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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season4

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272/312

僕らの旅路:旅情編①・それぞれの違いとミンチ。

3日後。

突然、『スキアー・コフィン・エレ』が急停止した。

森の中の道の途中だ。


「おやおや、おや、何か起きたのかねえ」


魔女がカードを揺らしながら呟く。

2階の最後部の展望ルーム。

景色を眺めながら僕たちは午後のティータイムの余興にカードゲームをしていた。


1位抜けしたダガアと2位抜けのミネハさんはソファで寝そべっている。

僕とビッドさんと魔女で戦っていた。なお僕は3位で上がれそうだ。


前面ガラス張りに流れていた森林の景色が止まったから急停止に気付けた。

ミネハさんがクッキーを齧って尋ねる。


「どういうことで止まるの?」

「そうだそうだねえ。前方に何か障害物があれば停まるねえ」


それはそうよっとミネハさんがぼやく。それはそうだ。

しかし前方に何かあるってことか。魔女はカードを置く。


「まあまあ、確認すれば分かることだねえ」

「僕も行きます」

「アタシも行くわ」

「ウチは待っているっス」

「ナ?」

「ではでは、見に行くのはミネハとウォフ少年のふたりだねえ」

「えっ、魔女は?」

「あんた。行かないの?」


僕たちの疑問に魔女はフッと笑う。


「ではでは、コンは報告待っているねえ」


行かないみたいだ。

僕とミネハさんは見合わせて苦笑いする。

まったく率先して言ったのは魔女なのにな。


何があるか分からないので部屋で準備する。

ふと思い出すのが籠手だ。


旅立ちの日に渡される『静聖の籠手ニューバージョン』は最終調整中。

今『スキアー・コフィン・エレ』の2階の魔女の仕事場に置いてある。


なんでも当初予定していた素材が手に入らなく、別の素材で作業をしていた。

ところが予定していた素材が偶然、別のルートから手に入った。


それで作業を中断して別の素材を抜き、予定していた素材に入れ替える作業をする。

そのことがあって渡すのが遅れに遅れてしまったらしい。


いったい何の素材なのか。そこまでの手間をして組み込みたい素材。うーんコワイ。

準備が終わって出るとミネハさんと合流する。


「なんだべ」


ホッスさんが部屋から出てきた。窓の景色が止まったからだろう。


「外に何かあって止まったみたいです」

「障害物?」

「そうね。アタシとウォフが確認しに行くわ」

「オラも行くだ。ちょっと待つだ」


ホッスさんは部屋に戻り、ハルバードを手にする。


「よし行こう」


外に出る。

ここは森の中のキャラバン路の上り専用だ。

周囲を森林に囲まれていて、下り専用は右側の森林の向こう側にある。


正面に横転した馬車があった。車輪が外れて転がっている。


「……おかしいわね」

「んだば」

「変ですね」


横転しているのは普通の馬車だ。

だがここはキャラバン路。巨馬車専用の道だ。


緊急時や例外を除いてキャラバン路に普通の馬車が入ることは禁止されている。

これはこの国の法律ではなく国際法でしっかりと定められている。


僕は、とりあえず【危機判別】を使った。

横転した普通の馬車に赤い点がふたつ。右側の木々に複数の赤い点。

軽く数えて10は超えていた。大層なもんだ。


僕はふたりに耳打ちする。ふたりも予想していたみたいだ。

それはそうか。あからさますぎる。


「それでどうするべ」

「無視してもいいわね」

「いや片付けておきましょう。僕たちは良くても被害者が出るのは嫌です」

「それもそうね」

「んじゃ、やるべ」

「先手は僕がします」


ふたりは頷いた。僕は【深静者】を使う。

光のポインターを馬車にロックオンして―――放つ。


「【バニッシュ】」


横転した普通の馬車が消し飛んだ。2人のいかにもな悪党面が姿を現す。

だがそいつらは無視して僕はマジックナイフを左側の木に、赤い点めがけて投げた。

木にナイフが刺さった瞬間、僕と入れ替わる。


