僕らの旅路:旅情編⑧・ミネハと俺のモノ。
アタシはうんざりしていた。
それは前々からそうだったけど、それでも、心底からうんざりしていた。
「なんなのよっもう」
アタシはここ数か月で急激に異様にモテている。
信じられる? アタシは10歳なのよ。
それなのに、いい歳した大人の男が、年上が!
アタシに向かっていやらしい目線を向ける。
今もそう。チラチラっと見られている。
正直、意味わかんない。
アタシは変わったらしい。容姿が信じられないくらい綺麗になったらしい。
しかも色気が凄いらしい。いやいや、10歳よ。
大人の女の極上の艶気を醸し出しているとか何言ってんのって思う。
ドチャシコドスケベってなに?
それが実の母親からの言葉———はあぁっ、あんなひとだとは思わなかった。
まぁそれはいいわ。良くないけど。
見られているだけなら無害だから気分はよくないけど、まだマシ。
声を掛けるのもとっても嫌だけど、断ったら退散するからまだマシ。
一番、腹立つのは思い上がった最低最悪の馬鹿ども。
権力を使う。暴力を振るう。強制。強引。脅迫。誘拐。
どいつもこいつも汚らわしくて厭らしくて反吐が出て嫌悪しかない。
別に綺麗になりたくてなったわけじゃない。
そんなこと言われても困るし分からないわよ。
だからストレスが溜まる。
そういうときは風呂に入ってろくに身体も拭かず、ウォフのベッドに飛び込む。
裸で布団って恥ずかしいけど誰も見てないしバレてないし、気持ちいい。
あと、なんだか分からないけど、どうしてだけど、ウォフが悪い。
アタシがこうなったのもウォフが悪い。
ばか。
一応、でも対策はある。フェアリアル状態。だけどそれは負けたような気がする。
それはなんだか負けたような気がする。負けたくない。アタシは負けたくない。
そう母親と勝負して、アタシはもっと負けたくないと思った。
そして自分が足りないモノも分かる。指摘されたし、それは納得している。
「おい。おまえ」
突然、背後から声を掛けられた。
静かなところに行きかったから、人通りが少ないところに入った途端だ。
当然、無視するがしきりに声を掛けられる。
うざったいので嘆息しながら振り向く。
声から分かっていたけど男だった。
背が高く黒いマントをしていて、服は地味だ。
ただ黒髪で長く、変な髪型をしていた。
なんというか鳥の嘴みたいな、そういう感じの頭で嘴の部分は白い。
顔立ちは悪くはない。ただ濁った黒い瞳……目つきとか、ブルッと悪寒がはしる。
無理。絶対無理なタイプ。
白い小さな角が髪の合間に見えた。フォーンか。
そして剣を手にしていた。
長い変な白い剣。鍔が無くやや歪曲していて角みたいだ。
「なにか用なの?」
「おい。おまえ」
「おまえって名前じゃないんだけど」
アタシは苛々しながら答える。
「俺のモノになれ」
「はあ?」
「ああ、いいぞ。まさかここまでの器が手に入るなんてな」
「はあ?」
なに言ってんのこいつ。
たまに居るのよね。こういうの。呆れた顔をすると、男はムッとした。
「なんだ。その顔は?」
「普通の顔だけど? それで、何の用なの?」
「キサマぁ……俺のモノのクセに生意気だぞ」
「はあ? 誰があんたのモノだって? ちょっと、あんた。なにを」
男はアタシの隣で不安そうなアンナクロイツェンに剣を向けた。
庇おうとする前にアンナクロイツェンは吹っ飛んだ。
「俺に逆らうからこうなる」
「アンナァっ!?」
建物の壁に激突して白い煙をあげる。
駆け寄ろうとすると腕を掴まれた。
「離せっっ!!」
「これ以上、俺に逆らうなら、おまえもお仕置きをしないといけねえなぁ」
「うるせえよっ」
反対の手で腰の『妖星現槍』を構えた。
男は気付くとアタシの腕を離す。
すぐさま槍の分離パーツである『星』を全て発動させた。
白い模様部分が9つの三角形『星』として分離。
三つほど【スパイラル】させて攻撃する。
だが『星』が弾かれた。まるで見えない壁があるみたいに……男は嗤う。
そして濁った瞳を鋭く刺せる。
パンっ! アタシは頬を叩かれた。唇を噛んで血が出るがアタシは男を睨みつける。
強い意志を込めて8つの『星』を『妖星現槍』に纏って回転させる。
ウォフ曰くドリルだ。
回転を速く速く速く速く、発生した火花が瞬く星屑みたいに散っていく。
「ふん。それがどうした」
「スターライトブレイバァーっっっ!!!」
渾身の力を込めて男を必殺で突く―――が弾かれた。いとも簡単に。
だからといって諦めるかっ!
