僕らの旅路:旅情編⑨・剣と生ゴミ。
デューカスは足元近くに刺さったナイフをイラッとして見下ろす。
後でミネハを全裸にした後、殴って蹴ろうと決める。それか鞭打ちか。
「あ? ナイフ?」
するとナイフが消えて、ひとりの少年が姿を現した。
レリック【ナイフマジック】のチェンジングだ。
彼の前に現れたのは、青髪に赤いスカーフを巻いた少年だった。
そのまま有無言わさず眼前のデューカスを殴るが、何かに阻まれる。
眼に見えない障壁。少年の拳がデューカスの手前で止まる。
だが。
「【ビブラシオン】」
「はあ、また邪魔者か。いい加減に」
ビシィッ、空間に亀裂がはしり瞬く間に障壁は砕け散った。
止まっていた少年の拳がデューカスの腹部に深く抉るように入る。
「ぐぅぅっががああああぁっっっ!?」
醜い呻き声をあげるデューカス。そのまま少年は彼を殴り飛ばした。
面白いように一度バウンドして転がるデューカス。
「…………」
少年は倒れたミネハの痛々しい顔にポーチから取り出した小瓶の中身をかける。
「うぷっ……え、ウォフ?」
ミネハは目をぱちくりとさせる。
「もう大丈夫です。ところでミネハさん。あの喋って動く生ゴミはなんだ」
「ウォフ……?」
「まぁ、もうすぐ動かない本物の生ゴミになるんだけどな」
「…………ウォフ?」
ウォフはキレていた。
たまたまだった。偶然だった。
ブルーグリーンクリスタルの事を宿に居る魔女に知らせる為。
僕はビッドさん達と別れた。
人通りが多いのは苦手なので少ないところを歩いていたら、目撃してしまった。
アンナクロイツェンさんとホッスさんが倒れている。
しかもアンナクロイツェンさんは血まみれだ。
そして傷だらけのミネハさんが見知らぬ男に髪を掴まれて引きずられていた。
それを見たとき、男を……この生ゴミは殺そうと決めた。
例え貴族の子息だろうがどこかのお偉い権力者の息子だろうと関係ない。
決めたから必ず殺す。だけど傷めつけてから殺す。
ミネハさんのアンナクロイツェンさんのホッスさんの痛みを存分に味わえ。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……な、なにが起きた……うぼぼおぉっ!?」
腹を押さえながら生ゴミが起き上がり、嘔吐した。
本当に生ゴミだな。
「ミネハさん。ふたりをお願いします」
「う、うん。分かった」
僕は小瓶を彼女に渡し、スタスタと生ゴミに近付く。
まだ吐いている生ゴミ。ホント生ゴミ。
「げぇっげぇっ、はあぁっはぁっ……ば、馬鹿な、馬鹿な……障壁が……」
「おい」
「そんなはずはない。あんなガキなんかに……け、剣は!? ヴィヌは!?」
「返事しろ。生ゴミ」
「うるせぇっ、いま俺が」
パァンっと僕は生ゴミをビンタした。
普通に攻撃が通った。剣? なるほど。あれが無いと障壁が張れないのか。
「返事も出来ないのか。だから生ゴミなんだよ」
もう一発、ビンタする。いい生ゴミの音だ。
「き、きさまぁあああああっっっっっ」
生ゴミが顔を真っ赤にして殴り掛かってきたので余裕で避けた。
カウンターで右ストレートを生ゴミの顔面に放つ。
悲鳴をあげて生ゴミは鼻血を出す。鼻が折れたかな。
「ホント。ゴミだな。どうした。強いんじゃないのか? それとも女子供しかイキれないのか。いや女だけしかイキられないのか。ゴミ」
「ぶべばあぁっ……ぼ、ぼの……け、げん……」
血が出る鼻を押さえながら生ゴミはよろよろと剣を拾う。
鼻を押さえながら僕に剣を向けた。
あの剣……オーパーツだろうか。何か感じる。まあ、関係ないか。
僕は生ゴミを殴る。何か壁に阻まれた。やはりか。
「【ビブラシオン】」
「ど、どぶだ。このしょうべぎ」
僕の拳がノイズみたいになって振動する。
空間がまるでガラスが破られるように砕けた。
そのまま僕の拳は生ゴミの頬に当たる。
2本ぐらい生ゴミの歯が飛んだ。
悲鳴を上げて呻いて転がる。それが五月蠅いので腹を蹴った。
「やかましいぞ。生ゴミ」
腹を蹴る。また吐いた。全く生ゴミはどうしようもないな。
「ぐえぇっっぐええぇぇっっっ」
思ったけどコイツ、強くない。そこらのチンピラより弱い。
あの剣の障壁が無ければマジで生ゴミ。
障壁か。ああいうのは振動に弱いと前世の記憶にあった。
正面からの打撃などには強固だが全体的に震わす攻撃には脆弱。
だから【ビブラシオン】を纏って殴ったら本当に破壊できたから少しビックリした。
まあこんな方法は滅多にないから、そういう意味だと障壁はほぼ無敵なんだろう。
【ビブラシオン】が効かなかったら【ジェネラス】になって【宇宙の腕】を叩き込む。
それでもダメなら【ジェネラス】の【レーヴフォルム】だ。
【バニッシュ】はなんとなく効かない気がする。
惜しむつもりは全く無い。
この生ゴミは確実に苦しませて処分する。
「あー、靴がおまえのゲロで汚れてしまった」
僕はそう言って生ゴミの顔を踏んづけた。
グリグリと靴底で踏み躙る。
ミネハさんの顔に靴の跡があったの忘れないからな。
「いでえぇぇっっいでえええ、ぐううぅぅっっ」
「よく考えたら生ゴミを踏んで綺麗にならないか」
思わず笑ったけど踏み躙るのはやめない。
ふと剣が落ちている。細長く鍔も無い。やや歪曲した角みたいな白い剣だ。
なんとなく直感だけど、この剣は破壊したほうがいい気がした。
この剣を見ると言い知れぬ嫌悪感を覚える。破壊したい。
そうするとソードブレイカーが一番適任だろう。
(いいえ。ウォフ。そのヴィヌを破壊するのなら異なる海のナイフを使いなさい)
え? 脳内に急に声が響いた。しかも聞き覚えがある。
ナイフの女神様!?
