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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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290/315

貿易都市ハイゼン⑤・討伐者ギルド。

貿易都市ハイゼンは陸路では辿り着けない陸の孤島だ。

ハイゼンの外にはハイゼン平原がある。


平原には砦や防壁の跡があり、それらを利用した討伐村が点在している。

その平原の先に拡がっているのがハイゼン大森林。

貿易都市から徒歩で直進すると4日ぐらいの距離にある。日帰りは無理だ。


「だから討伐村に泊ってから大森林に入るのが大体だべ。あと村といっても村人がいるとかじゃねえだ。討伐者の為の野営地みたいな感じで雑貨屋と宿屋と酒場が数軒だけでギルド職員と三大家御用達の商人と衛兵隊が常駐しているだけだ。それと『フォレストウェーブ』んときは最前線になるところだ」

「『フォレストウェーブ』……ですか」


聞いたことがある。

毎年、夏になると大森林からダンジョンの魔物が溢れて大群となる。

そしてハイゼンへと襲来してくる。それが『フォレストウェーブ』だ。


前世の記憶だと、まんまスタンピードだな。

ただ『フォレストウェーブ』は全部で3段階になっている。


1回目がファーストウェーブ。2回目がセカンドウェーブ。

そして3回目がラストウェーブだ。


回数ごとに魔物の数だけではなく質も上がっていくから厄介極まりない。

しかも1回目~3回目は不定期で3日で終わったり1週間かかることもある。


この『フォレストウェーブ』の原因は分かっていない。


そもそもこの現象が起きているのはハイゼンだけだ。

他のダンジョンでは起きていない。


ハイゼンも黙ってはいない。色々と対策はしてきた。だがどれも失策する。

例えば発生予定の1週間前に魔物を狩り尽くしても効果なし。


数年掛かりで平原の端から端まで防壁を建造しても今は跡として残るだけ。

それを活用して討伐村が点在するわけだが……現状は発生後の襲来を防ぐしかない。


ただある面では行事というか一種の名物祭的な感覚になっていた。

というのも『フォレストウェーブ』は儲かる。

だから夏になるとハイゼンには大陸や海外から探索者が集まり『討伐者』となる。


「死ぬけど一攫千金のチャンスが一番あるって言われてるっスね」

「実際に1回の『フォレストウェーブ』で家を建てたヤツもいるべ」

「とある凄腕の探索者は『フォレストウェーブ』で稼いだら来年まで遊んで暮らし、また『フォレストウェーブ』で稼ぐみたいなことしているらしいわよ」

「それはそれで羨ましい」


それって理想の生活では? 

そんなことを思ったら、なまけものめ。とミネハさんにデコピンされた。

いててっ。


そう『フォレストウェーブ』は死ぬけど儲かる。

まず参加報酬。それと討伐した魔物の質や量によって追加報酬が貰える。

また倒した魔物の素材も割り増しで買い取ってくれる。


その買い取った素材は商会を通じて大陸や海外に取引される。

量と質があり倍以上でもどんどん捌けていく。

結果ハイゼンは支払った金額以上を手にする。


『フォレストウェーブ』に呑まれたらハイゼンは終わりだ。

しかしハイゼンの経済の一端を担う重要行事でもあった。


「儲かるは儲かるだ。ただ『フォレストウェーブ』は探索者の昇級ポイントにはならないだ」

「そうなんですか」

「探索していないっていうのが理由だども」

「昇級試練に魔物討伐があるんだけど?」

「変な話っスね」


妙だけど、なんとなく予想できる。


「探索者ギルドはハイゼンの『討伐者』を認めていない感じですか」

「まっそういうことだべ」

「ハイゼン大森林は間違いなくダンジョンよね」


例の森と同じ地上にダンジョンの現象が発生したタイプだ。

そしてその遺品が隠れ家のゴミ場に送られている。


「おそらく『討伐者』というのが気に食わないんだ。それにハイゼンの『討伐者』ギルドも探索者ギルドを嫌っていて、いわゆる犬猿の仲ってヤツだ」

「だけど同じなんでしょ。名前が違っても引き継ぎが出来る時点で」


そうミネハさんの指摘通り、名前が違っていても登録の引継ぎは出来る。

つまりハイドランジアで作った口座もちゃんと使える。

また『フォレストウェーブ』は昇級の足しにならないだけで普段はなっている。


「そだべな」

「やっぱり変な話っスよね」

「変な話ですよね」


しかしよくある話でもある。単なる意地の張り合いだよなあ。


「そういえば、今のグランドギルドのギルドマスターも若い頃は毎年のように『フォレストウェーブ』に参加して、そんときの魔物の角がギルドマスターの執務室に飾られている。そんな噂を聞いたことあるだ」

