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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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274/312

僕らの旅路:旅情編③・ウォフと戦利品。

僕は仕事場のドアを丁寧にノックする。


「魔女。いいですか」

「はいはい。どうぞ。開いているねえ」

「失礼します」


開けて中に入る。

4部屋をぶち抜いた広い空間だ。

同じような作業机が3台あり大きな棚が壁際に置いてある。


本棚とスクロール棚と道具棚だ。それと木箱と樽が積んであった。

奥の3番目の作業机には剣と杖が浮いている。あれ? 光球だ。


光球が箱に沢山入って、次の2番目の作業机の上にあった。

しかもあの光球……ハイヤーンが作成したヤツだ。


仕事場の左端にはドアがある。確かあの先は魔女の寝室だったな。

仕事場の真ん中にあるテーブルとソファは魔女の家のリビングと同じモノだった。


あっ、ソファで黒猫が毛繕いをしている。

僕に気付き、ジト目でみつめる。まだちょっと濡れていた。


魔女は手前の1番目の作業机で作業中。

深く腰を下ろし、珍しく片眼鏡を掛け、机の上に浮いている籠手に何か刺している。


細長い赤と青の棒みたいなのをひとつずつ刺す。

籠手……『静聖の籠手』だよな。カタチが変わってないか?


「ああ、ああ、ホッスに頼んでいたのだねえ。そっちのテーブルに置いといて欲しいねえ」

「分かりました」


テーブルの上に置くと、黒猫が皿の上のキュウリサンドイッチを興味深そうにする。

うーん。まさか本人が居るとは思わなかった。どうしよう。


「おやおや、ウォフ少年。まだ何かコンに用事があるのかねえ?」


退室してないので魔女は片眼鏡を外して僕に向き直る。


「すみません。あの猫が」

「ふむふむ。猫がどうかしたのかねえ?」

「いや、居るなあ……居ますね」


なに言っているんだ僕。


「うんうん、居るねえ」


魔女は柔軟に笑って黒猫を見る。

黒猫は灰色のジト目でサンドイッチを凝視しているみたいだ。

おそらく具でキュウリが多いのに不思議がっているのだろう。そんな顔だ。


魔女も興味を持ったのか立ち上がってサンドイッチをひとつ手にした。

ちらっと眺めて口にする。

結構な大口で、バリバリぼりぼりと心地良い咀嚼音が魔女の唇から奏でられる。


「ニャア」


黒猫は音で驚いたのか、それとも魔女の食べっぷりにビックリしたのか鳴いた。

魔女、けっこうガッツリ食べるんだよな。


「これこれ、キュウリの食べる音が楽しいねえ」


1個めを食べ終わり2個めを手に取る魔女。

食べるペースが早い。


「気に入ったと、ホッスさんに伝えておきます」


猫の事は、まあいいか。

僕はあっという間で空になった皿を手にして仕事場を出た。


台所にホッスさんは居なかった。

代わりに……ふたつに分けた三つ編みが揺れる。

アンナクロイツェンさんが洗い物をしていた。彼女に皿を渡す。


美味しかったと伝えると優しい笑みを浮かべた。

なんかドキっとする。大人のお姉さんだ。


部屋に戻って狭い机に戦利品のナイフを並べた。


「おっ、ソードブレイカー」


しかも2本も……それぞれ別々の形状だった。

1本目は包丁みたいなカタチだ。2本目は折り畳み式だ。


「しかしこれ本当に使えるのか……?」


カエデさんの刀には逆にバキバキと折られた。本当に使えるのか。

僕はなんとなく戦利品のナイフをてきとうに選んだ。


1本目のソードブレイカーを重ねる。

刃をブラシ状になった刃物の隙間に入れる。

隙間はある程度は空いていて刃物を絡めるにはちょうどいい。


「このままテコの原理で」


バギィ……ナイフが折れた。

いとも簡単に折れた。


「…………」


僕はナイフブレイカーを置く。折れたナイフは【バニッシュ】した。

気を取り直して別の戦利品のナイフを確認する。


押収したナイフはえーと……11本。

殆どの悪党が持っていた。あいつら。ナイフ好きだな。


それとも人質用にいつも持っているのか。

11本のナイフで状態が良いのは3本しかない。


まあまあの状態のヤツは整備して予備に残す。3本くらいかな。

刃こぼれしていたり錆びていたり血とかの汚れが凄かったりのは【バニッシュ】だ。

それと毒が塗ってあるのも【バニッシュ】だ。5本も処理した。


