僕らの旅路:旅情編⑥・旅の醍醐味とツナ。
町に戻り、僕たちは『スキアー・コフィン・エレ』にすぐ帰った。
腹が減っていて、そうしたらホッスさんがパスタをつくってくれた。
チーズと肉が沢山入って大盛りで、ホッとする。
ミネハさんとシャルディナはまだ戻っていない。
ダガアは展望ルームのソファで寝ていた。
食べて飲んで風呂に入ってベッドに寝転がると眠ってしまった。
思ったより疲れていたみたいだ。熟睡する。
次の日。ダイニングルームにミネハさんとシャルディナがいた。
アンナクロイツェンさんの入れたお茶を飲んで歓談している。
聞くと昨日の夜に戻ったらしい。
ホッスさんの作った朝食を食べている。
四段のホットケーキに蜂蜜とラズベリージャム。
パン豆のフレンチトースト。スクランブルエッグ。
僕はシンプルにバター入りを頼んで、ふとこうリクエストした。
「ポテト入りのパンケーキできますか」
「珍しいもんだべ。できるだ」
ホッスさんは快く応じてくれた。
魔女は仕事場だった。今日も出て来ないつもりかな。
僕たちは話して町にはあと2日ぐらい居ることが決まった。
魔女にもドア越しに了承を貰う。何をしているか少し不安だ。
『探索者騎士団』は周辺の黒犬狩りをしていた。
町の探索者も協力し、殆ど掃討される。
そしていくら森を探し回っても、ついに悪党たちの姿を見つけること出来なかった。
2日後。早朝。
町を出ていく『スキアー・コフィン・エレ』。
朝早いのに『探索者騎士団』が総勢で見送りに来てくれた。
彼等も1週間後には町を出て、東で悪事を働く大盗賊団の討伐へ向かう。
そこには別の『ドラゴン牙ロウ』の影があるという。
どこにでも悪党は湧いて出てくる。そうピアニーさんは苦笑した。
それとまた謝罪を受けた。
最初の不遜な態度は、どうも僕の噂に起因していた。
難攻不落の攻略王だから自分も攻略されると警戒していたらしい。
攻略されるって……そんなことしないって。
大体、ピアニーさんを攻略できる男が居るとは思えない。
だけどそれで警戒しているピアニーさんは可愛いとつい思ってしまった。
「言っておくが、あのことは内緒だぞ」
「あのこと?」
「……下着の……だ」
ピアニーさんは僅かに頬を朱に染めて顔を逸らす。
「ああ、わかりました」
「触手の……回数も……だ」
「はい。わかりました」
そしてスッと前に出たハルスさんから手紙を受け取る。
「此方の願い。パキラに渡して欲しいので?」
「わかりました」
僕は引き受けた。
なお正式な依頼と、2万オーロも貰った。多過ぎでは?
「また会おう。ウォフ」
「はい。会いましょう」
僕はピアニーさんと握手して再会を約束する。
かくして僕たちはハイゼンへの旅路を再開した。
こういう出会いと別れも旅の醍醐味である。
目を覚ます。
僕は白い雲が流れる青い空を足で踏んでいた。
冷たい。これは水だ。見上げると白い雲が流れる青空。
上と下に青空という幻想風景。
「ああ、そうか。ウユニ塩湖だ。しかしなんでウユニ塩湖?」
ウユニ塩湖といえば、そうだ。覚醒水を飲んだときだ。
心の中の心象風景……でも今の僕は飲んでいない。
『…………我は静かなるモノ』
唐突に男性の声が響く。
誰だ。
『…………我は聖なるモノ』
別の男性の声が別方向から聞こえた。
2人目っ!?
『…………我は青きモノ』
また異なる方から女性の声がした。
なんなんだいったい。
『『『我ら青聖』』』
「せ、青聖……っ!?」
青聖……ん? なんかひとり足りなくないか?