【ナイフマジック】のチェンジングだ。

目の前に僕が現れて驚く剃髪の小悪党面。ザワッと左側の木々が一斉にざわめく。


だが遅い。僕は【バニッシュ】を剃髪に繰り出した。

身体の一部を消失させ倒れて泣き叫ぶ小悪党面。

異様な事態にさすがの彼等も姿を現した。


「ハゲのヘンリー!?」

「てめえぇらっよくもハゲのヘンリーを!」

「ぶっ殺してやるぅっ!」

「ハゲのヘンリーの仇だぁっ!」

「おう。こいつら。男だけやっちまえぇっ!」

「女は捕らえろ。あれは、うぉっすげぇっ」

「マジかよ……今までで一番じゃねえのかっ!」

「ついてるぜぇっ! すっげえ、ついてるぜっっ!」

「あの女は俺のもんだあぁぁっ」


ミネハさんに殺到する男たち。ミネハさんの眼のハイライトが消えた。


「『妖星現槍』……スターレイン!!!!」

「ぎゃあぁっ!」

「ぐあぁっっ!」

「ぎゃああぁぁっっ!」

「ぐぎゃああああっっっっっ」

「ぐはわぁぁばぁぁぁっっっっ」


螺旋回転する三角形のドリルと化した『星』が降り注いで男たちを倒していく。


ふと僕は疑問に思う。

こいつらは山賊なのか野盗なのか盗賊なのか。


このまま右側に行くと山がある。

配置的に彼等のアジトが山にあってもおかしくない。

つまり彼等は山賊か。


いいや。野に潜む賊だから野盗だ。

それとも単なる盗賊なのか。


「オラの一刀断魔だあぁっ!」

「ぐはあぁあっ!」

「な、なんだこいつら。ぐげぅっっ!」


ホッスさんのハルベルトの一撃でまとめて3人ほど斬られた。

あれは風の一刀断魔だな。


「なんなんだてめえらはっ」


怯え声で虚勢を張るひょろ長の男。僕は嘆息した。


「旅の者ですよ。困るんですよ。せっかくの旅行が台無しじゃないですか」


あれだ。雰囲気がとてもいい民宿でゴキブリを見た感じだ。

僕は新しくアリファさんの店で購入したナイフを手にしている。


先端が斧の刃みたいに弧を描いてエッジが効いた大振りのナイフ。

前世の記憶にあるナスカとかインカ文明の装飾っぽいのが刻まれていた。


アリファさん曰く南の部族の儀礼用ナイフらしい。

切れ味抜群で使いやすい。何の儀礼かは聞かなくて良かった。


悪党連中は、レリック持ちが意外に居たけど楽勝だった。

ただ彼等の整っている装備や武器や戦いに慣れているところ。


おそらく探索者崩れだと推測できる。あるいは元探索者か。

それと現役の探索者も混じっているかも知れない。


ただ強さから推測すると階級は低い。

第Ⅵか第Ⅴ級が殆どで第Ⅳ級は居ないだろう。


倒したときの後片付けもして、彼らの遺品も貰っている。

フッフフフッッ、またナイフが増えたぜ。


やっていることは彼等と同じじゃね?っと思うときがある。

でも彼等はそれを犯罪と知っていて故意でやっている。


僕たちは犯罪だから人として最低だからしない。

襲ってきたから倒した。襲わなければ倒さない。

だから彼等とは違う。


「……俺をどうするつもりだ……」


独りだけ僕たちは生かした。リーダーと思われるヤツだ。

彼を連行してキャラバン路に座らせる。


「アジトはどこ?」


ミネハさんが質問する。生かした理由は情報を得るため。それだけだ。

後顧の憂いは断つべきなので彼等を殲滅することにした。

魔女たちには事後連絡になるが、反対しないだろう。


リーダーっぽいヤツはミネハさんを見た途端、とても下品な笑みを浮かべた。

女に絶対にモテないヤツだけが出来る好感度マイナスの嫌悪な笑みだ。


「おいおい。おい。なんだぁこの極上の娼婦は? 参ったなぁ。こいつは今までで一番の獲物じゃねえかぁ。なあ蜂蜜の髪をしたドエロ女。おれとドスケベしようぜ」

「うわっ、殺す」

「気持ちは分かるだ」

「それでアジトはどこにあるんです」

「そのどうにもすこぶる勃起してバキバキに痛くなるほど滾る女をくれたら教えてやるぜ」


舌をチロチロ出して下劣に言う。


「よし。殺す」

「気持ちは分かるだ」

「アジトはどこにあるんです」

「へっへへへっっっ、だからよぉ、その今にも入れて一晩中どころか3日3晩ぐれえしたくてしたくてたまらねえ蜂蜜髪の妖艶淫婦をくれるなら答えるって言っただろ。おい。ガキ。聞いてんのかてめえ」