遥か上空。【遠隔操作】と【スパイラル】の効果範囲ギリギリから喰らえ。
9つ目の『星』を男の頭上に高速で落とす。
「スターライトストライクっっっ!」
だが、それでも、男の手前で何かに弾かれる。
アタシは突撃した。それでも無駄だった。
障壁? だからといってこんな硬いの。
「はぁ、舐めたマネしてくれるなあ」
アタシの腕を再び捕らえる男。
「離せっっ!!」
「いい加減に俺のモノだという自覚をしろ」
パンッッ!! さっきより強く頬を引っ叩かれた。
痛みで涙目になるけど、壮絶な憎悪を込めて男を睨みつける。
「死ねクズっ」
「なんだ。おまえよぉ。その眼は? その言葉遣いは? 俺のモノだという躾が必要か……」
「いだぁっっ!?」
アタシの腕を掴む手に力が込められ、男は空いている手でコブシを握った。
瞬間、腹部に鈍器で殴られたような強烈な鈍痛が……殴られたんだ。
口から血を吐いて呻く。
「あと2~3発、入れるか。さすがにそれでおまえの立場が分かるだろ。ん?」
何かがアタシの視界に入る。あ、あれは、ボロボロのアンナクロイツェン……!?
男を殴ろうとしたけど弾かれた。
「!?」
「まだ生きてやがったか」
男はアタシを降ろし、腹を蹴ってからアンナクロイツェンに剣を向ける。
「に、逃げ……て……」
それでもアンナクロイツェンは弾かれても弾かれても殴るのをやめない。
「目障りだ。死ね」
「デューカスっっっっっ!!!!!」
怒鳴り声がして、男がその方へ向くと、驚いたように言った。
「ホッス?」
ホッス……? ハルベルトで男を攻撃する。
「久しぶりだな」
男は剣で受けた。
「なにやってるだ。デューカス!!!! 彼女たちはオラの仲間だぁっ!!」
激怒している。あんなホッス見たことが無い。
男は……デューカスは笑う。
「おまえの? 違うな。この女は俺のモノだ」
「なに馬鹿なこと言ってるだ!?」
「邪魔するな。旧友でも容赦はしないぞ」
「デューカスっっっ!! ぐはあぁっ!?」
ホッスが弾かれる。それでもすぐ立ち上がって向かう。
「おまえは」
「黙れ」
「がはあぁっっっ!!!」
ホッスが剣で地面に叩きつけられた。
「旧友のよしみだ。殺さないでやる。だが次に歯向かったら殺す」
アンナクロイツェンがその隙に殴りかかるが阻まれ、斬られる。
血を噴き出して倒れる……アンナクロイツェン。
そんなアンナに……デューカスは剣を刺した。
デューカスはつまらなそうにため息をつくと、アタシの腹を蹴る。
「ぐうぅっ、あっがぁっ」
「おい。おまえの所為で俺の靴が血で汚れた」
そう言ってアタシの顔を踏んだ。
グリグリっとアタシの顔を靴底で踏み躙る。
「ぐああぅっっ!」
「また邪魔されては面倒だ。行くぞ」
「い゛がぁっ」
デューカスはアタシの髪を掴んでそのまま無造作に引き摺っていく。
抵抗したいけど痛みで身体がうまく動かない。涙が出てくる。
悔しくて悲しくて怒りで涙が溢れて出てくる。
やだ。やだやだやだ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなやつと一緒とか。
そうだ。フェアリアルになって―――ダメだ。もっと酷いことされる。
殺されるかも知れない。
「帰ったら俺のモノだとたっぷりと身も心にも刻み込んでやるからな」
嫌だっ! 嫌だっ! やだ。やだ。やだ。こんなことで、嫌だっ!
絶対に嫌だっ! 絶対に死んでも嫌だっ! 嫌だ。やだ。やだ。やだ。やだ。
ヤダヤダヤダヤダヤダ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。やだやだやだやだ。
みんなと、ウォフと離れるのは、やだ……嫌だよぉ……たすけて。
助けて、ウォフ……。
たす……けて。
そのとき、デューカスの足元近くに1本のナイフが斜めにサクっと刺さった。




