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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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293/315

貿易都市ハイゼン⑧・ホッスとルマ①

貿易都市ハイゼン。ベルク食堂。

今は『準備中』になっているだ。


オラは無人のテーブル席に座って、グラスに入った酒を眺めていた。

エールという気分じゃなかっただ。ふいにグラスに人影が入り、顔を上げる。


「久しぶり」


腰元までゆるやかなに流れる黒髪と白い羊の角。

褐色の肌で軽装に青いエブロンをして、先端が白い羊の尻尾が揺れていた。

獣人の羊人種だ。


背が高く、相も変わらない抜群の体型で今も鍛えているのが分かるだ。

唇の右下にホクロがあって妙な艶やかさがあるのも変わらないだ。


「久しいだ。ルマ」

「うん」


ルマはやや潤んだ薄緑色の瞳でオラを見つめる。


「元気だったか」

「なんとかね。となり、いい?」

「あ、ああ」


オラの向かい側に座る。


「実はね。色々知っていたの。ほらうちのお手伝いしている子のお兄さんと一緒に探索者やっているって」

「ああ、パーティー組んでるだ」


タサンだって言っていないみたいだ。

ルマは安堵の息を吐く。


「……良かった。あのとき《《レリックを失ってから》》、ハイゼンを去ってからどうしたのか心配していたの……」


ルマは目を軽く閉じた。

オラは答える。


「なんとか探索者やっているだ。オラにはそれしかねえべ」

「ホッス…………やっぱりフォレストウェーブに参加するの……?」

「それは分かんねえだ。オラは今回、付き添いと料理人として来ただ」

「雷撃の牙じゃないの」

「今はソロだ」

「あら、そうなの」

「んだ。ルマは今も討伐者やってんだ?」

「相変わらずよ。依頼を受けたり助っ人に他のパーティーに入ったり、それ以外は食堂ほやっているわ」

「今年のフォレストウェーブはどうすんだ?」


ルマは髪を指でクルクルと巻いて弄る。


「迷っている。去年も出てないの」

「そうなんだべ」

「うん。ねえ、今も料理しているなら久しぶりに食べたいな。ホッスの料理」


急に誤魔化すように言う。


「いいけんど、なにが食べたいんだ」

「ホッスの故郷の料理。ほらポテトのスープ」

「あんなんでいいんだべ?」


ポテトと塩と胡椒だけのスープだべ。


「あれが好き」


ふふっとルマは微笑む。

ホッスは頭を軽くかいた。昔から彼女は苦手だべ。

女が苦手になったのも彼女からだ。


「厨房借りるべ」

「うん。案内するよ」


ベルク食堂の厨房に入るのはどんくらいぶりだべ。

鍋に水を入れて大量の皮を剥いたポテトとネギを丸ごと投下。

後はひたすら煮込む。


ルマはキュウリを切って白と黒のパン豆を半分に切って白と黒で合わせる。

それからツナとマスタードの瓶を開けた。


白と黒のパン豆にマスタードを厚めに塗ってツナとキュウリを挟む。

そして白と黒のパン豆をまた切った。今度は三角になるようにする。


「ツナキュウリサンド……」


ルマの得意料理。


「ホッス。好きだったよね」

「好きというか、ただ安かったから食べていたんだ」

「アハッ、あの頃はお金無くて大変だったね」

「でも楽しかっただ……」


若かった。がむしゃらに討伐者として夢中だっただ。


「そうね。ねえ、いまホッスは付き合っているひとがいるの?」


急にぶっこんできて吃驚しただ。

思わず掻き回すお玉を落としてしまったべ。


オラは驚きながら、微かに頬を朱に染めるルマを見るだ。


「な、何を言うだ。オラには居ないべ」

「そっか」

「そ、そういうルマはどうなんだ? 彼氏とか居るんだべ」

「……あー……実は―――結婚することになっているんだ」

「え。あ、ああ、そ、それは、めでたいべ」


な、なるほどだ。

あれから随分と経っただ。


「相手は……バァロウ。バァロウ=ジンリュウ」

「ジンリュウって……大物だべな……」


今までずっと独身だったのがむしろ変だったべ。

年齢的に結婚するっていうのは、むしろ遅かったという。


「うん。フォレストウェーブが終わった後に結婚するの」

「ああ、だから参加するのは控えているんだべな」

「うん。まぁそういう……ね」

「そういう事情なら仕方がないだ」

「ちなみにね。第9夫人になるんだ」

「えっ、あ、ああ、そういう」

「妾に近いんだ」

「…………そ、それでも好きなら」

「好きじゃない」

「……へ?」


淡々と突き刺さるようなルマの声だった。

ハッとしてルマは取り繕う。


「…………ご、ごめんね。ごめん。あの、本当にごめんね。こんなこと言うつもりじゃなくて、ホッスを困らせたいわけじゃなくて、その、あの、久しぶりに会ったから、つい……き、気にしなくていいから!」

