貿易都市ハイゼン④・会いに行く。
ゴミ場のゴールドイーターはもう1体、潜んでいた。
さっきの要領で僕が【反射】の触手を壊す。
すると金切り音に近い悲鳴をあげた。痛みは感じるらしい。
それからホッスさんが触手をハルバードで切断する。
僕は『木閃』を装備して【レーヴムーヴ】を使用した。
ゴールドイーターの一つ目を『蒼穹突破流』で貫通する。
ちなみに女性陣は戦おうとせず遠巻きに見守っていた。
特にシャルディナとビッドさんはゴミを見るような冷徹な眼差しを終始向けていた。
それはそうだよな。単なるエロトラップの魔物だもんな。
他は居ないか【危機判別】でゴミ場の全てを回って確認する。
潜んでそうな怪しいところがいくつかあって誘き出そうとしたが、反応が皆無。
ゴールドイーターは2体だけだった。
まあそれだけで良かった。女性陣ピリピリしていたからね。
ゴールドイーターは一部を魔女がサンプルとして採取。
後は【バニッシュ】で消した。片付けが終わり、ミネハさんと話す。
「そう。一番レア度が高い。青い光は無かったのね」
「はい。ただし緑の光はめちゃくちゃ沢山ありました。黄色もかなりの数を確認しています」
ハイゼンのゴミ場の広さはハイドランジアと同じぐらい。
一通り回って、それでも青い光はひとつも無かった。
ハイドランジアのゴミ場でも青い光はひとつだけだった。
それがエリクサーの神聖卵だ。
「緑の光だけでもかなりの数っスか?」
ビッドさんが話に入ってきた。
「そうですね。軽く見ても千個以上はありましたね」
最初は目が潰れるかと思ったほど眩しかった。
さすが長年手つかずのゴミ場。とんでもない緑の光の海だ。
「全部集めて売れば大金持ちになれそうっスね!」
このゴミ場の緑や黄色を全部取って売ったらいくらになるか想像つかない。
億単位にはなるはずだ。
「それは、たぶん。そうですけど。でも危険なところや死ぬかもしれないポイントもあるんで全部の回収は難しいですよ」
かなり難しいだろう。【危機判別】でゴミ山に赤や黒も多かった。
ゴールドイーターという危険は無くなったが他の危険は潜んでいる。
話を聞いていたのかホッスさんが言う。
「こんなところだから危険は沢山あるだ」
「あまり欲を掻くと怪我するだけじゃ済まないってことね」
軽く窘められてビッドさんは頬を膨らませてムッとした。
「分かっているっスよ。そのくらい」
「でも黄色の光も数百個以上はあります。誰も触れていないので本当に宝の山です」
「これまでずっと隠されてきたからね。あんたの叔父さんに」
「あはは……」
苦笑するしかない。
「さてさて、これからが楽しみだけど、今は一旦。地上に戻ろうかねえ。シャルディナ。やめなさい。戻るねえ」
「デスっ?」
「…………」
ゴミ山に登ろうとしたシャルディナをやんわりと注意する魔女。
そんなシャルディナにため息をつく、アンナクロイツェンさん。
シャルディナ……でもなんだかほっこりと和む。
「そうね。このゴミ場を隠すにしてもどうするか考えないとね」
「売るにしても冷静に考える必要があるだ。なにせ遺品だ」
「でも何もしないっていうのは絶対に無しっスよ」
「わかっているわ。アタシもそれは良しとはしないから」
そうだよな。
これだけの宝の山。何もしないのは僕も反対だ。
「うんうん。そういうのも含めて、とりあえずとりあえず。戻ろうかねえ」
そうして僕たちは地上へ帰還した。
さっそく隠れ家のリビングのようなところで話し合う。
とはいっても食堂で話した内容の再確認みたいなものだ。
今後についてはまたジックリと時間を取って話すことにした。
今日はそれぞれの決めた予定をこなすことにする。
僕とミネハさんとビッドさんはホッスさんの案内で『トルクエタム』に会いに行く。
『トルクエタム』には、例のブルーグリーンクリスタルの事を話さないといけない。
ホッスさんは案内してから知り合いの元へ。
魔女はこれから古い知り合いの元へ。ふたりとも挨拶と情報収集が目的だ。
シャルディナとアンナクロイツェンさんは隠れ家の清掃。
長年使用していないから所々汚れが酷い。
だからこそやりがいがあるとふたりとも張り切っていた。
ハイヤーンのラボで造った掃除用具も持ってきたから活用すれば綺麗になるという。
正直シャルディナだけなら不安しかなかった。
だけどアンナクロイツェンさんが居るから大丈夫だろう。
この抜群の安心感は柔らかそうな身体も相まって伊達じゃない。
隠れ家は任せた。アンナクロイツェンさん。
ハイゼンの街中を歩く。