「これは、変わったナイフだな」


それは鏃のような刀身で真ん中に丸い穴があいていた。

柄は木製で丁寧に油を塗っている。使い込まれているが手入れもされていた。

大事に扱っていたような気がする。


「サーベルのような刀のような」


大きく反った片刃だ。ソードガードが付いている。

使ったような形跡がない。あるいは手入れを丁寧にしているのか。


「ナイフっていうより……錐かな?」


先端が太く鋭く針の様になっていた。

うん。これはナイフじゃ……うわっよく見たら周囲が刃物になっている。


「判断に困るなぁ……」


思わず苦笑する。あっそうだ。

僕は壁に掛けられているナイフベルトから『果物ナイフ』を手にした。


造りはどこにでも売っている果物ナイフだ。

鞘は割れたので果物と花柄の可愛らしいのに取り替えたばかりだ。


この方が『果物ナイフ』という感じが強くなる。

鞘から抜くと、その刃は小さいが木目のような模様があった。


「よし」


『果物ナイフ』を持って部屋から出た。

台所に行くと、アンナクロイツェンさんが洗った食器を片付けている。


「あの」

「…………」


振り向いた。きょとんとしながらも笑顔を向ける。

アンナクロイツェンさんって基本的に笑顔だけど、いくつも笑顔があるんだな。


「良かったらこれ使ってください」


僕は彼女に『果物ナイフ』を渡す。

アンナクロイツェンさんは困り笑顔で僕と『果物ナイフ』を交互に見る。

「本当に良いの?」って表情が言っていた。


「切れ味は悪くないので、これで果物とかを切ってみてください」

「…………」


僕がちょっと強引に渡すと、アンナクロイツェンさんは戸惑いながらも受け取った。

頷いて僕に照れたような柔らかい笑みを向ける。


ありがとう。そう感謝された気がした。


そして『スキアー・コフィン・エレ』は無事に町に到着する。

町に入らず外壁付近に止まった。そこには野営地があった。


白い巨馬車が6台も並んでテントと天幕が張られている。

『探索者騎士団』だ。


魔女が先に降りて探索者騎士の数名と面会し、あの『荷物』を引き渡す。

何事も無く渡せてよかった。


僕たちは天幕に案内された。

ちなみに探索者騎士団と接触したのは、僕。魔女。ビッドさん。


留守番はミネハさん。ホッスさん。シャルディナ。アンナクロイツェンさんだ。

おっとダガアもそうだった。そういえば黒猫の姿が無い。


それにしてもこれが『探索者騎士団』の騎士か。

胸部に大きく黒い線の入った白鎧に黒いマント。

いかにも騎士って感じで探索者らしくは無い気がする。


ただ強い。誰も彼も強者の空気を出している。

探索者の秩序。『探索者騎士団』か。


天幕で少し待つと、ゴージャスな女性が現れた。

そうゴージャスだ。


金と銀が混ざってキラギラと光り輝く長髪。燃えるような火炎を秘めた黄金の瞳。

凛として麗しくも雄々しい顔立ちは、自然と圧倒される激しい美しさがある。


燃え光る黄金の眼差しは刀身の鋭く斬れる輝きも宿していた。

毛皮付きの赤いマントを羽織り、獅子を象った真っ白い鎧を身に纏っている。


間違いない。このひとが『探索者騎士団騎士団長』だ。


まるで燃え上がる黄金の薔薇みたいだな。

魔女を見ると笑顔をみせる。


「久しいな。魔女!」

「おやおや、そうかねえ。ピアニー」

「ところであの異様な巨馬車はなんだ?」

「あれはあれは、コンのプライベート専用なんだねえ」

「まったく相変わらず奇抜なモノを造る。それで……」


僕を見た。何か思案するような困ったような目つきになる。


「魔女の弟子か……」

「始めまして。ウォフです」

「……探索者騎士団の騎士団長を務める……ピアニー=モンクシュッドだ。姿は知っているが、こうして実際に会話をするのは初めてになる」

「僕に見覚えが?」

「アルヴェルドのときだ」

「あれですか」


あの勝負を見学していたのか。


「……素晴らしい勝負だった」

「ありがとうございます」


なんだろう。ピアニーさん。一歩、僕から引いて妙に警戒している気がする。

初対面だよな? 


「それでそれで、どういう事態なのかねえ」

「ああ、それについては」

「それについては此方が説明しますゆえ?」


天幕に現れたのは黒髪黒猫耳の少女だった。

長い黒尻尾をふよんっと揺らし、灰色のジト目で僕をみつめる。


間違いない。風呂場で遭遇したあの少女だ。



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