「……なんで好きでも」

「あはははっ、いや、あははははっっっっ」


誤魔化すように必死に笑うルマ。

それから本当になんでも無いと何回も言われた。


それとスープも、もういいから。ちょっと用事があって。

そんな取って付けたような感じで、オラはベルク食堂を追い出された。


「……なして好きでもなく……」


オラはどうしようもなく呟くしかなかった。
































ゼンゼラ家本邸。4階。当主執務室。


「……———魔女。丁度良いというのもなんだけど、ちょっと手伝って欲しいというか依頼があるの」

「ほうほう。依頼ねえ」

「ジンリュウ家の次期頭首のバァロウのことよ」

「おやおや、そいつは、おかしいねえ。ジンリュウ家の次期頭首は長男のジンギじゃ無かったのかねえ? あの赤龍はどうしたのかねえ」

「先月、死んだの」

「ほうほう。ほう。あれがねえ。それは初耳だねえ。うんうん。とても興味が出てきたねえ。バァロウ? あー、コンの記憶だと、確かジンリュウ家の三男だったはずだねえ。次男のガラド。あの勇猛な若者はどうしたのかねえ」

「先月から行方が分からないの」

「ふむふむ。それはまた……臭いねえ」


魔女はどこかつまらなそうに言う。

セィランも似た心情だった。


「楽しそうにする話じゃないんだけど、バファロウはまず奥さんが8人居るの」

「まあ、まあ、そういうのも居るから別に驚くことじゃないねえ」

「その8人はつい最近、《《補充された8人》》なのよ」

「それはそれは、どういうことか説明してくれるかねえ」

「バァロウはジンギの所為もあるけど目立たない人物だったから彼が今まで何をしていたのか。何をしているのか。特に興味もないから調べていなかったの。でも急に表に出て来た。しかも不自然なカタチで、だから調べたの。それで分かったことは、彼には……疑いというレベルだけれど……毎年起きている誘拐と行方不明事件に関わっている可能性があるの。更に奥方が8人いた。でも何故か8人とも表に出ていない。深く探ったらここ数年で彼との結婚話がいくつもあった。しかもその条件がどれも酷い。傷害。脅迫。殺害。強盗。一番多いのは借金ね」

「ふむふむ。補充といったけど、それじゃあ前の8人は一体どうしたのかねえ」

「わからないの。ただ、おかしなことにジンリュウ家に潜入していたうちの密偵が、補充された8人の奥方の中に入っていたの……」

「ほおほお、それはまたなんとも奇妙な話だねえ。それとコンへの依頼はどう結びつくのかねえ」

「バァロウを消すのを手伝ってほしいの。あれは頭首にしてはいけない」

「なるほどなるほど、ねえ。確かに聞く限りだとそうだけどねえ。ひとつ気になることがあるねえ。ジンギは、あの赤龍は本当に死んだのかねえ。死体は?」

「見つかっていないわ。ただハイゼン大森林の奥へ向かったの。そして戻ってきていない。そういうことなの、わかるでしょう」

「ふうむふうむ。ああ、ところで、バァロウは急に動き出したように見えるねえ」

「そこはポンも不審に思って疑っているの」

「それならそれなら、ひとつ調べて欲しいねえ。妙な剣をバァロウが手に入れたかどうか、ちょっと知りたいねえ」

「妙な剣……それって剣の女神の娘のことなの?」


何気ないセィランの発言。

魔女は薄っすらと口の端を歪めた。


そしてセィランは呼び鈴を鳴らす。

ひとりの執事が入ってきた。

先程、茶器と紅茶を持ってきた執事だ。


「お呼びですか。セィランお嬢様」

「紹介するわ。女神の剣の娘。ギィーザよ」


紹介されると執事……ギィーザは丁寧に頭を下げた。


「始めまして。女神の剣の欠片。『忠誠』のギィーザという」


さすがの魔女も面食らう。

セィランはお茶を飲んでから言う。


「知っているなら、ちょうどいいの。魔女。このハイゼンに潜んでいる三つの醜悪。他の剣の女神の娘を壊すのも手伝って欲しいの」

「それはそれは、またまた、次から次へとだねえ」


魔女は退屈しないねえと意味深な含み笑いを浮かべた。





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