「静かなるモノが消えている?」
どういうことだ。すると。
『…………我は聖なるモノ』
あっはい。
『…………我は青きモノ』
はい。
『『我ら青聖。ここにあり!』』
やり直して無かったことにしている……なんなんだこれ。
『……いずれ分かる……』
『すぐに分かる……』
なんか、分かりたくない。
『……もうすぐ分かる』
『すぐ分かる……』
「だから分かりたくないっ!!」
叫ぶと目が覚めた。
「…………夢か」
むしろ夢でしかない。
「ナ?」
ダガアが目の前に座っていた。
「おはよう」
「ナ!」
「……そうか。宿だった」
『スキアー・コフィン・エレ』じゃない。
ここは港町リーズ。大リーヴ川もといリーヴ河に連なる港町のひとつだ。
僕たちはリーズの宿に泊まっていた。
結論から言うと『スキアー・コフィン・エレ』は船に入れなかった。
キャラバンの巨馬車を貨物とする大型船でも無理だった。
僕たちがハイゼンに行くには『スキアー・コフィン・エレ』を置いて行くしかない。
それはとても勿体ない。ヘタな宿や家より快適で過ごしやすいからだ。
でも魔女はそれを分かっていた。
だから前もって『スキアー・コフィン・エレ』に船を接続して進める様にしていた。
だけどその作業が3日掛かる。なので僕たちはこのウカで足止めされている。
まあ3日だ。そんなじゃない。
この港町リーズ。ハイゼンとの橋渡しが主な収入源だとか。一応、漁業もしている。
源流であるリーヴ河は向こう側が見えないほど広大で魚もそれなりに取れる。
「ああ、でもツナがあったのは驚いたな」
初日で瓶詰のツナを見つけたホッスさんが大量購入していたなあ。
ハイゼンに滞在していたときもツナをよく使っていたと話していた。
ただ前世の記憶にあるツナと少し違う気がする。
魚の種類が違うのか。確かツナってマグロじゃなかったか。
他の魚もあったような。
まあ、いいか。
ダガアを軽く撫でる。
起きて着替えて顔を洗って宿の1階で朝食をとる。
するとビッドさんが釣り竿を持って降りて来た。
「おはよう」
「はよっス」
「釣りするんですね」
僕の視線が彼女の釣り竿に向けられる。
「そうっスね。ハイドランジアの水のダンジョン。覚えているっスか」
「あー、あれは忘れられないなぁ」
古代のジェットバイクで空中ターンして、爆破炎上させたことは今でも覚えている。
あれは酷かったなぁ僕が。
「ウチも忘れられないっス……」
腰の『瞬足剣』の柄頭に手を当ててビッドさんはポソっと言う。
彼女の『瞬足剣』はオーパーツで、レリック【瞬足】を与えた。
この剣は水のダンジョンに隠されたゴミ場で見つけたモノだ。
それと手首には僕があげたブレスレットがキラリと光る。
黒い輪に白い宝石———彼女にピッタリだ。
「それで水のダンジョンがどうしたんです?」
「あそこに釣りで有名な場所があるっス。ウチもたまに釣りしてたっスよ」
「そうなんですか」
そうだったのか。
だけど考えれば水のダンジョンだから、そういうところもあるのか。
「ウォフくん。良かったら一緒に釣り、どうっスか?」
釣りか。正直あまり良い釣果の思い出が無いんだけど。
「いいですね」
暇だし別の場所なら魚がやっと釣れるかも知れない。
それにビッドさんと一緒というのがなんだか嬉しい。
ビッドさんは顔を輝かせて、もうひとつ釣り竿を借りてくるっスと宿を出た。
戻ってくる間に僕は朝食を食べ終わらせようと貝のスープを口に運んだ。
黒パン豆を漬けるとうまい。
食べ終わる直前にビッドさんは戻ってきた。
僕の分の釣り竿と釣り道具を持っている。ありがとうと受け取る。
さあ、釣りに行こう。