地形からか坂道と小道がやっぱり多い印象。
「手紙に書いてある通りだど、『トルクエタム』は一軒家に住んでるだ」
「宿じゃないんですね」
「……『トルクエタム』に一軒家を借りるお金が?」
「妙っスね」
小首を傾げるミネハさんとビッドさん。
ホッスさんは別の意味で首を傾げる。
僕も失礼ながら『トルクエタム』はいつも金策に翻弄しているイメージがある。
「何が妙だ? 第Ⅲ級探索者なら結構稼いでるだ。ミネハもそうだべ?」
「アタシは……稼いでもご飯で……無くなるのよ」
ミネハさんはどこか恥ずかしそうに言葉を濁す。
「あー、なるほど……」
「そうだったべな」
「そうっスね」
納得する僕たち。そこでふと察する。
よく作ってくれる朝食。やっぱり足りていないんだな。
「『トルクエタム』は全員で第Ⅰ級を目指しているっス。ウチはよく知らないっスけど、第Ⅱ級になるにはお金がけっこう掛かるらしくて……依頼とか頑張ってはいるんすけど……あっ、そういうことっスか!」
「なに、どうしたの?」
「分かったっス。タサンっス。アジトの一部を別邸として貸してなおかつ支援してもらっているっス。その一軒家もタサンの支援金で借りたんじゃないっスか」
なるほど。
ちなみにハイゼンの宿はピンからキリで防犯など優れているところは当然高い。
それなら一軒家を借りたほうが彼女達には得らしい。
「女性探索者の支援制度ってヤツね。聞いたことがあるわ」
「そんなのがあるんですか」
「聞いたことあるべ」
「それに『トルクエタム』は合格したっス」
「へえー」
「ミネハさんは利用しないんですか」
「アタシは今のところお金に困っていないし、そういうの性に合わないわ」
確かにそういうの利用する感じじゃない。
「ウチも同じ感じっスね」
「ビッド。あんたはもう『トルクエタム』に入ったら? 勧誘されているし、同じところに住んでいるんでしょ?」
「元々前のパーティーのアジトだったっスからそのまま住んでいて、加入に関しては前より抵抗はないっス。だけど……いざ、なかなか決心がつかないというか。心残りがあるというか。だからちゃんと気持ちの整理が出来るまで保留させてもらっているっスよ」
前のパーティー『ザン・ブレイブ』の解散。
それはまだビッドさんの心に棘みたいに刺さっているみたいだ。
「ミネハはどうなんだべ?」
「え? アタシ?」
「ちゃんとパーティーは考えているだ?」
「うーん。アタシは出来る限りソロでたまにパーティー組んだりしていたいわね。ウォフもそんな感じでしょ?」
「ん? えっ、あ、はい。まあそんな感じです」
急に話を振られてビックリする。
ホッスさんは呆れたように笑った。
「オラだけちゃんとパーティー入っているだ」
「それでいいんじゃないっスか。ホッスはそれが一番いいっスよ」
「ホッスはそれでいいのよ。あんたのソロはちょっと考えられないわ」
「確かに」
僕は『雷撃の牙』が、アクスさん。レルさん。ホッスさん。
この3人が揃っているのが好きだ。それは『トルクエタム』も同じ。
「なんなら、ウォフとミネハとビッドでパーティー組んでみたらどうだ?」
「え? アタシとウォフとビッド?」
「このふたりとっスか?」
「……なんかそれって……」
僕たち3人はきょとんと顔を見合わせる。
ソロで探索者をしている3人……余り物感があるなぁ。
そして着いた。
一軒家がずらりと並んでいて、左端に二階建ての白い家がある。
女性受けしそうだな。
「あの白い家だ」
「ふーん。オシャレね」
「好きっスああいうの」
やっぱり女性受けするみたいだ。
家の前に立つ。白いドア。丸い金色の輪っかのドアノッカーをミネハさんが鳴らす。
二度。三度。四度。五度———反応が無い。
「おーい。パキラ。リヴ。ルピナスっ」
声を掛けても返事が無い。
「いないっスか」
「そうみたいですね」
「なによもう」
「んだば、しょうがないだ。ギルドへ行くべ」
仕方なく予定変更して探索者ギルド・ハイゼン支部へ。
ああ、ここでは『討伐者』だったか。
どんなところか楽しみだ。
貿易都市ハイゼン。中央行政区。
ゼンゼラ家本邸。正門。
左右に屈強な門番が立ち、鋭く目を光らせている。
「止まれ」
「何者だ。これ以上は近付くな」
警告して槍を向ける。
「おやおや、これはこれは物々しいねえ」
魔女が懐から、胸の谷間から取り出したモノを見せると門番は目を見張った。
「これは失礼しました」
「どうぞお通りください」
態度を一変して頭を下げると慌てて門を開ける。
魔女は優雅に敷地内へ入っていった。
古い友に会いに行く。




