなんて」

「だからあの賞金額か。納得したわ」


『剣の剣』が倒せていない魔物。そんなのがいるなんて。


「それぐらい強い。だが『キズモノ』が本当にヤバイのは強さじゃない。あれが持つレリックが一番ヤバイ。そのレリックはレリックを消すレリックだ」

「レリックを消す?」

「ああ、所持者からレリックを完全に消す。そういうレリックを持っている」

「効果じゃなくそのものっスか……!?」

「そんな魔物がいるなんて」

「だからあの賞金額か。納得したわ」


なんかさっき聞いたような。


「実は『キズモノ』と戦って生き残ったヤツは多い。だが大半は辞めた。レリックを消されたからだ」


一般的にレリックが無ければ探索者で非ずとされている。

それは討伐者でも同じか。


「それでも、あんな賞金をつけて、どうして狙っているっスか」

「危険だから早く排除したいから、かしらね」

「ああ、それは『キズモノ』を倒すと、ヤツのレリックが手に入るからだ」

「それってレリックを消すレリックですか」

「そう言われているが、まあどうかな」

「…………」


あまり知られていないが、レリックを移すプレートがある。

それを使えば可能かも知れない。


「なんかさっきから外が騒がしいな」

「悲鳴とか聞こえるっスね」


ちょっと前から外が妙にやかましい。

何が起きているんだ? 


「ねえ、コラン。よくあるの?」

「喧嘩とかは、あるだろ。ハイドランジアより治安悪いからな」

「物騒ですね」


だったら気にしなくてもいいか。

騒ぎが終わる頃、先にナベルさんたちが食べ終わった。


東の市場をちょっと回ってみるらしい。

泊っている宿も教えてもらう。


「ふぅ、ごちそうさまっス」

「ごちそうさま」


ビッドさん。あれだけ山盛りの肉、よく完食できたな。

お金を払おうと立ち上がったとき、厨房から女性が出てきた。


背が高く黒髪に金のメッシュ。褐色の肌で羊の角と尻尾が目立つ。

羊人種か。僕達を見る。


「あなたたち。話が聞こえていたけど、ホッスの知り合い?」

「はい。ホッスさんと今は一緒に行動しています」

「知り合いっスよ」


彼女は暗い表情を一瞬だけ見せてから、ニコッと笑う。


「ホッスに伝えて。もういいからって、会えてそれで充分だから」

「……分かりました」

「わかったっス」

「ありがとうね」


フッと、どこか淡く微笑む。

それは僕には何もかも諦めたように見えた。


ハッキリと何かあるのは分かる。

だからといって不用意に踏み込むことはしない。


ビッドさんも何か言いたそうだが、特に何も言わなかった。

僕達はベルク食堂を出た。

外はあれだけ騒がしかったのに何も無かった。





































なんで、なんで?

なんでこの神たる偉大な剣の女神の娘が、くだらないおつかいに駆り出されるのよ。

はあ、しょっぽい食堂の小娘を連れて来いとか、しかも雑魚を連れてなんて。


舐めてんの? 殺すよ。言っておくけどグェネが止めて無かったら殺してたから。

目的の為に我慢しているけど、何人か殺しても別にいいよね。


裏切者のギィーザがいなければ、あの鏡の顔の男がいなければ!

こんな地べた這いずっている虫どもの協力なんて必要なかった。


おまけに誰なのよ。ヴィヌを破壊したヤツ。

防壁のあいつを破壊できるとか、それもう全ての娘たち破壊できるじゃん。


はぁ……人化して好き勝手に自由に生きたいだけ。

それなのにどうしてこんな苦労してんの?


せっかくあの研究所とかいうのから抜け出せたのに。


「ベルク食堂。ここね。きったない店ね。いかにも底辺が集うようなところ。それで誰を連れてくるの?」

「へい。ルマです」

「じゃあ、とっとと連れて行くわよ」

「へ、へい」


はぁー、ほんと、なんでこんなくだらない。


「なんだ。あれ。地面に黒い染み?」

「黒い……あんなの地面にあったか?」

「いや、さっき見たとき何も無かったぞ」

「なによ」


うっさいわね。この虫ども。

権能レリック【鋭利】でバラバラにしてやろうかしら。


「うわあああああああぁっっ」

「ぎゃあああぁぁぁっっっっ」

「ぐああああああぁぁっっ」


な、なに? いきなり醜い悲鳴が―――いない?

あいつらがいなくなっている。

 

「どうなっているの? まぁ虫けらがどうなろうがどうでもいいけど」


黒い染みって、《《そんなもの無いじゃない》》。

黒くあるのは足元よね。


「足元?」


足元の地面って黒かったっけ?

瞬間———目を見開いて後ろに飛び下がる。


下がった直後、黒い染みから、なによあれ。蛸? 蛸の触手?

何故か分からないけど巨大な4本の蛸の触手が湧いて出てきた。


「なになにっ、どうなって!?」


一瞬で触手が身体に纏わりついた。速過ぎるっっ!?

ワタクシを……ルゥベ()を抜く暇が……ちょっと、やめて離してっ!


触手が、汚らわしい蛸の触手がルゥベ()に絡まった。

ギュっと締めるとルゥベ()にヒビが入った。


え? あっ―――死ぬ。


嘘でしょ。こんなところで人化できず、こんなわけがわからないことで死ぬとか。


ほんと、わけがわからない。






















同時刻。ゼンゼラ家本邸。テラス。

ギィーザの入れたお茶を飲んでゆっくりとしていた。


「あ……今、消えた……」


ギィーザがぴくんっと反応する。


「なにがなの?」

「剣の女神の娘。3体のうち1体だろう。消えたのを感じた」

「仕事早くない?」


セィランは感心半分で呆れた。




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