「うん。ウォフ。もう殺す」

「気持ちは分かるだ。あとそれだとウォフを殺すように聞こえるだ」


まあ分かっていたけど、この男、コイツ。俺たちをかんぜんに舐めている。

言ったら殺されると思っているんだろう。その通りだけど。


「ふたりとも。ちょっと見張っててもらえますか」


コイツの指を1本ずつ【バニッシュ】してエリクサーで回復の無限ループを考えた。

だけどたぶん精神が崩壊するので、もっと有効な手段をとることにする。


「いいけど」

「分かっただ」

「なんだぁ? どこに行くんだ。逃げるのか。所詮はガキがよぉ。てめえみてえのが一番イラつくんだよ。何もできねえ雇い仔が偉そうにしやがって」

「ええ、そうですね。なので魔女を連れてきます」

「はぁ? 魔女?」

「僕、魔女の弟子なんですよ」

「はあ? いや待て。さっきウォフとか」


無視して『スキアー・コフィン・エレ』に戻る。

展望ルームでひとりくつろぐ魔女に話をすると、愉しそうに立ち上がった。

ビッドさんはダガアを連れて入浴に行ったと聞いた。


リーダーっぽいヤツの前に魔女を連れてくる。

彼は魔女もミネハさんと同じように舌なめずりしようとしたが。


「ままままま、まままま、まままま、蓋世の魔女……っ!?」


ガタガタっガタガタガタガタガタガタっと顔を青くして怯えて震え出した。


「おやおや、そうだねえ。魔女だねえ」


魔女は蠱惑的な笑みを浮かべている。


「な、ななな、なんで、こんなところにいやがるんだぁっっ!! ハイドランジアから二度と出て来ねえって聞いたぞぉっ!?」

「いやいや、そんなわけないねえ」


リーダーっぽいヤツは逃げようとした。すかさずホッスさんが取り押さえる。


「や、やめろっ、放せぇっっ、離せえぇぃっっ、来るなっ来るなっ! お、おれは昔、魔女に手を出そうとした連中が、あの連中が、一瞬でミンチになるのを見たことがあるんだっっ!!」

「おやおや、おや。そんなこともあったかねえ」


魔女は覚えていないみたいだ。ミネハさんは呆れる。


「一瞬でミンチって、なにしたの?」

「ふむふむ。まったくコンは覚えてないねえ」


一瞬でミンチは否定しなかったな。


「分かった。分かった。おれが、俺が全部なにもかも悪い! アジトも何もかも全部言うっ! だからミンチだけはぁっっ!」

「ミャア」


そのとき猫がきた。

一匹の尻尾がとても長い黒猫だ。

あれ、この猫。


「猫?」

「猫だべ」

「あ? 猫だぁ?」

「あのときの猫だ」


そうだ。闘技場跡で出るのを助けてくれた猫だ。

間違いない。この長い尻尾が何よりの証拠———なんでこんなところに居るんだ?


「ニャア」

「はてはて、この子はピアニーの飼い猫じゃないかねえ」

「フシャアアァ」


言うと黒猫は魔女に威嚇する。


「ピアニーって探索者騎士団の団長よね」

「その飼い猫だべか」

「探索者騎士団……っ!?」


リーダーっぽいヤツの顔色がまた青冷める。


「ふむふむ。とりあえずそいつは捕縛しておこうかねえ」


魔女はポーチから色々取り出してリーダーを縛り目隠しして猿轡をする。

手慣れているなあ。魔女は器用だからそう見えるだけかも知れない。


いや、やっぱ手慣れている。

拘束するとホッスさんが担ぐ。


「どこに置いておくんべ」

「うーむうーむ。物置かねえ」

「だば、放り込んでおくだ」

「んー、んーんーんーんーっっ!!」

「ではでは、戻るとしようかねえ」

「ニャア」

「猫も?」

「ニャア!」

「みたいね」


こうして荷物と猫が加入して、『スキアー・コフィン・エレ』は動き出した。

荷物は用が済んだらすぐ捨てる予定だ。



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