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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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285/312

貿易都市ハイゼン⓪・ベルク食堂①

予定通り僕たちはハイゼンに到着した。

ハイゼンを見張り台から見た、僕とミネハさんとビッドさんの感想は同じだった。


「長い」

「長いっスね」

「長いわね」

「ナ!」


そうリーヴ湖唯一の街であるハイゼンは長かった。

不自然なほど丸いリーヴ湖の端に沿って四角い建物と丸い塔が乱立している。

建物の色も赤や青や白や黒や黄色など色彩豊かで、奥の方まで続いていた。


たぶんリーヴ湖の端から端まで埋め尽くされているんだろう。

これがハイゼンか。


『スキアー・コフィン・エレ』はハイゼンの造船所に仕舞われた。

使われていない造船所で帰還するまで保管されることになる。


動力源だった魔物のスキアー・ホース・エレは魔女が瓶に入れていた。

瓶に入るのか……早速、叔父さんの隠れ家へ。


ホッスさんに手紙に入っていた地図を渡す。


「これはちょっと遠いだ」

「ねえ、お腹空いたんだけど」

「ウチもそうっス」

「ふむふむ。そういえばお昼だねえ」

「何か食べたいデス」

「……」

「あれ、そういえばギムネマさんは?」


僕はギムネマさんがいないのに気付く。


「ギムネマなら後で合流するってどっか行ったわよ」

「合流って場所分かっていないですよね」

「そうね。どうにかするんじゃないの」


素っ気なく答えるミネハさん。

まあ、あれでも第Ⅰ級探索者だから心配は無用か。


「んだば、まずは知り合いの食堂に行くべ。こっちだ」


ホッスさんを先頭に僕たちはまず腹ごしらえをすることにした。











ハイゼンの街並みを歩いていて、思う。


「なんだかハイドランジア以上に迷路みたいですね」

「迷いそうデス」


シャルディナの言う通り迷いそうだな。

ミネハさんが左右を見回り振り返って呟く。


「坂や小道が多いわね」

「大通りは無いっスか」

「もちろんあるべ。だどもハイゼンは殆どこんな感じだ。全く変わってないべ」

「うんうん。コンの記憶にある通りなにも変わっていないねえ」


懐かしそうに魔女は眺めて言う。


「最短ルートだからもうすぐ着くだ」


ホッスさんが角を曲がる。その先に店が見えた。


『ベルク食堂』


丸い看板にそう描かれていて、蒼白い波模様の屋根が目立っていた。

ホッスさんが店の戸を開ける。チリンチリンっと鈴が鳴った。


「いらっしゃいませ」


明るい声が響いた。耳の尖った銀縁眼鏡をかけた黒髪の女性が振り向く、

んん? どこか誰かに似ているような。エルフか。


「オラたち。団体だが大丈夫だか?」

「団体さまですね。あちらのテーブル席にどうぞ」


店内はちらほらと客がいた。地元のひとか。

テーブル席に座り、メニュー表を見る。海鮮料理ばかりだ。


「珍しい料理ばかりっスね」

「ホッス。おススメは?」

「オラはキュウリのエール漬けとツナのサンドイッチにするだ」

「地味デス」

「それって、ホッスさんが軽食でつくっていた」

「それの原型だ」

「いいねいいね。コンもそれと、お勧め刺身盛りにするねえ」

「そうだ。ここはオラが奢るべ」

「マジっスか。やったーっス!」

「いいんですか」

「ハイゼン到着記念だ。遠慮なく頼むべ」

「それなら、まず海鮮焼き盛り合わせを4つ。ライスあるのね。なら大盛りを4つ。それと肉はないのかしら。あった。じゃあこのステーキを5枚。ハンブルゲもあるのね。それも5枚。野菜の盛り合わせを4つ。あとはこの海鮮スープを6杯ね」


