貿易都市ハイゼン⑪・ゴウロ討伐隊のアラヤ。
エルフの青年だった。
金髪で深い緑の瞳。右目に片眼鏡を着けている。
エルフだからとうぜん美形だ。それも線の細い印象を受ける美青年だ。
服装は白い上着に黒いズボン。格式高い感じはあるけど、普通の格好。
武装もしていない。細い紐みたいなベルトにはポーチがあった。
「アラヤさんっ、助けてください! こいつらが急に襲ってきて!」
「襲ってきたのはそっちっス!」
往生際の悪い大柄の男にムッとするビッドさん。
助けを求められると、アラヤと呼ばれたエルフの青年は溜息混じりに言った。
「どういうことかな」
「どうもこうもないっスね。なんっスかこいつら」
ビッドさんがイライラとアラヤを軽く睨む。
「ゴウロ討伐隊だ」
「それは聞いたっス」
「彼等がメンバーなのは間違いないですか」
「間違いではない」
嘘じゃなかったんだな。
僕は呆れたように尋ねる。
「ゴウロ討伐隊って盗賊団ですか」
「違う。討伐者のクランだ」
「妙ですね。彼は僕に金も装備も女も」
「嘘だぁっっ!! そんなこと俺は言っ」
大柄の男は黙った。ビッドさんが彼の首に刃を立てたからだ。
首筋から血が垂れる。
「黙るっスよ……」
「ぐっ」
「続けてもいいですか」
「ああ、どうぞ」
仲間が命の危機に瀕しているのに彼は咎めようともしなかった。
「彼は僕に金も装備も女も家も差し出せと言いました。拒否した結果がこれです」
「……家とは?」
「叔父の家です」
「ふむ」
アラヤは片眼鏡をクイっとあげた。
ビッドさんが冷たく言う。
「それでゴウロ討伐隊は魔女とやりあうつもりっスか」
「魔女? あの魔女か。来ているのは知っている」
その可能性は実は考えていた。
やっぱり把握されていたんだな。
「ええ、僕は魔女の弟子です」
「ふむ。ならばウォフ?」
「そうです」
「……証拠は?」
アラヤの瞳に疑惑の光が宿る。2メートルとか思っているんだろうなあ。
僕は堂々と言った。
「本拠地を教えてもらえますか。明日でも魔女と一緒にそちらへ挨拶に伺います」
「…………ああ、いや結構だ。ゼンゼラ家と事を構えるつもりはない。もちろん。魔女とも敵対するつもりは全くない」
ゼンゼラ? 三大家の?
どういうことだろう。
「それではどうしますか」
「そうだな。【カット】」
突然、大柄の男の身体に深い切り傷が入る。
レリックか。ビッドさんは飛び下がる。男は即死だった。
「……証拠隠滅ですか」
警戒する。アルヴェルドと同じ視線で使うタイプか。厄介だな。
『青聖の籠手』で反射できるか。するとアラヤは小さく首を振った。
「いいや。今回の件は全てザゴオの隊の独断だ。言っただろう。こちらはゼンゼラにも魔女にも敵対するつもりはない。妙な動きをしているとは思った。こいつらは本来、ハイゼン大森林の討伐補佐任務に付いているはずだ。こんなところに居るのはおかしい」
「その口ぶりだと偶然、通り掛かったわけじゃないっスね」
マークしていたってことか。
「すまなかった」
アラヤは頭を下げる。
その意外な姿勢に僕とビッドさんは面食らった。
「どういうことっスか」
「末端の末端とはいえ、我がクランが迷惑をかけた。お詫びというわけではないが、こいつらの装備と金は差し上げよう」
それで手打ちってことか。まあ別にいいけど。
装備か。僕は【フォーチューンの輪】を使った。何も反応が無い。
あっまだ使えないか。不便だな。
ビッドさんが僕に聞いてきた。
「どうするっス」
「お金だけでいいと思います」
ナイフは、もう一杯だから今回はいいや。
「そうっスね。じゃあ、うちらは金だけ貰うっス」
「それでは少し待て―――」
アラヤはパチっと指を鳴らす。
周辺から黒装束が数人ほどゾロゾロといきなり現れた。
