僕らの旅路:旅情編⑫・水上と出発。
次の日。
僕は全員を2階の最後部の展望ルームに集めて剣の女神の娘の事を話した。
魔女と相談して、共通認識にしたほうがいいと判断した。
ナイフの女神様の事を抜きにして僕の呪いのことも話す。
話し終えるとビッドさんが口を開いた。
「それでナイフばかり使っていたっスか」
「はい」
「てっきり趣味だと思ったっス」
「あははっ、元々は身体に合わなくて重くて使ってなかったんですけど、いつの間にかそういうことになっていて」
「ナイフに固執してて妙だとは思っただ。でも趣味なら口に出さねえ」
ホッスさんが口に出す。
「そうなりますよね」
趣味って思われていたのは、まあそうだとは思うよね。
「しかし剣の女神の娘。神話の存在だべ。実際に相対しないと信じられなかったべ。あれが、デューカスを悪化させたのは本当なんだ?」
「はい。ただ元々、生ゴ……彼が悪党なのは間違いないです」
旧友のホッスさんには悪いがそれだけは間違っていない。
ホッスさんはため息をつく。
「それは知っているだ。デューカスは会ったときから小悪党だったべ。クズでカスだっただ。だども。娘が、あと3つもハイゼンにあるのは恐ろしいだべな」
そこだ。ハイゼンに剣の女神の娘が3体もいる。いや3振りか3本か。
「……ねえ、『トルクエタム』は大丈夫なの?」
先にハイゼンに行っているパキラさんたちを心配するミネハさん。
吹っ切れたかどうかは分からないけど、普段のミネハさんに戻りつつある気がした。
「ふむふむ。確かにねえ。彼女達なら『器』になっていてもおかしくないねえ」
それは僕も考えた。考えたくないけど真っ先に思った。
彼女達なら『器』に充分成り得る。
(安心してください。リヴがいる限り、剣の女神の娘たちは近付いたりしません)
え? リヴさん?
(剣の女神の娘はリヴを嫌悪して畏怖しています。器としてルピナス。そしてパキラが欲しくてもリヴが居る限り、自ら近付くことは無いでしょう)
それは良かったけど、でもどうして。
(…………わかりません)
絶対にウソだ。
そういえば前々から気になっていた。
リーヴ河にリーヴ湖。リヴさんと何か関連があるんですか。
(………………偶然でしょう)
ウソくさい。その間はなんだ。
でもリヴさんだよなあ。まあ彼女に関しては色々と……あるからなぁ。
あまり触れるのが難しい。無事ならまあいいか。
それから対策というほどじゃないが、気を付けなければいけないことを話し合った。
それでもやれることは少ない。ただ壊せる手段がひとつでもあるのは唯一の光だ。
「僕はハイゼンにある剣の女神の娘を全て壊そうと思っています」
「本気っスか」
「……ウォフ」
「…………」
「ほうほう。ウォフ少年ならそう言うと思ったねえ」
「んだ。ウォフならそう言うべ」
「シャルディナも協力するデス」
デューカスみたいなのを増長させる。禍は放っておくわけにはいかない。
もちろんこれは僕の我が儘だ。だからひとりで。
「こらこら、ウォフ少年。ひとりでやろうとしているねえ。それは君の悪い癖だねえ。ここにはコンたちがいる」
「えっ、それは、だけど僕の我が儘で危険で」
「水臭いっスよ。ウチも手伝うっス」
「オラもハイゼンには思い入れがあるだ。それにデューカスみたいなのが居るのは放っておけないべ。できるかぎりの手伝いはするだ!」
「シャルディナも協力するデス」
「アタシは…………」
「…………」
さすがにミネハさんとアンナクロイツェンさんは迷っている。
「ウォフ。ごめん」
「………………」
謝るふたり。
「あの強制参加でもなんでもないので気にしなくていいんですよ」
「無理は良くないだ」
「安静にするっス」
「うんうん。なんならねえ。別にハイゼンに行かなくても」
「それは行くわ」
「……!」
「だけど」
「行かない選択肢はないの」
「……!!」
ふたりとも行かない事は断固、拒否した。
それはそうならもう言うことはない。
話し終わって解散。僕は部屋に戻る。
持ってきた宿の荷物を整理しよう。
久しぶりの部屋だけど、なんでだろう。良い匂いがする。
花の甘い香り? 蜜の香り? これってなんの匂いだ。
特にベッドから強く香ってくる。なんでだ?