本当に遠慮なく頼むミネハさん。手加減しようよ。

ホッスさんが引きつった笑みを浮かべる。


アンナクロイツェンさんは注文だいじょうぶかな。

メニュー表をジッと見ている。


「ウォフくんはどうするっスか」

「名物の海鮮ライスにします」

「それ美味しいだ」

「それならアタシもそれの大盛りを5皿追加」

「ご、5皿……だ!?」

「うはぁ……ならウチもそれにするっス」

「シャルディナは厳選海鮮サンドイッチセットにしますデス。アンナクロイツェンは何にするデス?」

「…………」


アンナクロイツェンさんが指差したのは海鮮パスタだった。


「ご注文お決まりですか」


先程の女性が注文を取りに来る。そのとき水の入ったコップを配る。


「じゃあアタシから言うわね」


女性は僕たちの注文を全てふんふんと聞いて、すぐに確認する。

あれだけの量の注文を一度も間違わなかった。


それとミネハさんは注文時にカニクロケを10個と追加していた。

ホッスさんの目が死んでいた。


「凄いわね。あなた」


ミネハさんが感心する。


「いいえ。これくらい慣れていますから、少々お待ちください」


にっこりと微笑んで女性は厨房へ向かう。

やっぱり彼女、誰かに似ているな。


「さてさて、食べ終わったらウォフ少年の叔父さんの隠れ家に行くんだねえ」

「ただ、隠れ家の規模が分からないんですよね。ハイドランジアと同じぐらいなら皆が寝泊まりするのは無理だと思います」

「それだったら『スキアー・コフィン・エレ』で寝泊まりすればいいんじゃない?」

「それっスね」

「まあまあ、そうなるねえ。一応、いつでも出航できるように造船所の使われていないドッグに置いてあるからねえ」

「それって水を入れたら出て来れるやつですか」

「そうそう。だからいつでも使えるねえ」


魔女は頷く。なるほど。ヘタな宿よりよっぽどいい。


「隠れ家を確認して、それからハイゼンを見て回る感じね」

「あっ、ハイゼンには『トルクエタム』が居るっス!」

「そうだったデス」

「そういえばそうだったわ」

「そうだったべな」


そうだった。ハイゼンには『トルクエタム』の3人が滞在している。

忘れていた。


「ビッドさん。どこに居るか分かります?」

「1回だけ来た手紙に何か書いてあったっスね」


僕のところに届いた手紙にはそういうことは無かったな。


「そんなら隠れ家の後は『トルクエタム』に会いに行くだ」

「そうね。そうしましょう」

「手紙……あったっス! えーと場所は……これっスかね」

「ちょっと貸してもらうだ」

「ほいっス」


受け取ってホッスさんは手紙を見る。


「ああ、ここなら知っているだ。案内するだ」

「よろしくお願いします」

「そんでオラは案内した後、別行動をとるだ。古い知り合いに会ってみるべ。デューカスのこと。それとなく色々と最近のハイゼン事情を聞いてみるだ」

「分かったわ」

「おねがいします」

「それならそれなら、コンも隠れ家後に別行動するねえ」

「ああ、知り合いがいるんだっけ」

「うんうん。顔と名が知られているから色々と聞いてみることにするよ」

「わかりました。魔女。おねがいします」

「あの、シャルディナとアンナクロイツェンは残って隠れ家のお掃除をするデス」

「…………」


そうだった。このふたりはメイドとしてその為に来たんだった。


「頼みます」

「任せたわ」

「よろしくっス」

「はいデス!」

「……!」


気合を入れるシャルディナと照れた表情をするアンナクロイツェンさん。

ふとミネハさんが尋ねる。


「ねえ、ホッス。この街で気を付けないといけないことってなにがあるの?」


その言葉に魔女を除く女性陣が耳を傾ける。

ホッスさんは水を飲んでから。


「そうだば、まずミネハの容姿は目立つだ。フードを被ったほうがいいべ。ヘタすると攫われて密輸船に乗せられて海外に売られるだ。海外だと奴隷売買とかやってるところがあるらしいだ」

「ゾッとするわね。その辺、気を付けるわ」

「ミネハだけじゃなくビッドもシャルディナもアンナクロイツェンも気を付けるだ」

「わかったっス」

「そんなのやっつけるデス」

「……」


意気込むシャルディナ。

アンナクロイツェンさんは小さく不安そうに俯く。


すかさず隣のシャルディナが、小さく守るデスと励ます。

少しアンナクロイツェンさんは笑う。


「おやおや、ホッス。コンには何も無いのかねえ」

「魔女は心配ないだ。そんなことしたら組織ごと潰されるだ」


全員が頷く。魔女はむうっと不満そうだったのが可愛かった。

僕はちょっと考えてからホッスさんに聞いた。


「そんなに危険な街なんですか」

「うんや。治安はハイドランジアより安定しているだ。大事な貿易拠点だから面倒を起こすと国際問題に発展する。だど衛兵はしっかりしているところだべ。ただ、こういうところは犯罪組織がいくつもあるだ。ハイゼン街議会にも食い込んでいる大きな組織が三つあるだ。油断は禁物だべ」