「……!?」
「なんっスか!?」
数人の黒装束は無言でテキパキっと死体を片付けていく。
袋の中に入れていく。
彼等は前世の記憶でいう忍者みたいな恰好だ。
たぶん用途もそうなんだろう。
黒装束のひとりが彼等のお金を集めて僕に渡した。
「ど、どうも」
「……」
黒装束は用が済むと解散した。
「大事な時期だ。こちらとしてもあまり騒動を起こしたくはない」
「同感です」
「下っ端の下っ端でもちゃんと手綱を締めて欲しいっス」
「すまない。今後はこのような事が無いように引き締めよう」
それでは、これにて。そうアラヤは立ち去った。
僕たちは彼の背中が消えるまで睨み続けて警戒心を持ち続けた。
彼がいなくなってホッとする。もう東の市場に行く気分じゃ無くなった。
妙に疲れて腹が減ったので、ベルク食堂には行くことにした。
食堂に行く間、ビッドさんはずっと怒って愚痴ってばっかだった。
僕は黙って聞いて考える。
魔女の古い知り合いというのは、ゼンゼラ家のことなのか。
もしそうなら、この叔父さんからの手紙を届けられるかも知れない。
ベルク食堂に着く。
ドアを開けるとベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」
レルさんの妹。サマーニヤさんが元気良く声を掛けた。
客はまばら。前よりは多いかな。座るのはテーブル席にしよう。
テーブル席に対面で座り、僕たちは注文する。
ビッドさんは香草焼き肉盛り定食。僕は5種のサンドイッチセット。
「ウォフくん。あんま食わないっスね」
「ビッドさんは食べるんですね」
「怒りのやけ喰いっス」
よっぽど頭にきているなあ。
少しでも怒りを鎮める為、ここは僕が奢りますという。
「あれ、ウォフさん?」
急に名前を呼ばれ、振り返る。
すぐ傍のテーブル席に居たのは、狼耳と尻尾をした黒髪の少年だ。
「ナベルさん?」
少年といっても僕より年上の16歳。
「ホントだ。ウォフさんだ」
「こんちはー」
緑髪の青年のコランさんが反応して、エルフの女性のプランシーさんが挨拶する。
間違いない。『ケルベロスターン』だ。
「お久しぶりです」
「ご無沙汰してます」
僕とナベルさんは、ほぼ同時に頭を下げた。
『ケルベロスターン』は第Ⅳ級探索者で3人組のパーティーだ。
ナベルさんがリーダーを務める。
彼等との縁は奇縁だ。
ハイドランジアのダンジョンで助けて、僕の噂をどうにかするように頼んだ。
しかしうまくいかず、失敗して僕の噂は膨れ上がった。
そしてついに噂を食べる魔物ヘルフトゥを呼び寄せてしまう。
あれを倒すのは苦労した。
「『ケルベロスターン』っスか?」
「ど、どうも。ビッドさん」
「あれ、ビッドさんだ」
「ウォフさんと一緒……?」
おやビッドさんとも知り合いだったのか。
同じ第Ⅳ級だからかな。
「3人とも、どうしたっスか」
「金を稼ぎにきましたっ!」
コランさんが勢いよく言う。
それにナベルさんが微苦笑した。
「ちょっと力試しに来ました」
「ああ、フォレストウェーブっスね」
「それとフルムーンバザーも体験してみたくて、ふたりもそうですか?」
プランシーさんが興味津々みたいな感じで尋ねる。
「まぁ、そんなところっス」
「ふたり、知り合いだったんだ」
「まぁ、色々とあったっス」
「僕達だけじゃなく、魔女やミネハさんやホッスさんも居ますよ」
「ホッスって、雷撃の牙の?」
「ミネハさんって確か母親が第Ⅰ級のフェアリアルで、色々と凄いっていう」
「魔女!? あの魔女がハイゼンに!?」
なんか驚かれているなぁ。
そういえば雷撃の牙も第Ⅳ級だったっけ。
ミネハさんは第Ⅲ級でしかも目立つからなあ。
魔女は……まあ、うん。はい。