「? シャルディナが清掃中に何かぶち撒けたのかな。香水とか」
あり得そうだ。でもなんで香水? ミノスドールでも女の子だからか。
それにしては自然な匂いの気がする。それにこの匂い。どこかで。
コンコンとドアがノックされた。
「どうぞ」
「お邪魔するわ」
入ってきたのはミネハさんだ。
「どうしました?」
「話とお願い。いいえ。第Ⅴ級探索者のウォフに個人依頼があるの」
「依頼……ですか」
なんだろう。ギルドを通さない依頼は別に違法じゃないけど改まって依頼か。
それに思い詰めた真剣な表情だ。
僕はベッドに座るように勧めた。
何か飲み物を持って来ようかと提案するが断られた。
「ハイゼンで開かれるフルムーンバザーは知っている?」
「はい。聞きました」
「アタシはそこで新しい武器を手に入れたいの。だからウォフ。あなたのレリックの力を貸して欲しい」
「……【フォーチュンの輪】ですか」
「そうよ。並大抵の武器だとあいつらに勝てない。【妖星現槍】と同等かそれ以上のスピアーが必要なの」
やっぱりスピアーか。
フェアリアルは滅多な事が無い限りスピアーのみを武器として扱う。
それとフェアリアルが強くなる唯一の方法は武器すなわち手札を増やす。
ミネハさんのお母さんであるルリハさんは多くのスピアーを所持している。
そのどれもがミネハさんの【妖星現槍】と同等かそれ以上の力を持っている。
後で知ったんだけど、フェアリアルは武器の扱いが天才的だ。
それは種族全員がそうらしい。種族特性というやつだ。
特にオーパーツなどは、例えどんなに強力で扱い辛くても問題なく使える。
ただし武器の扱い以外は弱い。それがフェアリアルだ。
「……うーん」
「ダメなの?」
「いえ、その区別が出来ないんですよ。レア度。つまり希少性が分かるだけで武器とかそういうのは区別が出来ないんです」
区別が出来れば協力できるけど、【フォーチューンの輪】はレア度しか分からない。
「そう……」
「ミネハさん。あいつらって」
「剣の女神の娘ども」
ミネハさん。戦うつもりなのか。
いや戦わないと、倒さないと乗り越えられないのかも知れない。
「よし。魔女に相談してみましょう」
「魔女に?」
「魔女なら何か解決策があるかも知れません」
もう困ったときの魔女頼みだ。
僕たちはさっそく2階の仕事場へ。
ノックする。
「おやおや、どうぞだねえ」
「失礼します」
「入るわよ」
「おやおや、どうしたんだねえ」
魔女は何故かハイヤーン製の光球を弄っていた。
「なにをしているの?」
「これはこれは、後学の為に解析しているんだねえ」
「ハイヤーンのところのですよね」
「そうそう。あのラボの技術を学ぼうと思ってねえ」
「それでどうなの?」
「まあまあ、色々と分かってきたところだねえ。さて、何かコンに相談があるんじゃないのかねえ」
魔女は光球から顔と手を離すと僕たちに向き直る。
ソファに座るよう促された。
「実は―――」
着席して、ややリラックスしたところで僕は説明する。
説明終わると魔女は一言。
「ふむふむ。要するにスピアーだけ反応するようにしたいんだねえ」
「はい。一時的にですが」
「何か方法はあるの?」
魔女は狐耳をピンっと立てた。
ニヤニヤする。ちょっと意地悪そうな笑みだ。
「もちろんもちろん。あるねえ」
「あるの!?」
「あるんですか」
「そもそも、古代からレリックの力を制御したり限定的に狭めて使いたいというのがあったねえ。長年の研究によって完全ではないけれど、実現はしていて、コンの場合は制御薬になるねえ」
「薬ですか」
魔女の得意分野だ。
しかし薬でレリックをどうにかできるのか。
「うんうん。服薬で短時間だけになるねえ。それでもいいなら作るよ」
「ちょっと、それってタダじゃないでしょう」
「あっ」
そうだ。ミネハさんの指摘でハッとする。タダじゃない。
それはそうだ。タダじゃない。
魔女はそれはそれはとてもとても楽しそうに笑った。待ってましたといわんばかり。
「もちろんもちろん。世の中タダじゃないねえ。でもタダでやってあげるねえ」
「え!?」
「い、いいんですか。魔女」
「まあまあ、たまにはねえ」
「あんたがそれでいいならお願いするわ」
「僕からもお願いします」
「うんうん。まずは試薬からだねえ。明後日までに作っておくよ」
これで目途はついた。
そして出発日。
水上モードの『スキアー・コフィン・エレ』が港町リーズを出発する。
目指すは貿易都市ハイゼン。
「色々と不安だなぁ‥…」
「そうであるか?」
展望ルームのバルコニー。
リーヴ河の風景を眺めながら僕は呟いた。
隣でギムネマさんが呑気にサンドイッチを食べながら言う。
鶏肉とレタスとキュウリとオレンジソースが白パン豆に挟んである。
「叔父さんの隠れ家だけだったのに、剣の女神の娘とかミネハさんの新しい武器探しとか、色々あるんですよ」
「それは大変であるな。剣の女神の娘?」
そういえば話し合いのとき居なかったな。
「敵です」
「そうか。吾輩にも敵がいる。壮大な敵だ」
「なんですか。その敵」
「水だ」
「……泳げないからですか」
「そうであるな」
もぐもぐっとサンドイッチを食べる魚頭のタキシード怪人。
このひと。なんでここに居るんだろう。




