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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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278/312

僕らの旅路:旅情編⑦・港町と釣り。

水平線が見える時点でつい海だと錯覚してしまう。

リーヴ河は大陸でも3本の指に入る距離と広さだとか。


「ウォフくーん。こっちっスよ!」

「はーい」


ビッドさんに連れられ、港町の一角にある堤防に向かう。

そこには誰もいなかった。独り占めだ。いやふたり占めか。


「誰もいない。ついているっスね」

「そうですね」


僕はビッドさんの横に並ぶ。

ビッドさんは慣れたように餌を付けて釣り竿を振るう。

餌は生餌で虫だ。平然と手に持って取り付けるビッドさん。


僕も勧められて、餌を付けて竿を振るう。

僕にとって釣りはリベンジだ。


釣りはなんだったかな。一生楽しむ趣味だ。

一生楽しむなら釣りを覚えろ的なのが前世の記憶にある。


そして釣りはスローライフを象徴する。

だから僕は趣味として釣りとしたかった。


しかし2回とも行った釣りは釣果ゼロという有様。

しかも釣れるのは喋る陸ナマズや魚人間とか……そうして僕は釣りを諦めた。


だからこれはリベンジだ。

僕は今日こそ魚を釣るっ!


「た、助けっ、助けてっ」


釣ってやる。たかが魚の1匹や2匹だ。

とはいえ、釣りは待つことだ。


「わ、吾輩、溺れ、この川、深いっ」


待つ。待てば釣れる。そう待てば釣れるのだ。

チャンスを待て。大物を釣ってやる。


「今日はいい天気ですね。絶好の釣り日和だ」


そう。青い空に白い雲が流れ……夢で見た空まんまだな。

するとビッドさんの竿が反応する。


「おぼ、溺れ、溺れるっ」

「ビッドさん。竿が引いてますよっ!」

「わわっ、本当っス!」


ビッドさんは慌てて竿を握り直し、巧みな手さばきで引いて押すを繰り返す。


「し、沈っ、沈むっ」

「もう少しです!」

「いけるっス! でぇえやああぁぁっっっっ」


ビッドさんは全力で竿を引いた。大きくしなって竿は曲がり、糸の先に大物の魚が掛かっているのが見えた。宙を舞ってからビッドさんのもとにやってくる。


「おおっ!」


黒い鯛みたいな魚だ。イシダイに似ている。

だが川魚だ。イシダイにとても良く似ているが。


「クロウロコっス! やった。クロウロコが釣れたっス!」


満面の笑みを浮かべるビッドさん。クロウロコ。そういう名前の魚か。


「お、おぼっ、今度こそ、し、沈むっ」

「それは美味しいんですか」

「うまいっスよ。ウチも2回ほどしか食べてないっス」

「へえー、ホッスさんに調理……あー今は無理でしたっけ」

「でも保管庫に入れるくらいは大丈夫なはずっスよ。ツナの瓶入れていたじゃないっスか」

「それもそうだ」


とりあえずクロウロコはバケツに入れておく。

よし。僕もクロウロコを釣るぞ。



2時間後。



なんでだ。どうしてだ。釣れない。まったく釣れない。

既にビッドさんはクロウロコを2匹も釣っている。

他にも4匹も釣っている。なのに僕はボウズだ。


「あ、あのウォフくん。ウチ、思ったっスけど、レリック使ったらどうっスか」

「レリックですか」

「それで魚の位置とか分かれば釣れるっス」

「……そうですね。やってみます」


【フォーチューンの輪】は生物に反応しない。

だけどビッドさんに余計な気を使わせてしまったので使う。

すると河の中に緑の光が点在する。黄色の光も遠くに三つもある。


動きが全く無いので少なくとも魚じゃない。

船から落としたモノか。船が沈んだモノか。


「ウォフくん。引いてるっス!」

「うわぁっ本当だ!」


慌てて竿を握る。これは引きが強い。強過ぎる。

竿が折れんばかりに歪曲して、こ、これは大物だっ! ついに大物がきた!


「ウォフくん。落ち着くっス! 冷静っス!」

「は、はいっ!」

「ヒッヒッフー、ひっひっふーっス!」


それ違う。僕よりビッドさんが興奮している。なんか嬉しい。

押して引いて、押して引いて、だが妙な感覚だった。


反応がおかしいというか、手ごたえが……ない。そんな馬鹿な!