(異なる海のナイフだけがその剣の女神の娘を破壊できるでしょう)
剣の女神の娘!? ああっそういうことか。
神々の戦争で砕けた剣の女神の破片から生まれた娘たち。それか。
というか、だったら破壊していいのか。相手は一応神様だけど。
(構いません。むしろ破壊してください。その剣。ヴィヌはこの世の禍です)
わざわい……意志があるとすれば生ゴミなんかに力を貸していることになる。
僕もこの剣には嫌悪感がある。残しておくのは危険だと分かる。
僕は生ゴミの顔を力強く踏んづけて、異なる海のナイフを手にして抜く。
ボロボロの刃が三本の蛸の触手になる。
「きゃあぁっ!?」
可愛い悲鳴があがった。
見るとミネハさんとアンナクロイツェンさんがドン引きしている。
「な、なんだべ。蛸だべ」
ホッスさんがおそる尋ねた。でも蛸って言ったとき、なんだろう。
良い食材を見つけたみたいなニュアンスを感じた。
僕は触手を動かし、剣を包み込む。足元の生ゴミが騒ぐので更に強く踏みつける。
次に騒いだら腕か脚の一本でも【バニッシュ】しようと思う。
うわっ、なんか触手から剣の感触が……妙に気持ち悪い。
まるで陶器なのに生々しい生身に触っているみたいだ。
こんな変なの。早く壊そう。
触手に力を入れていくと剣がバキボキに折れていく。離すと跡形もなく霧散した。
すると生ゴミに変化が起きた。
僕は嫌な予感がして咄嗟に離れた。
「うがあああああぁぁっっっっど、どうしてええぇぇヴィヌうぅぅぅっっっっっ」
生ゴミがドロドロに溶けていく。
肉も臓物も何もかも溶けて骸骨になった。そして剣と同じように霧散する。
マントと服だけが残った。
「デューカス……」
ぽつりとホッスさんが近寄って呟く。
「知り合いでしたか」
「……ハイゼン時代にパーティーを組んだことがあるべ。ハッキリ言えば悪党なのは確かで、こういうロクでもない死に方をすると思ってただ。だども、オラが知っているデューカスにしては悪辣すぎるだ」
あの生ゴミ。デューカスという名前だったのか。まあ別にどうでもいい。
ミネハさんがアンナクロイツェンさんを……うおぉっ、服が。メイド服が。
斬られた箇所が悪かった。
アンナクロイツェンさんのメイド服の切り口から青い膨らみがチラチラと見える。
ブラも切れたのか。着痩せするタイプらしい。
膨らみは結構、大きかった。いかんいかん。僕は目を逸らす。
普通なら死んでいたがミノスドールだったのが幸いだ。
それでもエリクサーが無ければ危なかった気がする。
「ん?」
ふと、一瞬だけど何か大きな気配を三つ感じた。
近場じゃない。たぶん遠くだ。
気配は破壊した剣に近い。
「………………」
ミネハさんは生ゴミの服を見て、僕に視線を移し、フイッと逸らした。
「行くべ」
「はい」
「……」
「……」
僕たちはその場を離れる。歩いている間、誰も一度も喋らなかった。
ミネハは俯き、アンナクロイツェンさんも笑顔が無い。
宿に戻ると、ミネハさんとアンナクロイツェンさんは部屋へ。
何か声を掛けようとしたがやめた。今はそっとしておこう。
只事じゃないと察した魔女に簡単な説明をする。
ビッドさんと何故かギムネマさんとシャルディナも一緒に戻ってきたので説明する。
剣の女神の娘うんぬんは困惑させてしまうので、そこだけは話さなかった。
後で魔女に相談しよう。
シャルディナはアンナクロイツェンさんの部屋へ。
同じミノスドールだから彼女に任せよう。
「…………」
そんな彼女たちを見たらギリッと奥歯を強く噛んだ。
あの生ゴミ。もっともっと傷めつけるべきだった。
腕も身体を滅多斬りしてエリクサーで回復のループでもすれば良かった。
それにしても誰かを生ゴミと蔑むのは久しぶりだ。
とうとう夕方になってもミネハさんは部屋から出て来なかった。
さすがに食事をしていないのは……心配になる。
僕はミネハさんが泊っている部屋の前に立った。
コンコンっとドアをノックする。
返事がない。
「ミネハさん?」
ノックしても全く返事がない。なんだか人の気配がない。
ドアは……あれ開いた。鍵を掛けてなかったって不用心過ぎる。
部屋にゆっくりと彼女の名を呼びながら入る。
「いない……」
ミネハさんはいつの間にかいなくなっていた。
「た、大変。アンナクロイツェンの姿がどこにもないデス!」
シャルディナが騒ぐ。アンナクロイツェンさんもいなくなっていた。
ふたりとも、どこへ。




