探しモノ②
彼女は僕の持つ本を見る。
「なんじゃその本?」
「料理本です」
「ふむ。古いものじゃな。おぬし。料理するのか」
「自炊しないと生活できませんよ」
「ふむ? そういうものか。料理はルピナスがやっておるからのう」
ルピナス……たぶんあのエルフの美女だ。
へえー、料理するのか。
どことなく高貴な見た目だから想像つかない。
「目当てはこれじゃないんです」
「ふむ? なにが目当てじゃ?」
「薬草とか回復薬が詳しく載った図鑑や辞典です」
「ううむ。それはまたなんとも珍しいのを探しておるのう」
「やっぱり珍しいですか」
「本はその殆どが物語か詩じゃ」
「ああ確かに……でも実用的なんですよ」
薬草も回復薬も知っていて損はない。
むしろ探索者なら知って当然じゃないのか。
「便利そうじゃが、しかし用途が限られておるからのう」
「やっぱりあまり無いですか」
「それと得手不得手と需要と手間暇と予算じゃな」
要するに売れないというわけだ。
製本にも金が掛かる。その費用を賄えるほど売れるかどうか。
今の識字率の低さだと難しい。
現に料理本も色褪せていて、売れていない説得力がある。
「街に売っていると思いますか」
「難しい質問じゃのう」
彼女は微苦笑する。
その反応で僕は諦めたほうがいいのかと顔を暗くする。
でもやるだけやってみよう。諦めるのは早い。
「……他に本が売っているところを知っていますか?」
「ふむ。いくつかあるぞ。本の売り場は網羅しておるからのう」
「お願いします。情報料を払いますので教えてください」
「よいぞ。情報料はいらぬ」
「いいんですか」
「これくらいで金を手にするほど、わらわは困っておらん」
第Ⅲ級だから儲けてはいるんだろう。
「ではゆくぞ」
「えっと?」
一緒にという感じに僕は戸惑う。
彼女は笑った。
「口頭で教えて分かる場所とわからぬ場所があるのじゃ」
「なるほど。あっ、僕はウォフといいます」
「パキラじゃ」
こうして僕はパキラさんと行動することになった。
料理本は買った。
次の場所も雑貨屋だった。店の奥の隅にひっそりと本棚がある。
近付く者は僕達しかいなかった。
「ここも物語と詩ばかりですね」
「そうじゃのう」
「うーん」
旅行記も料理本もない。
「おぬし。物語や詩に興味ないのかのう」
「少しはありますよ」
「ほお、まったくではないのじゃな」
「そうですね」
「やっぱり冒険物や英雄譚かのう」
「そうですね……」
確かに英雄譚や騎士物や冒険譚や民話集は好きだ。
家にもいくつかある。
ただ前世の記憶にあるラノベとかと比べると……なんというか。
文法がないので好き勝手に書いている。
推敲されていないので圧倒的に読み辛い。
昔、読んだロシアのドフトエフスキーの『罪と罰』とかがそうだった。
それと言い回しが古臭い。物語の起伏が少ない。
変な終わり方をする。特に打ち切りみたいな感じが多い。
あと宗教色が強いのもきつい。プロパガンダ的なのもあるんだろう。
宗教は識字率が高いのか。だからまあいくつか読んでやめた。
特に詩はぜんぜん興味ない。あの感覚は分からない。
それと漫画が当然だが全く無い。
絵本もないから原型っぽいのもない。
イラストをどうにかするという概念もないのか。
でも壁画はあるんだよな。発想がそこまでいかないのか。
どちらかというと漫画ばっかり読んでいたから……なあ。
「…………」
それにしても、なんだろう。
最近の傾向は物語も詩も恋愛が多く感じる。
ここの本棚も20冊ぐらいの物語と詩が恋愛物だ。
それだけ売れるからあるんだろう。
恋愛物は手に取ったことはない。
そういうのは今の僕にはよくわからない。
今の僕じゃなくてもわからない。
「やはり無いのう」
「そうですね」
「では次じゃな」
「はい」
次は骨董屋だ。アリファさんの店じゃない。
あの店には本は置いていない。やはりここでも本棚は奥だ。
「料理本と旅行記があるのう」
「図鑑……」
武器図鑑。こんなものがあるのか。
分厚い。手にしてめくる。
「ほお。武器が色々と載っておるのう」
パキラが顔を近付ける。
猫耳がひょこひょこと動く。
「これはオーパーツみたいです」
「ふむふむ。面白いものじゃな」
確かに珍しい。でも探している本じゃないな。
僕は閉じて元の場所に収めた。
「買わんのか?」
「そんなにお金ありませんよ。パキラさんは?」
「面白いが、趣味じゃないのう。じゃが……」
「どうしたんです?」
「いやなんでも、無いのう。それらしいのも……む」
「どうしました」
「イポメア・ニルの朝景じゃ」
「?」
「詩集じゃよ。詩人イポメア・ニル。知らんかのう」
「あまりそういう方面は疎くて」
「200年前の詩人じゃ。エルフじゃから今も存命じゃな。もっとも彼女は夜景が有名じゃ」
「へえー……パキラさん。それ買うんですか」
「買わぬよ。詩は嗜む程度じゃ」
「よく買う本は物語ですか」
「そうじゃのう。それしか買っておらぬ」
「英雄譚とか冒険譚とか?」
「そうじゃのう」
素っ気ない返事ばかりだ。
あっ、そういえば僕が取ってあげた本は……恋愛物。
なるほど。女の子。
「……次に行きましょうか」
「うむ。じゃがその前に」
パキラさんは武器図鑑を手にした。
「買うんですか?」
「うむ」
「でも趣味じゃないって」
「ひょっとしたら役に立つかも知れんからのう」
「役に?」
パキラさんは武器図鑑を買った。