僕は思いきって思いっ切り竿を引っ張った。


獲物の重さで竿が本当に折れるぐらい曲がりに曲がった瞬間。


それは釣れた。

頭部が魚になった人間の水死体だった。

ワカメが頭に乗っている。川なのになんでだ。


「でぼあああぁぁぁっっっっ」


口から魚を吐き出していく。


「うわああああぁぁっっっっ」

「ぎゃあああぁぁっっっっ」

「アンデッドだっっ! 始末しないと!」


エリクサー仕様のククリナイフを構える僕。


「斬るっス! とにかく斬るっス!」


『瞬足剣』を抜くビッドさん。


「あばあああぁぁっっっ……」


まだ口から魚を吐く魚人間……魚人間?


「斬るッス」

「ちょっと待った」

「なんっスか」

「この魚人間……僕たちは知っている」

「魚……あっ!」


ビッドさんも気付いたみたいだ。

そうこの頭が丸ごと魚になっている怪人。僕は知っている。


知っているどころかこうやって助けるのも2回目だ。

あのときも川で溺れていた。


第Ⅰ級探索者。『海元卿』……名前は確か。


「ギムネマ……シルベスター」

「うぼああああぁぁっっ」

「ぎゃああぁっっっっ」


口からまた魚を吐くギムネマ=シルベスター。

あっクロウロコ。


それとビッドさん。剣は収めて。


















堤防近くにある食堂。

テーブル席に僕たちは座っている。


釣った魚は『スキアー・コフィン・エレ』の保管庫に入れて来た。

なお彼の口から出た魚は全部リリースした。


「いやはや、またまた助かったである」


ギムネマ=シルベスター。ギムネマさんが上機嫌で礼を言う。

通り掛かった一般男性と女性がビクっとして離れる。まあ怖いよな。


「助かったのは良かったですが、なんで溺れていたんです?」

「船から落ちたのである」

「落ちたっスか」

「鳥にサンドイッチを取られ、追い駆けたら落ちたのである。そして流されて沈んだのであるな」


第Ⅰ級探索者が鳥に翻弄されている。

ビッドさんは注文した焼き魚のオリーブ漬けを食べる。


数種類の小魚を生のままでオリーブに漬ける。それをオリーブオイルで焼く。

出来上がったモノにオリーブオイルをたっぷりとかける伝統料理らしい。

正直、オリーブオイルの味しかしない気がする。


「やっぱり、ギムネマさんもハイゼンへ?」

「左様。ハイゼンから海へ出てコッパ諸島に行く予定である」

「もぐもぐ。もぐもぐ。依頼っスか。もぐもぐ」

「そうである」


諸島ってまた溺れそうだな。大丈夫なのか。


「もぐもぐ、溺れそうっスね」

「はははっ、気を付ける。しかし、2度も助けて貰い、しかも1度目の礼もまだというのは、吾輩として心苦しい」

「気にしないでくださいよ。なんなら飯を奢るだけでもいいですよ」

「だがその程度では……おお、そうであった」


ギムネマさんは懐から何かを取り出してテーブルに置く。

拳大の青い石が入った緑色の水晶だ。

青い輝きが緑の水晶に反射して不思議な光を放つ。


ん? これって。


「綺麗っスね! でも……青に緑って」

「うむ。ブルーグリーンクリスタルという珍しい鉱石である」

「ちょっ!?」

「なっ!?」


僕たちは同時に立ち上がった。それほど驚いた。

それは『トルクエタム』の……ルビナスさんの盾を新しく強化するのに必要な素材。

『トルクエタム』はそれを手に入れる為に、ハイゼンに向かった。


それがここにある。ブルーグリーンクリスタルが、今この場にある。


「……」

「……」

「どうしたであるか」

「あっいや、その」

「そうっスね……えと、これくれるっスか」

「うむ。ぜひ貰って欲しい」

「ありがたく頂きます」


まさかこんなカタチでブルーグリーンクリスタルを手に入れることが出来るとは。

手にすると、嬉しさもあったが複雑な気持ちでポーチに入れた。















その頃、ミネハとアンナクロイツェンは思い掛けない危機に遭遇していた。








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