行政にも介入している大きな組織。しかも三つか。

すると魔女がふふんっと笑う。


「ではでは、その辺をコンが詳しく解説しようかねえ。まずハイゼンには代表的な『討伐者』のクランが三つあるねえ。ジンリュウファミリア。ゼンゼラリーヴ教団。ゴウロ討伐隊。これらはそれぞれジンリュウ家。ゼンゼラ家。ゴウロ家が支援しているんだねえ。この三大家はハイゼン三商公会の三会頭でもある。更に言うと、この三大家が貿易都市ハイゼンの表も裏も完全に支配しているんだねえ」

「それってお貴族ってこと?」

「貴族はゼンゼラ家のみだ。この三大家は単なる権力者じゃねえ。完全な権力者だ」

「どういうことっスか」


魔女もホッスさんも完全って言っている。

完全な支配。完全な権力者。


「ハイゼンには大小沢山の商店と商会があるべ。だどもその全てが三大家のどれかに所属していないと、ハイゼンではまったく商売出来ないようになってるだ」

「なにそれ……」

「そんなのアリっスか?」

「うんうん。そうなんだよねえ。ハイゼンの法でそう決まっているんだねえ」

「法律からそうなんですか」


僕は唖然とする。独占禁止法とかそんなレベルじゃない。

完全な支配。完全な権力者。確かにそうだな。


しかし『ジンリュウ家』・『ゼンゼラ家』・『ゴウロ家』―――見事に三つ。

まさかと思うけど剣の女神の娘も三つに分かれてそれぞれ三家に……考えたくない。

あーもう権力とか面倒で嫌だ。


「お待たせしました。ご注文の品です」


テーブルに並べられた料理の数々は圧巻だった。

その大半がミネハさんの注文だ。


ところでこの海鮮ライス。見た目がどう見てもまんま海鮮パエリア。

スプーンですくって食べる。うん。パエリアだ。


海鮮と一緒に食べるともっとうまかった。

パエリア……個人的にパエリアには衝撃的な前世の記憶がある。


真夜中につくったパエリアを食べずに捨てる―――あれは衝撃的だった。

だからパエリアを見ると思い出してしまう。うん。うまい。


「本当に凄いっスね」


ミネハさんの食べっぷりにビッドさんが呆れ半分に呟く。


「そう?」


ミネハさんはフェアリアルになっていた。

それでこれだけの量を苦も無く次から次へと口に入れている。


「見ていると新型のミノスドールだと思うデス」

「失礼ね。見ての通りフェアリアルよ」

「前々からオラ疑問だったが、フェアリアルはいつもそんなに大食いなんだ?」

「違うわね」

「違うっスか」

「違うんですか」

「でも大きくなったり小さくなったりするとき消費するから、フェアリアルは割と食べるほうね」

「あれでもルリハさんは普通だったような?」

「お母さんは慣れていて消費が少ないからよ」

「ふむふむ。そうするとミネハは慣れていないから沢山食べるのかねえ」

「違うわ。元々こうよ」


元々こうなのか。


さて楽しく話しながら食べ終わる。

ホッスさんが支払いのとき、値段を見たのだろう。宇宙猫みたいな顔をしていた。


それはそうだろう。

当のミネハさんは「腹八分目ってところね」と恐ろしい事を僕の後ろで言っている。

あれからデザートとしてパンケーキを15重ねで食べたのに?


その後、支払ってから店員の女性と何か話をしていた。

そういえば知り合いの店なんだよな―――と戻ってきた。


「知り合い居たの?」

「今はちょっと出ているらしいだ。オラのこと伝えたからそれでいいだ」

「ひょっとして女っスか」


ビッドさんがニヤニヤとする。

いやホッスさん異性が苦手だからそれはないだろう。


「そうだべ」

「え」

「ほ、ほらとっとと行くだ。隠れ家の場所。ここからちっと掛かるんだ」


ホッスさんは照れ隠すように先頭に立つ。


「へえー、意外ね」

「ほうほう。ほう。これはまた面白くなってきたねえ」

「ロマンスでもあったっスかね」

「興味あるデス」

「……」


女性陣ぇ……それにしても僕もちょっと驚いた。

ホッスさんに昔の女性の知り合いか。



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