「へえー、やんちゃしていたのね。しそうだけどあの性格は」

「ウチ知っているっス。そういうの黒歴史というっス」


それ違う。いや違わないか。

ハイドランジアの棲み家の見張り塔の石碑は間違いなく黒歴史だけど。

色々なところでアルハザード=アブラミリンの若い頃の痕跡が見つかりそうだ。


雑談していると目的地に到着。

探索者じゃなく『討伐者』ギルドは……実に個性的な三階建ての建物だった。


「これはまた変わった趣ある建物ね」

「どっかのダンジョンで見たことあるっス」

「これは山徒地方の建物だべな」


見上げて口々に言う。


「山徒ってカエデ=アキマよね」

「『一刀両断斎』っスね。ウチ、尊敬しているっス」

「寺院……」


思わず呟く。それは寺院だった。独特な瓦屋根に天井に輝くタマネギ。


「ウォフ?」

「そのどこかで見たことあるなって思って」

「山徒地方だ。山徒はこんな感じの建物が多いらしいだ」


カエデさんの格好からそうだとは思った。

しかし西洋風の建物に東洋風は凄く浮いている。


「じゃあオラは知り合いのところに行ってくるだ」

「案内ありがと」

「ホッスさん。ありがとうございます」

「どうもっス」

「ミネハ。しっかりフード被ったままだべ」

「わかっているわよ」


ミネハさんは目深までフードを被っている。

彼女は目立つから色々な防止用だ。


「ビッド。ウォフの言うこと。ちゃんと聞くだ」

「普通は逆じゃないっスか。まあいいっスけど」

「ウォフ。後は任せただ」

「は、はい」


僕たちはホッスさんと別れた。












ギルド内は、そういえば他のギルドって初めてだ。

まず目を見張るのは壁一面に貼られた依頼書。

隅から隅まで貼られていてハイドランジアのギルドよりも際立っていた。


依頼のシステムは探索者ギルドと同じだ。

壁一面に貼られた依頼は階級ごとに分れている。


依頼書には番号が振ってある。

その番号を覚え、依頼受理受付の受付嬢に伝える。


そしてその依頼が受けられるかどうか受付嬢が確認作業をする。

OKだったら依頼の詳細が聞ける。


受けられるかどうか。それは依頼が重複するか否かの確認だ。

依頼は基本的に先行順。つまり最初に依頼を受けた者の権利となる。

また依頼書は完了したものだけ外す。そして新しい依頼書を貼る。


依頼を受けただけでいちいち貼り替えるのは手間だ。

なので、この確認作業は必須ともいえる。


だから金稼ぎか何か目的がある依頼なら、朝早くに来るのがお勧めだ。


「あっ、酒場っス」

「へえ、ここは酒場と併用されているのね」


受付エリアの隣が酒場になっていた。


「がっははははっっっ」

「でよでよっ」

「やだー、もうっ」

「あっははははっっ」


テーブル席の殆どが埋まって昼間なのに騒がしい。

男女6人のパーティー。楽しそうだ。


「ねえ。ウォフ。あれ」


ミネハさんが僕の袖を引っ張って呼ぶ。


「どうしました」

「見て。あれ」

「ん? これは……」


ミネハさんが示した方の壁は左側だった。

そこには沢山の依頼書に囲まれて特大の依頼書が貼ってあった。


迫力ある魔物のイラストが描かれている。


「キズモノってあるっスね?」


胴体に大きな十字傷が痛々しい獣だった。

尾は二又だ。ビッドさんの言う通りキズモノと記されている。


「うわっ、報酬額が凄い」


150億5千万オーロか。

ひそっとミネハさんが小声で尋ねる。


「あんたなら倒せるんじゃないの」

「えっ」


唐突に言われて驚く。

でもまあ……全力でやったら倒せるとは思うけど。


だけどそれが目的じゃない。150億5千万オーロは魅力的だ。

魅力しかない。ただ討伐したら目立つ。

それはもう尋常じゃないほど目立つ。


三大家に目を付けられるのは困る。

敵の剣の女神の娘がいるかも知れない。


「あっ、ミネハ。これ、フルムーンバザーって書いてあるっス」

「どれっ?」


壁にポスターが張ってある。満月と露店のテントが描かれていた。

フルムーンバザー。今から6日後か。


「こりゃあ討伐依頼は受けられないっスね」


ハイゼン大森林まで往復で8日間かかる。無理だ。

ポスターを意味深に見つめてミネハさんが零す。


「……本当に見つかるかしら。アタシだけの……」

「見つけますよ。僕が必ず」

「う、うん。期待してる」


素直に言ってミネハさんは照れ隠しにそっぽを向く。

だからちゃんと当日まで調整できるようにしなさいと小さく言われた。

そんな僕たちのやり取りを見てビッドさんが呆れ半分で笑う。


とりあえず、そうだな。討伐者ギルドがどんなものか分かった。

ん。あのカウンターの隅でチビチビとお酒を静かに飲んでいる……エルフの女性。


「…………」


どこからどう見ても銀色の髪のエルフの女性なのに……そうはまったく見えない。

どういう意味か分からないけど、《《あそこにいるのはエルフの女性じゃない》》。

それなら誰だということになるけど―――あっ、振り向き様に目が合った。


「……」

「……」


彼女の目を見てわかった。分かってしまった。

あれは『千面相』だ。




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